11
やってきました冒険者が集まる建物。
これ施設名とかないのだろうか。
冒険者ギルド、とか。
看板を見ても、ドラゴンっぽい生き物に剣が刺さっているようなマークがあるだけで、文字は書いていない。
識字率が低かったりするのだろうか。
お城にいた時には、極端に不便とは思わなかったのだけれど、日本と比べてかなり文明的に遅れている?
それとも、貴族と平民との格差が結構あるということ?
王政だから、国民が変に力を持たないようにしているとかは、あるのかもしれない。
政治のあれこれは置いておいて、冒険者ギルド(仮)に突撃だ。
◇
中に入ると酒場っぽい雰囲気の場所だった。
酒場行ったことないけれど。でもおそらく日本にある酒場とは違う、いわゆるファンタジー的酒場だ。やっすいエールとかで、騒いだりするのだろうかと思ったけれど、飲み物食べ物が食べられるわけではなさそうだ。
クエストを終えてパーティで騒ぐ時には、持ち込みでもするのだろうか。
あ、普通に酒場に行くのか。
図体が大きい兄ちゃん姉ちゃんを横目に、カウンターに向かう。
対応しているのは、美人な女の人。
どこの世界も受け付けは、女の人が多いらしい。
「あの、良いですか?」
「はい、どうしました?」
声をかけるとはきはきと応えてくれる。
「ここで冒険者になれますか?」
「冒険者志望の方ですね。
冒険者について、説明をしたほうがよろしいでしょうか」
「お願いします」
◇
コレギウム・ヴェナトというのが、冒険者ギルドの正式名称らしい。
冒険者ですらなかった。
その歴史は古いけれど、今も昔も国家を超えた魔物退治専門機関。
昔からあった組織なのだけれど、過去の勇者がコレギウム・ヴェナトを利用する人々を「冒険者」と呼び始めて定着したんだとか。
それまでは「狩人」とか「魔物狩り」とか、まあいろいろ呼ばれていたので、ちょうどよかったというのもあるみたい。
コレギウム・ヴェナトだと呼ぶのが長いので、この建物を呼ぶときはコレギウムになる。
「今日どうするよ?」「とりあえずコレギウムで依頼確認しよう」みたいな会話がなされるわけだ。
冒険者ギルドじゃいかんのだろうか。いかんのだろうな。
冒険者になる――コレギウムに所属するために、特に必要なことはない。
しいて言えば、ステータスを確認されることくらい。冒険者は基本的に戦闘が専門。弱いと止めたほうが良いと忠告される。
それでもよほどのことが無い限りは、コレギウム・ヴェナトに加入できる。
職を得られず犯罪者になられるよりは、冒険者になって死んでもらった方がましとかそう言う事だろう。
冒険者にはランクがあり、一番下がG級。現在の一番上がA級。伝説の勇者がS級とか何とか。
上級になるに従い、そのランクの中でも強さの差が大きくなるから、B級以上から上位と下位に分かれるようになる。
B級下位、B級上位を合わせてB級。
下位上位の区別はコレギウム側が何となくしている程度で、この瞬間から上位とかにはならない。
「確かにB級ですが、この依頼はちょっと難しいかもしれませんねぇ」
とかやるんだろう。別にB級とかなるつもりはないので、どうでもいい。
ランクアップに必要なのは、ステータスと依頼による貢献度。貢献度については、コレギウムで聞けば教えてくれる。「後〇級の依頼を△個達成したらランクアップできますよ」みたいな。
依頼は依頼票を掲示板に張り出し、それを取って持っていくオーソドックススタイル。
どうせ張り出しの時間帯には、冒険者たちが集まるのだ。
依頼内容は家の手伝いから、ドラゴンの討伐まで様々。魔物退治専門なのに家の手伝いがあるのは、低級冒険者の救済措置何だとか。
年々冒険者は万事屋に近づいている。
依頼失敗による違約金がない代わりに、依頼を受けるための保証金が必要になる。
失敗したら保証金は返ってこずに、成功したら戻ってくる。
町の周りでよく見かける魔物に関しては、別途掲載として1体いくらと書かれている。その料金は同ランクの依頼よりも安いため、良い依頼を受けられなかった人が受けるのだろう。こっちは受けるときにお金が要らない。
と言うか、討伐部位を持っていけば、受けずとも依頼達成になる。
依頼はランク分けされているけれど、実は受けるのに制限はない。
E級がA級依頼を受けてもいいし、A級がE級の依頼を受けてもいい。実際のところ後者はともかく、前者は保証金の額が高く受けることはできないだろう。
肝心の身分証明としての効果だけれど、そもそも町間の移動だと身分証無くてもできる。しいて言えばお金がかかることくらい。
冒険者だとD級以上だとお金がかからなくなる。
国間の移動の場合、国境をまたぐような依頼――護衛とか――のついでに移動するなら、依頼主側がいろいろ手続きしてくれるため、特に何もない。
そうでない場合には、コレギウムのトップ――ドゥチェスからの許可が必要になる。
つまりギルドマスターがコレギウムドゥチェスになる。面倒なので、長で良いと思う。
あとは訓練場は無料で開放しているとか、こまごました説明があったけれど、割愛。
こんな見た目小娘に、よく丁寧な説明をしてくれたなと思うけれど、口減らしで村から流れてきた僕くらいの(見た目)年齢の少年少女は結構いるらしい。
その少年たちに適当な説明をしたことで、すぐに問題を起こすことが多かったため、ちゃんと説明するように義務付けられたらしい。
またこういった新人を相手に当たり散らして、若い世代が育たなかったこともあり、いわゆるテンプレ的な絡みは少ないのだとか。
大人でランクが低い人の方が狙われるらしい。
うん。見た目年齢を上げずに来てよかった。
少ないとはいえ、あまりにも調子に乗っているとか、年齢の割にランクが高いとかであれば絡まれる可能性が高くなる。
と言う事で、コレギウムでは大人しくしておこう。
◇
「以上で説明は終わりますが、登録なさいますか?」
「お願いします」
「では、ステータスの確認をお願いします」
今日二度目の水晶。
映し出される、偽りの数字。
またやるべきかな。
わたしはフィーニス14歳。
「ありがとうございます。
十分に戦えるようですね。安心しました」
「森で狩りをしてましたから」
思いのほかにあっさりとした反応だったけれど、胸を張って自慢する。
「少し前に来た人たちとは違うんですね」
「誰か来たんですか?」
「いえ、フィーニスさんより少し年上くらいの男女が最近登録に来まして。
その人たちも、年齢の割に高いステータスをしていたので、同じところから来たのかと」
「わた……えっと、違いますね。僕は森の中に住んでいたので、村とかじゃなかったですし」
「そうですか。同世代ではありますし、一度パーティを組んでみてはどうでしょう?」
「スキル的にマイナスなのでやめときます」
なんだか嫌な予感がするので。





