107不穏の裏側 ※女木視点
フラーウスを落とすに当たって、やっかいなのがトパーシオン第一王女。
フラーウスの王族は無能と呼べるほど落ちぶれてはいないけれど、殊に先の事への対応力は王女に勝る者はいない。
だからボク達の計画が動き出したとき、トパーシオンだけが大きく反応を見せた。
とは言っても、城下が不穏だというくらいで、実力行使に出ることもないみたいだけれど。
でも監視の目があるというのは動きが鈍る。最終的な一手をつぶされてしまう可能性がある。
逆に王女さえ居なければ、事後対応不可能なところまで持って行くことが出来る。
というのが、磯部君の意見。ボクもそれには同意見だ。
だからトパーシオン王女が気付かないように気をつけて、少しずつ、少しずつやって行こうと思ったのだけれど、世界崩壊を予兆する災害で王女自ら戦場まで激励に行くことになった。
これはこれは、良いことを聞いた。
そして王女は行動が早い。謁見後3日で王都を立った。
有能だと思うけれど、今回はその有能さがボク達に味方した。
王女が居なくなってすぐ、ボク達は行動に移した。
実際に動くのは、配下や協力者たちだけれど。
あの野心持ちの貴族が頑張ってくれることだろう。
あとは王城で城下の話が広まらないように、命じるだけ。
王族を捕まえて裁判に掛けるならまるで足りない証拠でも、市民たちを扇動するには十分な証拠だ。
あの剣なんか、とても良い働きをしてくれると思う。
たぶんあの剣は村人虐殺の凶器で間違いないので、足りないわけがないのだけれど。
この世界で証拠になりうるかは何とも言えない。
何にしても、この剣を見つけられたのは良かった。
「ほかに1本たりとも見つからなかったのは気がかりだけど……持って帰り忘れた?」
「確かに使用本数の剣が戻ってきた、って報告であったけど」
磯部君に尋ねると、スパンと否定されてしまった。
「じゃあ、神の悪戯? 助かったことには違いないから別にいいよね」
「こればかりは考えてどうにかなる問題ではないからね」
「ああ、それはわたしが置いておいたんですよ」
ボクと磯部君しか居ないはずの部屋。急に女の子の声が聞こえてきて、磯部君と二人で臨戦態勢にはいる。
ボク達は強くはないけれど、一般人に負けるほど弱くもない。
下級の騎士くらいだったら倒せるだろう。
声がした方を見ると、年下の女の子が立っていた。
ボクも可愛いだなんだと言われるけれど、この子には明らかに劣る。というか、女の子に劣ること自体は別に何とも思わないけれど。
とにかく可愛い子。それこそ、神が生み出したと言われても不思議でないくらい整っている。
「置いておいたって言うのは?」
「言っているとおりの意味です。勇者が剣を落としていたので、拾って新しいのと入れ替えて、古いのは村に捨ててきました」
なかなかに表情が読みにくいのだけれど、どこか楽しそうに少女が話す。
一瞬狂言かとも思ったけれど、誰にも知られずにここに入って来られるだけの実力があるのだから、出来なくもないと思い直す。
「どうしてそんなことをしたの?」
「おもしろそうだったからですよ。実際おもしろいことに使われましたから、正解だったと思ってます」
「君は何者?」
少女の正体がつかめず、直接尋ねてみる。答えてくれるとは思えないけど、何かヒントはあるはずだ。
せめて敵か味方かくらいははっきりさせておきたい。
「わたしは神の使い、といったところでしょうか。
その実神様の小間使いみたいな存在です」
「ボク達をどうする気?」
事実かどうかは分からないけれど、事実だったらやばいのでとにかく目的を聞き出す。不干渉で居てくれるならそれで良い。
神の使いを名乗る少女は、くすくすと笑って話し出した。
「今世において貴方達をどうにかするつもりはありませんよ。どうにかなるのは死んでからです」
「死んでって……」
それは安心できることなの? 死んだら地獄行きが確定したとかそういう類の奴?
「後はそうですね。面白そうなので、貴方達がやることを見学はさせてもらいます」
「3つ聞いても良いかい?」
磯部君が少女に話しかける。
うん、頭が混乱しているというか、ちょっと冷静じゃないボクが話すよりは良いだろう。
「良いですよ? 答えるとは限りませんが」
「分かった。1つ、この国を滅ぼそうとしている事に手を出すつもりはないと言う事?」
「はい。今更国の1つや2つ消えたところで意味がありませんし」
「2つ、この世界は崩壊する?」
「しますね。あとどれくらい持つんでしょうか?」
やはりこの世界は崩壊する。
だから国の1つや2つ無くなっても問題ないという事か。
そう言えば、情報の中に東の方にある国が2つ大変な状況にあるみたいなのがあったっけ。
だとしたら、すでに1つか2つ国が無くなっているのかもしれない。
「3つ……いや、これは良い。その2つが分かれば、後はもう何も変わらない」
磯部君が首を振る。確かに死後の事は気にならなくはないけれど、ボク達にできるのは後この国を亡ぼすために動いて死ぬか、何もせずに死ぬかのどちらか。
目の前の少女が何もしてこないのであれば、元々の計画通りこの国をめちゃくちゃにして、うっぷんを晴らして死んだほうが良さそうだ。
少女は目をぱちくりとさせると、「そうですか。ですが、勝手ながら3つ目の問いに答えましょう。半分はそれを話すために来たようなものですしね」と口にした。





