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 接触したらなんて話だったけれど、そのときはすぐに訪れた。

 なんと言っても、そう思った数十秒後だ。


 僕を見て固まってしまった文月に藤原が話しかけ、文月が何かを伝える。

 その後藤原も一緒にこちらをみたかと思うと、近づいて話しかけてきたのだから。


「こんにちは」

「何用で?」

「ふじ……ミチヒサ君。急に話しかけたら悪いよ」


 藤原に軽い挨拶をされたので、どう返していいのかわからなくなった。

 それが僕の気に障ったのかと思ったのか、文月があわあわと藤原を止める。

 名前呼びなのは、この世界の平民には名字はないからだろう。

 文月が鑑定を使えるので、そのあたりの人に使って気が付いたのだろうか。その流れだと、会う人会う人に使っていそうだ。


 情報収集は大切。スキルが珍しいこの世界において、王族とかでもない限りは、鑑定対策とかはしていないだろう。

 とはいえ、どこかでぼろが出そうな困惑具合だ。


「俺の名前はミチヒサ。一緒にいるのはユメ。君の名前は?」


 んー、名前を告げるべきかどうか。

 どうせ文月には見られているだろうし、隠す必要もなさそうだけれど。

 元クラスメイトに対して、どう言った対応をすべきかわからない。

 見た目年上になるので敬語の方がいいのか、普段通りの言葉遣いで行くべきなのか。


 ちょっとだけ考えてみたけれど、面倒臭いので敬語で統一することにした。敬意とかないけど、波風も立たない。


「フィーニスです」

「フィーニスちゃんね」

「フィーニスです」

「フィーニスちゃんは……」

「フィーニスです」

「フィーニスは」

「何ですか?」


 元同級生の「ちゃん」呼びはさすがにNG。

 ちゃん呼びそのものは気にしないのだけれど、死ぬ前の感覚が強くでているのか、小馬鹿にされているような感じがする。


「フィーニスは一人で冒険者をしてるのかい?」

「そういうすきる? 持ちなのです。ですから、勧誘は受け付けません」


 冒険者と断定したのは、僕が弓を背負っているからか。それとも、ステータスを見て判断したのか。

 何にしても話しかけてくる流れ的に勧誘という感じではなかったけれど、会話の持ちかけられ方的に、ほかに返しようがない。


「それよりも、そっちの人は何だったんですか?

 急にじっと見られたんですけど」

「ああ、それで声をかけたんだ」

「はぁ……?」


 この2人が何を考えているのか少しわからない。

 文月が僕のステータスを見て、何かを感じたのだろうけれど。

 でも僕のステータスは、何の変哲もないと思う。


 まあ、話を聞けばわかるか、と思って待っていたら、藤原の表情が急にまじめになった。

 こんな道ばたでまじめな話をおっぱじめないでほしい。


「フィーニス。君は何者なんだい?」


 これはこちらに何かあると確信している感じの言い方かな?

『偽装』であの水晶を騙せることは確認済みだけれど、『鑑定』は違ったのかな?

 いや、見破られたなら「何者か」なんて問わないか。


 書いてあるもの「亜神」って。


 とはいえ、僕に何かがあるのは疑われているらしい。

 でも、最初はあえてこう答えることにした。


「一般通過町娘ですよ?」

「いや、普通の町娘はそんな弓持ってないって」

「一般通過町娘のフリをしている、ただの狩り好き娘です」

「うん、まあ……」


 藤原がとても不満そうにこちらを見る。

 そうだろう、そうだろう。聞きたいのはそういうことではないだろうから。

 僕に対して得体の知れなさを感じ取ってしまった以上、いまの言葉で納得できる方がおかしい。


「ところで、僕のことをずけずけと聞いてくると言うことは、こちらの質問にも答えてくれますよね?

 例えば、どうして髪の色を変えているのかとか、瞳の色を変えているのとか、スキルを持っていますよねとか」


 名前違いますねとか、何でお城にいないんですかとか。

 さすがにここまで話すと警戒が強くなりすぎそうなので、言わない。

 いまあちらが与えてくれた情報だけを抜き出せば、このあたりが妥当だろう。


 それなのに、驚愕の表情を浮かべられても困る。


「どうして……」

「まあ、ここで話すような内容ではありませんし、どこかのお店にでも行きますか?」


 そういって、二人を連行する。

 黙って付いてきてくれるので、行きつけのお店に行くことにした。





「おじさん個室空いてますか?」

「よお、フィーニスちゃん。後ろのは冒険者の有望株か。

 個室は……空いてるな一番奥のところだ」

「じゃあ、いつもの3人前で!」

「いつもって、まだ数日だろう? まあ、了解だ」


 馴染み(数日)の食堂に行って、個室を借りる。

 食堂で個室と疑問に思ったこともあるが、冒険者が居る以上個室があった方が儲かるらしい。

 作戦会議とか内密に話さないといけないことも多いのだろう。


「仲がいいん……ですね」

「っぷ」


 藤原が急に敬語で話すので、思わず吹き出してしまった。

 (亜神)をロリ婆か何かと勘違いしていないだろうか。

 相変わらず、文月は文月で、おどおどしている。


「普通に話して良いですよ。別にとって食おうというわけではないですし。お肉付いていなくてまずそうですし」

「ひいいぃぃ」

「食べませんって」


 お茶目を言ったら文月におびえられた。

 ちょっと、おびえすぎではないだろうか。クラスでもそうだったか?


「フィーニスちゃん、良いかい」

「はーい。お願いします」


 食堂のおっちゃんが来たので、声をかけて扉を開ける。

 手にあるのは、いつもの()()()()()()

 何の肉かはその日次第。というか、僕の狩り次第。

 おっちゃんは僕の依頼主。冒険者は魔物を狩る人は多いけれど、動物を狩る人は少ない。


 そもそも動物を狩るのと、魔物を狩るのとではジャンルが違う。

 魔物はこっちを狙ってくるけれど、動物は一部を除いて逃げる。

 冒険者はつっこんでくる獲物を狩るのは得意だけれど、逃げる獲物を狩るのが得意な人は少ない。


 剣とか槍とかで戦っているわけだから、さもあろう。


 それに魔物も食べられる奴が居るから、食べるために動物を積極的に狩る必要がない。

 オークとか美味しいんだとか。


 しかし、それで動物需要がなくなるかと言われると、そうでもない。

 ドラゴン肉はドラゴン肉で美味しいけれど、たまにはイノシシも食べてみたい。それが人間の食欲という奴だ。


 ということで、緊急性はないけれど依頼が出され、たまに達成されたものが食堂とか肉屋で出される。

 家畜は魔物に襲われる可能性が高いので、王都に近づかないと――安全な場所ではないと難しいんだとか。


 で、依頼をこなしたときに、食べさせてもらって以降、こうやって遊びに来ている。ジビエって奴もなかなか美味しいものだ。


 というわけで、今日は殺戮熊に襲われたときに倒したイノシシが運ばれてきた。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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