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「ようやくだ。ようやくここに辿り着いた、国王よ」


 もがもがとしか話せない国王にアル父が厭味たらしく話しかける。

 国王にできることと言えば、横目に睨むことくらいか。

 話の邪魔をされないからか、アル父の口が滑るように言葉を紡ぐ。


「長かった。長かったとも。娘を送り込み情報を探りながら、雌伏してどれくらいになったことか。

 アルクスが死んだと聞いた時、その役立たずっぷりに思わず激高してしまったが、今思うとアルクスが死んでくれたことで、この道へとつながった。

 我が最愛の娘に、最高の称賛を与えようじゃないか。よくやった。良く殺されてくれた」


 やっぱり、そんな感じの人だったかぁ……。

 数%くらいは、本当に今の王族が正しいことをしているのかと疑問に思っての行動だと思っていたのだけれど、その可能性はなくなりましたとさ。

 本当に「良く殺されてくれた」なんてセリフが聞けるとは思っていなかったけれど。


「そうだ、そうだ。先ほども言ったが、残る王族は本当にトパーシオン王女のみ。

 王が逃がそうとしたリーグルス王子もすでに我らが手中にあることを、教えておいてやろう」


 アル父の言葉に国王が怪訝そうな顔をする。


「滑稽だ。実に滑稽だ。まるでこの城にいる者が全て自分の味方であると考えているような、間抜けな顔だ。

 いや、王族の手腕は素晴らしい。すべてと言わないまでも、その多くを王族派で埋め、私が関与する隙を与えなかった。

 しかも私に野心があるとわかるや否や、監視の目まで敷いてきた。実に実に素晴らしい。敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。

 だが、その牙城が徐々に切り崩されていたことに、ついぞ気が付かなかったようだな」


 国王が何かを言いたそうに、もがもがしている。

 でも何も言えない。

 正直、おっさんの呻き声を聞かされても困るのだけれど、状況的に仕方ないか。


「そんなことはないと言いたげだが、ここまで手引きをしたのは王城の者よ。

 宰相の腹心たる男が我々をこの部屋まで導いてくれた。王家に仕えるのに飽き飽きしたそうだ。

 使用人の多くも、すでに王族を見限って新たな主人へと忠誠を誓っている」


 国王の目が大きく見開かれる。

 嘘だと言いたいが、国王であるが故にアル父の言っていることに嘘がないのだとわかってしまう、そんな絶望した表情だ。


 とはいっても、新たな主人とはアル父の事ではなくて、女木の事だろうけど。

 どうやらアル父君は国王の事が嫌いなのか、煽るような言葉選びをする。

 僕もするから、似た者同士かもしれない。


 僕もまた善良ではない存在なわけだから。


「ともかくだ。この国は私が戴く。今更トパーシオンが戻ってきたところで出来ることはない。

 平民共に通達が行き、この反乱が上手く行ったことが広まった段階で王族は皆、公開処刑とする。

 神の言を無視し、人々を危機にさらした報いとして、また私欲のために町と村を襲った外道として。

 それまでは、並べて(はりつけ)にしてやるから、せいぜい死ぬなよ」


 そう言ってアル父が手を離すと、どさりと国王が地面に落ちた。

 何もできないようにと両手両足も縛られて、自由になるのはその目くらいだろう。

 それから国王を連れていく人材でも探しに行くつもりなのか、一度アル父が部屋を出て行った。


 不用心だなとは思うけれど、2人きりで本性をフラーウスの民に知られないうちに国王に言いたかったのだろう。

 フラストレーションとか溜まっていたのかもしれない。

 僕が感じる限り、近くに人はいないのでもしかしたら、ちゃんと周りに国王を助ける人材がいないことを確認していたのかもしれない。


 別に姿を現す必要はないのだけれど、何やら国王が誰かを探しているようなので、姿を見せてあげよう。


「結局こうなっちゃいましたね」


 声をかければ、何か言いたげにこちらを見ている。

 口に噛ませた轡だけれど、何のためかと言えば魔法を使わせないようにするためだろう。

 だから僕も不用意に外すつもりはない。


 外して魔法使われて、万が一にも逃げられたら、面倒くさいから。

 いっそ魔封じの指輪でも装備させようか?

 でもなぁ……アル父に僕の存在を知られたくないんだよなぁ……。


 だって面倒くさそうだから。面倒くさそうだから。


 惨めな王様を見て、幾分か心が晴れたような気がするので、僕としては十分。

 あとは最後の時を見てから、ニゲルに行けばいいだろう。

 あちらもあちらで、もう少しで王都に手がかかるというところまで来ているし。


 クラスメイト達の異世界転移の最終章をしっかりと見ておきたい。


「助けてほしそうにこちらを見ていますが、助けませんよ?

 ですが安心してください。アヴァリティアが好き勝手したとしても、ほどなく世界は崩壊します。

 貴方達、神を無視し続けてきた王族のせいで世界が崩壊しますから。


 それでは、また明日。そちらからわたしが見えるかはわかりませんが、最後の雄姿は見させていただきますね」


 転がった国王を放置して、戦場を後にする。

 フラーウスも明日で終わり。あとはニゲルに行って、カエルレウスの様子を見て、僕の役目も終了だ。それまで世界が持っていてくれると良いのだけれど。

 でも魔王(ズィゴス)とか勇者not元クラスメイトが居るんだよなぁ……。


 考え得る限り、最悪の事になっていないことを祈って、明日の日を待つとしよう。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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