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 なかなかに堂に入った演説だった。

 僕からすると、つっこみどころばかりだったけれど、それはそれ。

 大事なことは既に伝えられているだろうし、演説で大切なことは気分を盛り上げること。鼓舞すること。


 民衆の中には荒事をしたことがないという人もいるだろうし、これで気持ちを切り替えて戦ってくれるのなら易いものだろう。


 ただアルクスの事を出したのは、白々しかった。うん、白々しかった。

 あの父親既に吹っ切れているというか、娘のことを道具くらいにしか思っていなかったみたいだし。

 今回こうやって良い道具になったから、さぞアルクスのことを誉めているだろう。


 今から民衆は貴族区を荒らしながら、王城へと向かうことだろう。

 大人数ではあるけれど、既に貴族区を守る結界はないので、あまり時間はかからないんじゃないかと思う。

 中立2人は既に避難を終えているので、詳しい状況を見ることは出来ない。


 そんな2人の代わりに、次のポイントに向かおう。

 ルルスが付いてきていることを確認して、移動を開始する。


 向かう先はフラーウスに残った兵や騎士達が集まるところ。

 不穏な空気を察したのか、既に集められている。

 見たことのある人もいる気がするけれど、なんだかもう忘れてしまった。


 さてこちらも、演説が始まろうとしている。

 あっちと違うのは、全体的にまとまりがあること。

 同じ格好をして、ピシッと並んで一心に隊長っぽい人の方を見ている。


「朝早くよく集まってくれた。今現在、民衆が反乱を起こそうとこちらに向かっているとの情報が入った」


 隊長(仮)の言葉を聞いて、驚くのが半分くらい。

 黙って聞いているのが半分くらい。


「直ちにこれを鎮圧する。トパーシオン殿下のはからいで、既にこう言った場合での持ち場は決めているな?

 迅速に行動し、出来るだけ被害を押さえてこれを制圧する。


 陛下や殿下に指一本触れさせることはならんぞ!」


 隊長がそう言った時、「はっ!」と声を合わせる中に、一人挙手をする人が現れた。

 隊長はわずかに顔をしかめると、「どうした?」と挙手をした一人を指名する。


「民衆は殺してしまうのですか?」

「こちらに刃向かうのであれば、致し方あるまい。武器を捨て投降するのであれば良し、そうでなければ実力を見せるしかないだろう」

「そうですか……。最悪、陛下や殿下さえ守れれば良いと」

「我らの剣は陛下の為に。当然であろう?」


 胡散臭そうな顔をする隊長を前に、手を挙げた騎士はひるむことなく発言を続ける。

 周りは困惑している感じだろうか。


「確かにフラーウス王国に忠誠を誓いました。

 フラーウス王国のためであれば、この身が砕けようとも尽力する所存です。ですが、フラーウス王国に必要なのは真に陛下だけなのでしょうか?」

「何を言うつもりだ? 不敬罪となるぞ!?」

「いいえ、言いましょう。国とは民が居てからこそ。

 もしもこの反乱で王都の民が全員死んでしまったとしたら、フラーウスはどうなるのでしょうか?

 国をまとめる者は絶対に現れる。しかし、国を支える民衆が居なくなったとき、フラーウスはどうなる?」

「そやつを捕らえよ、そのうるさい口をふさげ!」


 隊長が命令して一同が彼の方を見る、かと思ったが彼の周りの人たちについては、手を挙げた彼を守るように陣取った。

 それから手を挙げた彼が「フラーウスを守るのは我らだ! 続け!」と号令を出し、混乱が始まる。


 なるほど。「魅了」を用いた暗示みたいなものか。

 国王一人と民衆全員、どちらがフラーウスに必要なのか、執拗に暗示をかけられたのだろう。

 まるで自分が自発的に考えているかのように、思えるようになるまで。

「魅了」と違い、認識を大きく変える必要が無く、少ない労力で行える代わりに本人がそう思えないことはさせられない。


 フラーウスを守るには王を守る、というのを、フラーウスを守るには民衆を守るに変えただけ。

 民衆の中には当然、兵士騎士達の知り合いや家族も混ざるだろうから、抵抗感はない。


 国王1人と民衆1人ではなく、国王1人と民衆全員を比べているのもポイントだろう。

 一人を殺して国王を守るのであれば、ここにいる全員が国王を守るに違いない。


 現状懸念があれば、暗示をかけられているのが比較的ステータスが低い人たちだと言うこと。

 その方が楽だったのだろうから仕方がないけれど。

 今は混乱に乗じているので、良い勝負をしているが、次第に暗示にかかっていない側が優勢になるだろう。


 非暗示側は仲間に剣を向けると言うことで、躊躇いもある。

 それもなくなれば、暗示組は一網打尽にされそうだ。


 それにしても、小さな戦争のようだ。

 人の首が宙を舞い、赤い血の雨が降る。


 さっきまで仲良くしていた人に剣を向ける困惑。

 切られた事による悲鳴。

 突然の裏切りに対する怒号。


 先ほどまでピシッ、ピシッとしていたはずなのに、ここまで混乱するのはなかなか興味深い。

 それにしても血なまぐさい。気分が悪くなる事はないけれど、見ていて心地よい景色だとは思わない。

 でもそうか、勇者達は戦争の最前線で、ずっとこのような光景を見ているのか。


 たぶんこれ、早々に隊長側が勝ったとしても、士気は下がるだろうな。

 それでも民衆個人に負けることはないだろうけれど、人数の上ではかなり差ができているので、士気の低下は致命的だ。


 数で押し切られて、王座まで向かわれてしまうことだろう。

 そうしたら王城側の負け。


 ではそろそろ、その王様のところに向かおうか。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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