閑話 第一王女の出立
どうしてこのようなことになったのか。
ニゲル攻略を順調に進めていたはずだったのだけれど、歴史上でしか無かったような災害がフラーウスをおそった。
話によればフラーウスだけではなくて、大陸中で何らかの異常が起こったらしい。
フラーウスで大きな傷を残したのは地割れ。
王都に掛かるように地面が割れ、貴族区と平民区を仕切っていた結界も起動しなくなった。
大陸中で起こったという事で、フラーウスだけが弱みを見せたわけではないのだけれど、ニゲルとの戦争の手も止まってしまった。
それはあまりよろしくない。
一刻も早く精霊を奪取しないといけないというのに。
事情を知らない者達が一度休戦を持ちかけないかと奏上してきたらしい。
とりあえず、突っぱねたと聞いたが、兵達の士気は落ちている。
勇者達がいるとは言え、彼らだけではさすがに人数が足りない。
幸い国内にも騎士達がかなりの数残っている。
不穏な動きがあるとは言え、滅多なことは出来ないだろう。
それならば、わたくしが出るのがいいだろう。今この城でわたくしに出来ることはあまりないのだから。
「陛下に謁見します。出来るだけ早く場を整えてください」
「分かりました」
ソテル以外のお付きに命じて、部屋でソテルと二人だけになる。
「戦場に向かうのですか?」
「精霊のことを考えると、それが最善だもの。不穏な動きがあるから、そちらもどうにかしたかったのだけど、優先順位を間違えるわけには行かないわ。精霊が手に入らなければ、国は破滅に向かう。
お父様もお兄さまもいらっしゃるのだから、城を出ても不安はないわ」
「そうではありませんっ!」
柄にもなくソテルが大きな声を出すので驚いてしまった。
心配そうなその目が、わたくしの事を案じている事は知っている。
「ええ、ありがとうソテル。だけれど、わたくしは王族。国のために命を失うことは恐ろしくはないわ。
それに戦いはフラーウスが押しているのだもの、そう簡単に死ぬこともないわよ」
命が惜しくはないけれど、死ぬつもりもない。死ぬならせめて、フラーウスの行く末が決まってから。
ニゲルとの戦争に決着が付くまで、なんとしてでも生き延びてみせる。
「それでは私も共に参ります」
「それは心強いわね。でもまずは、お父様に許可をいただかないといけないわね」
どうやって説得するか考えながら、手元の書類を進めることにした。
◇
「して、トパーシオンよ。話とは?」
「ニゲルとの戦場へ向かい、兵達の士気をあげるよう尽力しようと存じます」
「ならぬ」
顔を歪めてお父様が拒否をする。
一国の王がそのような表情をなさるのは良くないと思うのだけれど。
それだけ愛してもらっているという事。だけれど、今は国の一大事、わたくしよりも国をとらねば王とは言えない。
「陛下。ニゲルとの戦争の勝利は、フラーウスを国として保つための最低条件でございます。
その理由は分からずとも、王族自ら激励に行くことで、戦いの重要性は分かるでしょう。
いま行かなければ、士気の下がった兵が蹂躙され、精霊どころかフラーウスを失う可能性もございます。どうぞご再考を」
そう言って頭を下げる。
父とは言っても相手は国王。守るべき礼儀があり、守らなければ王族の威信に関わる。
そもそもわたくしは死ぬつもりがないのに、皆心配しすぎなのだ。
「……分かった。許可しよう。だが無事に戻ってくるように」
「陛下もお気をつけて、現在城下で不穏な動きがあるようです」
「取るに足らぬ事であろう。何かあっても兵がおる」
「それでは、わたくしはこれで御前失礼いたします」
お父様に一礼して、謁見の間をあとにする。
決まったのであれば、一刻も早く出立しなければ。
ニゲル攻略が遅れるほど、フラーウスの混乱は大きくなる。
「ソテル許可をいただいてきたわ」
「こちらはいつでも出発できる手はずにはなっております。
ですが、すぐにと言うわけには行かないのですよね?」
「ありがとうソテル。そうね、調整はしないといけないもの。
それでも三日以内には出立するわよ」
「仰せのままに」
それから三日で何とか準備を終えて、ニゲルとの戦線に向かうことにした。





