125 ※市成視点
ようやくこの日が来た。戦争がはじまってどれくらい経ったかなんて覚えていないけれど、沢山の魔族を殺して、殺して、殺して、殺して。
オレが真に勇者として、英雄として讃えられるまでもう一息というところまで来た。
たくさんの村を潰して、町を潰して、都市を潰して。
残る集落はあと1つ。ニゲル国王都のみ。
ステータスはすでにすべてが300を超えている。400に届こうとしているものもあるくらいだ。
かつての勇者が250という事は、すでにオレの強さはその勇者を越えたことになる。
強さだ。強さだけが、オレに残されたものだ。
だが、強さこそがこの世界の全てだともいえる。
強ければすべてを肯定され、強ければ待遇が良くなる。
戦争がはじまって以来、オレ達の扱いは悪いものではなかった。
最前線で戦う必要はあったが、本陣にまで戻れば高待遇で迎え入れられた。
多くの兵士に称賛された。
そう。強さこそが、オレだと言える。
強くなったオレを避けるクラスメイトのことなどもう知らない。
弱いまま、勝手に死んでしまえばいい。
月原だけは認めてやらないこともないが、すでに月原ですらオレには勝てないだろう。
それに避けるようになったという事は、オレを責める奴もいなくなったという事だ。
通山を殺したことをだれも否定しなくなったという事だ。
あえてこちらから近づかないだけで、オレが頼みごとをすれば誰一人嫌だとは言わないだろう。
万能感さえ与えてくれる絶大な力を手に入れた。
もう誰にも負けることはない。あの通山にだって負けることはない。
あの時、オレの求めを無視したことを絶対に後悔させてやる。
だけれど、それはまた後での話だ。
今はこの戦争を終えなければならない。
戦争にさえ勝てれば、オレは英雄として王族も無視できない存在になるだろう。
いかに奴隷として縛っていようとも、オレを雑に扱えばそれだけ兵が、民衆が、王族に悪感情を持つことになるから。
それはこの戦争におけるオレ達への待遇で理解している。
そう言えば、少し前からトパーシオン殿下がやってきていたな。
確か兵士の士気を上げるためだったと思うし、確かに王女が来てから兵たちの士気は上がった。
その時に、オレ達にも労いの言葉をかけていたけれど、正直寒気がした。
城にいた時にはまずありえない事だったし、厭味の1つでも言われるものだと思っていたから。
しかし表面上だけかもしれないが、労ったのだ。
だからここが、オレの人生の転機。まずはこの固く閉ざされた門を壊すところから始めよう。
いや、門である必要はないな。壁を壊そう。
「せりゃああああ!」
力を込めて、王都を囲う壁を殴る。
手加減なしに行ったそれにより、壁に穴が空き、そこを起点にガラガラと音を立てて壁の一角が崩れた。
それに伴い、土煙が舞い上がる。
土煙が収まり始めた時、この戦いが始まりを告げる。
最初にクラスメイト達が、それに続いて兵たちが崩れた壁からニゲルの王都に突撃を始めた。
魔族たちは門の方へと集まっていたため、これで不意は突けただろう。
今回の戦い、勇者達はすべてを薙ぎ払いながら、真っすぐに王城を目指せばいい。それにはトパーシオン殿下もついてくるらしく、何人かはその護衛に回っている。
そして、敵の王――魔王――を討てば一応勝ちだ。
そのあとは、王都にいる魔族をすべて倒す殲滅戦に移行するらしいが、ともかく魔王さえ倒せば真の勇者としてオレの人生が大きく変わるはずだ。
誰にも文句を言わせることなく、確かに必要な存在としてフラーウスで生活できるはず。
只の魔族など、今更物の数には入らない。
一度剣をふるえば、数人の胴が吹き飛び、魔法を使えば消し炭になる。
それでもわらわら集まってくるので面倒だけれど、手柄を自分の物にするために突き進む。
城に近づくにつれ、魔族が身に着けている鎧が強そうなものになってはいるし、武器も変な形をした剣になってはいるけれど、オレを止めるには全然足りない。
討ち漏らしても、後ろから来る奴らに任せればいいというのもある。
ただただ城を目指すと、とうとう強そうなやつが現れた。
ちょうど王城の目の前。その入り口を守るように一人の女性が立っている。
真っ赤な目と浅黒い肌。魔族の特徴を色濃く見せるドレス姿の女性。
見た目は美人だけれど、魔族である以上こいつは殺すべき敵だ。
「こんなに早く来るとは驚きじゃな」
女性が全く驚いていない様子でそんなことを言う。
それにしても現実にこんな話し方をする女性がいるとは、なんて変な世界だろうか。
まぁオレに分かればいいのは、この女が魔王かどうかそれだけだ。
「お前が魔王か?」
「余が魔王様であるはずがなかろう?」
「じゃあ、魔王はどこにいる?」
「さてな。こちらに近づいてきておるのは分かるが……」
「何故王が城にいない? 戦争中だぞ?」
「ああ、なるほどの」
女性が何かに気が付いたように手を叩く。
「お主が言うのはニゲル国の王か。それなら余がそうじゃな」
「その割には一人なんだな?」
「余は強いのでな。基本的に一人なのじゃ。足手まといがおっても役に立たんしな」
「それは同感だな」
確かめるまでもなく、この辺りで一番強いのはこの女だ。
ステータスが分かるわけではないが、そんな雰囲気がある。
おそらくオレ以外では倒すことはできないだろう。
まさにオレにふさわしい相手だ。
出来れば、もっと雰囲気のある場所にいて欲しかったものだが。





