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「とはいえ、勇者自身精霊の重要性は理解していたみたいですけどね。
だからこそ、解放するように言っていたみたいですから」
「古代竜の話ですね」
「はい。国として安定するまで精霊の力を借りて、そこからは自分たちで何とかしていくようにしたかったんでしょう。
安定するまでに何年かかったとしても、古代竜にしてみればさほど長いわけではないでしょうから」
まあ結局国作りには手こずったみたいだけれど。
本職でもないのによく頑張ったと言うべきだろうか?
「勇者の誤算の1つは、自身が生きている間に6つの国を安定させることが出来なかったことです。
勇者と敵対していたニゲルがあったわけですから、当然といえば当然です。抑止力を失った世界は精霊を解放せずに、その力を使い続けていたわけですね」
「そう……ですか」
「最初は解放しようと言う流れもあったみたいですけどね。
ですが、精霊に頼るのになれてしまっていた人々は、解放するのを少しずつ遅らせていきました。
まだ大丈夫だろう、もう少しなら大丈夫だろう、自分の代くらいなら許されるだろう……といった感じです」
実に人だなぁとは思うけれど、捕らえられた側としてはたまったものではないだろう。
なんだかルルスの表情が怖く見えるのも仕方がないことだ。
「といったところで聞きたいことは全部ですか?
これ以上は僕も答えられるか分かりませんが」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
「それでは、移動しましょうか」
「何処に行くんですか?」
「ニゲル……の前に、フラーウスの様子でも見てみましょうか。
勇者達には会えないと思いますが、国内がどうなっているかは気になりますし、王女に会えるかもしれません」
王女にあって何をするわけでもないけれど、世界崩壊が間近に迫った今、何を考えているのかなくらいは気になるので。
◇
久しぶりにやってきたフラーウスの王都は、なにやらとてもそわそわしていた。
表面上は普通に生活しているけれど、裏では何かが進んでいるというか、なんだか陰があるような印象。
まあ、王都の端とは言え地割れが起きているから仕方がないだろうけれど。
うん、そのせいで壁も一部崩れている。
そして何より、貴族区画を覆っていたバリアが無くなっているのが個人的には嬉しい。
というのは良いとして、そわそわしている本当の理由は、王族に不信感を持っているからのようだ。
何でも先の天変地異は、王族が神に背いたから起こったのだとか。
そう言う者がいたとしても、普通は道化と笑われるだけだろうし、兵士に見つかれば不敬罪で首が飛ぶだろう。
だけれどここしばらく、作物の収穫量や味が落ち、森の実りも少なくなり、川も汚れてきていて国民達はすでに何かがあるんじゃないかと不安に思っていた。
そこにあの災害。混乱必死の中、王族が悪いのだと言い出す人がいれば、それに続くかもしれない。
でも証拠がない。
そこで登場したのが血塗れの剣。
既に血は乾いていたけれど、その剣が起こした凄惨さは見て分かるようだと。
この剣が見つかったのが、以前魔族に滅ぼされたという村。
一般的な剣ではあるけれど、それは人族や獣人族などに限ったことで、魔族がこういった剣を使うことは珍しい。
またこの剣と同じような剣が、フラーウスの王都でも売られている。
だから王族が悪く、今の災害も王族が悪いに違いない。
と、まあこんな感じ。証拠なんてものはないけれど、そう思わせてしまえば勝ちみたいな感じなのだろう。
日本でもしばしば見られる光景だったね。うん。
「それにしても、血塗れの剣を落としていくなんて、フラーウスも不用心ですね」
「それは冗談ですよね?」
「もちろん冗談です。何か使えるだろうなと思って細工はしましたが、ここまで大々的に使われるとは思っていませんでした。
広場みました? 無辜の国民を殺した剣って事で飾ってありましたよ」
「悪趣味だと思うのですが……効果的みたいですね」
生々しさが残っているからね。
言葉だけではなく、こうやってモノを見せられると実感がわくものだ。少なくとも僕はそうだったと思う。
次はお前がこうなる運命だと血塗れの剣を見せつけられたら、無視するわけにも行かないはずだ。
「町の様子は分かりましたし、王城の方にいってみましょうか。
あの王女がいれば、今の動きにも気が付いて何か対策立てているかもしれませんしね」
「確かにそうですね」
でも王女がいれば、こうなる前に手を打っていそうな感じがするんだよね。
それに話を聞く限り、ここ数日のうちに一気に話が広がったようにも感じた。
◇
さて王城に入って分かったことは、王女が居ないこと。
どうやら先の災害で下がったであろう軍隊の士気をあげるために、戦争にいったらしい。
人気みたいだからなー。そりゃあ、士気上がるだろうなー。
勇者の士気はガン下がりだと思うけれど。
あと磔馬が死んだらしい。
妥当かな。なんか変な魔術をかけられていたし、その中で急激な成長があれば十分死亡圏内だろう。
磔馬といえば、僕をいじめていた筆頭なのだけれど、別になんだとは思えなかった。
ふーん、そりゃ良かった。そんな感じ。でも、多少はすっきりしたような気もする。
磔馬の死によって、市成あたりが狂ったように進軍するようになったらしいけれど、なにがあったんだろうね。
もともと精神状態危うそうだったし、とうとう壊れてしまったのかもしれない。
それとも目の前の敵をなぎ払うことで、精神を保っているのかもしれない。
と、言うことでトパーシオンはおらず、城内は騒がしく、城下のことはよく知らない人も多いらしい。
そして知っている人は、いかに逃げるかみたいな感じ。
知っているのは、城下にも足を運ぶ下の方の人だからね。
あとは城下の流れを知りつつも、それを良しとしている人たち。
誰かの下で動いているようなのだけれど、いったい誰なんだろーなー。正直あまり会いに行くつもりはなかったのだけれど、なんだかんだで中心人物のようだから会いに行っても良いかな? 元クラスメイト達に。





