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 夜も更けてきた森の中。リーンリーンと虫の鳴き声が聞こえる。

 普通の人間の目では見ることができない暗闇だけれど、亜神である僕には関係ない。

 狙うは60メートル先にいるイノシシ。自分専用に作り出した弓を引いて、息を殺す。


 この世界の動物は魔物がいるせいか、かなり鋭敏でこの距離からでも気がつかれることがある。

『隠密』を使って気配を殺せば何とでもなるけれど、それをするとあっけなく終わってしまうので、使わないことにしている。

 だから亜神の存在感が大きいから、この距離でも気が付かれるという可能性も否定はしない。


 亜だろうが、劣だろうが、神は神ということだ。

 たとえ人に気が付かれない程度の存在感だとしても。


 まっすぐ矢を飛ばしても木々に阻まれてまず中らないので、その上を通してイノシシを狙う。


 浅く、深く、息を吸う。


 3・2・1……。と心で数えて、矢を射る。

 飛び立った瞬間葉っぱを2枚ほど散らせた矢は、やまなりにイノシシに向かい、その頭を穿った。

 鳴き声を上げてぐらりと、イノシシが倒れる。


 獲物の傷を最小限に押さえることができて、非常に満足だ。


 息つく間もなく駆けだして、イノシシに向かう。

 このときに音を立てると魔物達が近づいてくるおそれがあるので、『隠密』はマシマシ。

 周囲を警戒しつつ、イノシシをすぐに血抜きをするためにナイフを取り出す。使うナイフは適当に雑貨屋で買った店売り品。

 切れ味はそこそこで、ちゃんと手入れをすれば最低限の処理には使える。


 なんて思っている場合じゃない。狩りの処理はスピード勝負。

 心臓が動いている内に血抜きをして、洗って、内臓を掻き出すまではやっておかないと。


 問題は動けないこと、本当は安全な場所に持って行ってからやるべきなのだけれど、おいしさ=値段に直結するので妥協しない。特に魔物は血のにおいに敏感なので、悠長にしていられない。

 大丈夫なことも多いけれど、今日はなんだか嫌な予感がする。





 結構スムーズに血抜きを始めたけれど、やってくるときはやってくるものだ。


 血抜きをしている傍らで、大きな何かが近づいてくるのが聞こえた。


 のっしのっしとやってきたのは、殺戮熊。魔物区分の大熊で、僕の腕と同じくらいの太さの牙に、思いっきり振れば木すらなぎ倒す爪。

 眼光は鋭く、いかにもふもふしていようと、好んで近づく人は先ずいないだろう。そんなビジュアル。


 移動は四足歩行で、爪を使うときに立ち上がる。

 その姿を見た低級冒険者は生きて帰れないとも言われる立ち姿だけれど、今は邪魔なので『創造』でショートソードを作り出し、『勇者』の技量でもって振るう。


 いつかのように力任せではなく、培われた技術を使って振った剣はほとんど抵抗なく殺戮熊を二つに分けた。

 ゆっくりと殺戮熊が倒れていく中、剣に付いた血を振って払い、そのまま地面に落とした。


 落ちた剣は地面の中に吸い込まれていく。

 証拠隠滅という奴だ。


 完全犯罪ここに成れり。


 犯罪もなにも、殺戮熊を殺しても罪には問われないので、ある意味本当に完全犯罪になるわけだけれど。

 一応こんなことをしたのにも訳がある。


 一つ。殺戮熊は、E級冒険者にどうにかなる相手ではないため、持って帰るつもりがないこと。置いていくのは、殺戮熊がいたということを暗に伝えるため。

 この熊さん、こんなところで出るような魔物ではない。C級冒険者が相手にするような相手だ。


 二つ。剣を使ったのは、僕が普段剣を使わないから。狩りをしていたということと、手加減が楽そうと言うことで弓を使っているのが、結構広まった。あとは護身用兼解体用のナイフ。

 ショートソードと言っても、刃渡りはナイフの比ではない。つまり、この殺戮熊の傷から僕につながることはない。


 三つ。普通に面倒臭い。この血で魔物が集まってこようが、そのせいで町に被害が出ようが、僕は興味がない。

 情報収集用の場所が減るのはよくないけれど、最悪この大陸を虱潰しに歩けばいい。20年くらいあれば全部見て回れるだろう。





 なんて、狩りの様子を思い出していたのは、あのときの殺戮熊も嫌な予感がしたなと思ったから。


 嫌な予感というものは、往々にして当たるもの。

 というよりも、起こってほしくはないけれど、それなりに起こる確率があると思っているものを"嫌な予感"と言うのかもしれない。

 しかも、人間嫌なことほど記憶に残るので、確率が高く見えるだけだとも言える。


 最後のに関しては、亜神の僕に当てはまるのか謎だけれど、なにがいいたいのかと言えば、ちょいと今、目が合ってしまっているのだ。

 男女の組み合わせのその女の子の方に。


 年は16。見た目はくすんだ茶髪に、暗い藍色の目。

 小柄ながらも、この世界でよく見るような、珍しくもない容姿をしている。

 もう一人の男の子の方も目立った特徴はない。

 身長も平均的で、いかにもどこにでも居る田舎上がりですよ、と言わんばかりだ。

 微妙にボロボロの装備が、より田舎者感を引き出している。


 で、彼らのステータスが、こんな感じ。


(文月)梦

年齢:16 性別:女

体力:70

魔力:58

筋力:58

耐久:58

知力:58

抵抗:58

敏捷:70


称号:(異世界からの旅人)

スキル:(翻訳)(鑑定)(器用貧乏)



(藤原)道久

年齢:16 性別:男

体力:73

魔力:55

筋力:61

耐久:43

知力:57

抵抗:60

敏捷:115


称号:(異世界からの旅人)

スキル:(翻訳)(隠密)(隠蔽)


 うん。文月の平均的なステータスは、感動的だね。

 体力と敏捷が高いのは、たぶん隠密の訓練するときに必要だったからだろう。

 藤原はやっぱり隠密と隠蔽を持っているね。


 ……。


 可能性はあるだろうさ。文月には逃げろと契約したし、藤原も中立だったということは、あの城の異質さには気が付いていただろうし。

 見た目が異なったり、ステータスが()で微妙に隠蔽されているのは、王城からの追っ手を避けるためだろう。

 黒髪黒目というのは目立つし、スキルを2つ以上持っているのも、見つかれば大騒ぎだ。


 中立組の文月と藤原であれば、特に思うこともないし、この世界での生活を頑張ってほしいとしか思わない。

 世界の崩壊には巻き込まれるだろうけれど、残りの人生を城でこき使われるか、多少の大変さはあっても自由に生きるかでは、全然違う。


 いじめ組のクラスメイトや精霊を我が物としたうえで、世界を崩壊させようとしている人に関しては、このまま世界と滅んでくれたらいいけれど、中立組に関しては多少可哀想だとは思うので、精霊を助けた時のお願いの1つを彼らの助命とかにしておこうか。


 まあ、僕のパシリが終わるまで、もしくは世界崩壊まで生きていられたらだけれど。

 死なないように面倒を見る気はない。


 それはさておき、ここでばったり出くわすものなのだろうか。


 なんだ、神様の差し金か?


 まあ、プラスに考えよう。

 文月達がここにいるということは、ここはフラーウスもしくはフラーウスに近い国である可能性が高い。

 この町で冒険者登録をしたという話だったし、フラーウス国内だと見ていいだろう。


 王城への行き方も知っているだろうし、情報の入手にもつながるはずだ。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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