101 ※文月視点
渡されたサイコロを見ると、確かに1から6までの目が書いている。
バラエティ番組で見るような変なものでもなく、手に持った感じ仕掛けがしている様子もない。
ということは、最大6人助けられることになる。
「最大6人、ってことだよね?」
「そうですよ。この世界の人は神様にとってあまりいいイメージ有りませんからね。
それから、亜神であるわたしならばある程度許せても、そうではない貴方達であればこれくらいが妥当だとか」
「でも、なんでサイコロ?」
「TRPGって知ってますか?」
「名前だけなら……」
あたしは基本的に一人だったし、誰かと話をしながら何かを進めるなんて考えただけでもぞっとするような人間だから。
TRPGなんてコミュ力の怪物たちが集う会の事はよく知らない。
「奇遇ですね。わたしも大して知りません。いつも一人でしたからね。
それはそれとして、何を思ったのか、折角だからTRPGのように運任せにしたら面白いんじゃない? と神様が言っていたので、こうなりました。ここからはわたしがどうすることもできません。
と、言った所で、早く振ってください。あまりここにいてもわたしも貴方達も具合が良くないと思いますし」
通山君に急かされるけれど、この一投で助けられる人数が変わってくると思うと、躊躇ってしまう。
これがチャンスなのは分かっている。誰も助けられない状況から、最低1人は助けられる状況になったのだ、嬉しくないわけはない。
だけれど、仮に6人救えるとなったとして、あたし達にその6人を選ぶことはできるのだろうか?
助ける6人を選ぶということは、見捨てるその他大勢を決めるということ。
そう思うと手が震えてくる。いっそ、0の目が出てくれた方が嬉しいと思うくらい。
でもそんな目はないし、仮にあったとしてもそれを望んではいけない。
この一投は通山君が、自分の願いを叶える機会を1つ譲ってくれたものなのだから。
ううん。あたし達が助かるのも、通山君の願いになるのだろうから2つ。
調べてみたところ、精霊の人数は全部で6人。つまり最大6つ願いを叶えてもらえるうちの2つ、3分の1もあたし達のために使ってくれたのだ。
無駄にしてはいけない。
こんな風に考えると、やっぱり振りにくい。
縋るように道久君を見ると、どうしようもないと首を左右に振る。
そもそもサイコロをわたしに渡したということは、わたしが振れってことなんだよね。
うーんと考えて、震える手をギュッと握りしめて、ドクンドクンと煩い心臓は無視して、サイコロを放る。
出来るだけ遠くに、結果があたしにすぐわからないところに。
たった一回サイコロを振るだけなのに、吐きそうになるなんてこと、今までなかった。
あたしの手を離れたサイコロは、カツンカツンと軽い音を立てて地面を転がり、遠くで止まった。
それを通山君が見に行く間、あたしは目を閉じて祈るしかできない。
「なるほどなるほど。出た目は3ですね。ですから、3人選んで助けてあげることができます」
「3人……」
最低値でなかったのは良いけれど、あまりうれしい数字ではない。
なんというか、どう反応して良いのかわからない。
「さてここらへんで時間切れですね。お二人とも「隠密」なりなんなり使って隠れておいてください。
あ、助けたい人は、なんかいい感じに神様に祈って伝えてくれればいいそうです。では」
「あ、通山君ちょっとま……」
あたしが引き留めるよりも早く、通山君が姿を消した。
それと同じくして、ここに通じる通路の奥から何人もの足音が聞こえてくる。
今度こそお城の人たちが押し掛けてきたのかもしれない。
道久君と目で合図して、全力で隠れる。
一本道の通路で待ち伏せでもされたら逃げ道はない。
それよりは、少しスペースがあるここで待ち受けたほうがまだ助かる道がある。
道久君と話したいこともあるけれど、現状を乗り越えるのが先なので息を潜めて様子を見ることにした。
◇
どれくらい経っただろうか、通山君が昇って行ったくらいにはうるさかった階段が今はもう静かになった。
気になった道久君がすでに様子を見に行っている。
あたしの隠密は「器用貧乏」で模倣したものなので、道久君のそれよりも精度が良くない。
だからこういう時には、頼らざるを得ない。
しばらくして戻ってきた道久君は「もう大丈夫みたいだ」と話しかけてきた。
「やっぱり通山君が?」
「だろうね。階段にたくさんの血痕があったよ。
それこそ人が死んだんじゃないかってくらいのもあった」
「……そっか。そうだよね」
きっと通山君が囮になってくれたのだ。
精霊を盗んだのが自分だということにして、堂々と出ていけば当然視線はそちらに行く。
通山君ほどの強さであれば、やってきた人たちも何人か残しておくなんて悠長なこともできなかったのだろう。
しかもここは学園。本来こういった争いとは無縁の場所で、お城の兵士の死体が出てくるのは問題になる。すぐにでも回収していったのだろう。
「一応隠れながら戻ろうか」
「そうだね」
短く話して階段に向かう。
風通し最悪な地下への階段は血のにおいが立ち込めていて、気持ちが良いものではない。
フラーウスから逃げ出した直後のあたしであれば、これだけで気分を悪くして座り込んでしまっただろう。
だけれど、今は我慢することくらいできる。
暗くて血がはっきり見えないことが功を奏しているのかもしれないけれど、思えばたくさんの事を体験してきた。
その終わりがもう目前に迫っている。あたし達の立場は恵まれているのだろうけれど、なんだか達成感はなかった。





