119 ※女木視点
変わり果てたフラーウス王が断頭台に連れてこられる。
そこから先は何と言うか、舞台でも準備するかのように乱雑に国王をセットした。
国王は特に抵抗するわけでもなく、狂ったように目をギラギラと光らせている。
それは見ているだけで、こちらの正気を削ってくるかのようで正直気持ちが悪い。
だけれど1つの国の終わりを見届けるために、目を逸らす気はない。
ボクと磯部君がそれなりに時間をかけて仕組んできた仕掛けの最終章。
まるで完成したドミノを倒すかのような、なんとも言えない気持ちになる。
磔にされた王族の様子も聞きはしたけれど、簡単に言えば王族全員石を投げられていたらしい。
それこそ女性である王妃や第二王女ですら、その顔の形が変わるのではないかと思うほどの石が飛んできたのだとか。
つい何か月か前まで良き王族だと讃えていたというのに、人はこうも簡単に手の平を返せるものなのか。
そう言うものだと思っていたからこその作戦だった、と言えばそれまでだけれど。
そんななんとも言えない気持ちのボクとは対照的に、この国の民たちの興奮はどんどんと高まっている。
手段はともかく、この国の事を真に考えていた王族だったはずなのに。
でもまあ、ボク達には関係ないか。
「皆、今日はよく集まってくれた!
古いフラーウスが終わり、新たなフラーウスが始まる瞬間に、よく立ち会ってくれた!
早速悪しき王族を……と言いたいところだが、1つ言っておかねばならぬ事がある。
今日、この場に来られなかった勇敢なるもの達のことだ。
激戦に勝利し、王を捕らえることは出来たが、そのさなか卑劣にも毒を使い、我らが同胞を道連れにした。
だからこそ王族を磔にし、少しでも無念を晴らしてもらえればと思っていた。
やり足りないと思うものも居るだろう。だが悪しき王族をいつまでも生かして置くわけにはいかぬ。
王族の首を落とし、それを晒すことで彼らへの手向けとしたい。
では、皆よ。新たな世界の幕開けに歓声を!」
ボクが思考を巡らせている間に、何とも白々しい演説が聞こえてきた。
勇敢なるものを殺したのはお前だろうに。
ボク達はそんな指示をしていない。いや、正確にはそこまでの指示は出していない。せいぜい、寿命が半分になる程度のものだ。
どのみち世界が崩壊するのだからと、教えておいたはずなのだけれど、あんな風になるとは思っていなかった。
おかげで成功したとは言え、気分は悪い。
心の中で悪態をついている中、断頭台の刃が落とされた。
ほんの一瞬。瞬きする間に刃はその動きを止め、ごろりと国王の首が転がる。
同時に周りから新たに歓声が上がる。
それをまるで狂気にでも取りつかれたようだと感じるのは、正しい感覚なのだろうか? ボクの方が狂っているのだろうか?
腫れた顔で涙を目にためながら、おびえた様子の第二王女の首が落ちた時も、無念と言わんばかりに地面しか見ていなかった第一王子の首が落ちた時も、何の感情も見えなくなってしまった王妃の首が落ちた時も、周りでは歓声が上がっていた。
この状況を作り出したボク達が言えたことではないのだけれど。
戦場に行っているトパーシオンを除いた全員の首が落ち、まるで祭りのように人々が散って行く。
ボクはその場を動かず、隣にいる磯部君に聞こえるような音量で「終わったね」と声をかけた。
それに対する返事は「ああ」という短いもの。
あっけなかった。あっけなく終わった。
達成感がないわけではない。嬉しさがないわけではない。だけれど今は何だか、それを表に出せる気がしない。
「帰ろうか」
「帰るってのも変な表現だけどね。俺たちには帰ると言える場所はない」
「それもそうか。でも、後は待つだけで帰れるかもしれないよ」
「それもそうだ。じゃあ、帰るための準備をしよう。トパーシオンが捕まった後も、同じ事になるかもしれないし。
隠れ家とここまでの移動を安全に出来るように、計画を立てておかないと」
確かにそうだ。終わったようでもう少しだけ残っている。
ボク達にとってのすべての元凶と言っても良い、そんな存在がまだ残っている。
だとしたら、気持ちを切り替えよう。
確実にトパーシオンを捕らえるための方法を考えなくては。
「じゃあ磯部君。もう少しだけ頑張ろうか」
「少しで済めば良いけどね。後の時間を引きこもっていた方が安全だと思うよ?」
「そうだろうけど、復讐はしたいじゃない?
この世界に思うところはないけれど、トパーシオンの最期を見られたはずなのに、見られなかったとなるのは、心残りになりそうだしね」
「はいはい。物好きだね。本当は人が死ぬところなんて見たくないくせに」
「ボクは現代日本に生きる一般人だからね」
魅了する事はあっても、人を騙すことはあっても、人が死ぬというのには慣れたいと思わない。
崩れゆくこの世界の一般になろうとも思わない。
言ってしまえばただの意地で、自分の気持ちをごまかしている、そんなただの一般人だ。





