99 ※文月視点
情報が多い。何から処理して良いのかわからない。
1つ言えることは、このステータスが本当であるなら、フィーニスちゃんの言っていることは事実なのだと思う。
称号の亜神。亜ということは、本当の神様と比べると格が落ちるのかもしれないけれど、それでも神に連なるものなのだろうし、だとしたら世界崩壊が止められないことを知っていてもおかしくない。
試しにもう1人の方――ルルスと呼ばれていた子の方も「鑑定」してみる。
ルルス(光の精霊)
年齢:不明 性別:不明
体力:不明
魔力:不明
筋力:不明
耐久:不明
知力:不明
抵抗:不明
敏捷:不明
称号:不明
スキル:不明
あー、うん。これは何と言うか、笑うしかなさそうだ。
でも今が笑っている場合じゃないのがとても辛い。
道久君がどうだったと言わんばかりの視線を向けてくる。
どう説明したものか、あたしにはわからない。
「フィーニスちゃんの話は信用できる……と思う。
そもそも敵対して逃げられるなんてことは絶対にないよ」
「そんなになのか?」
「ステータスの平均が4000越えてるもん」
「4000……」
道久君が絶句するのも当然だ。
何せ伝説の勇者でさえ、召喚された時のステータスは250と言われているのだから。
あたしの予想が正しければ、この世界の限界値が999なのだと思う。
だから、4000なんて言うのはまさしく神と言っていいくらいだ。
「それから称号に亜神って書いてる」
「亜神……」
「道久君を捕まえているのは、光の精霊みたい」
「……」
とうとう道久君が黙り込んでしまったけれど、あたしは悪くない。
事実をそのまま伝えただけだもん。
「と言うところで、状況は分かっていただけたでしょうか?」
「……ああ、信じるよ」
道久君が力なくうなだれる。
うん、まあ、そうか。ここまで見せたということは、生かして返す気はないってことだもんね。
でも、あたしはなんだかちょっとひっかかかる。
「別に殺す気はないですよ。ただその子を渡してもらえればいいんです」
「本当に世界の崩壊は免れないんだね……」
「残念ながら。そんな状態の世界に召喚されるなんて、運がなかったですね。ええ、本当に」
フィーニスちゃんが道久君にそう言って返すのだけれど、やっぱりどこか違和感を覚える。
何と言うか、召喚されたことに対して本当に忌々しく思っているような、そんな様子が見て取れたような気がした。
そうまるで、自分も勇者召喚にかかわっているかのような。
その時、ある1つの可能性が思い浮かんだ。
どうしてフィーニスちゃんが、頑なに道久君にちゃん付けさせないのか、どうしてフィーニスちゃんが勇者――クラスメイト達の事を知っていたのか。
どうして勇者召喚を忌々しく思っているのか。
そしてフィーニスちゃんのステータス。数値に目が行きがちだけれど、そのスキルの異常性に気が付くべきだった。
表示がおかしいのはこの際置いておいて、「勇者」とか「賢者」とか、クラスメイト達が持っていたスキルをいくつか持っている。
勇者とその従者と言われていたスキルに加えて、神様らしいもの、そして何より「契約」のスキル。
あたしはこのスキルを持っていた人を知っている。
「世界は崩壊しますが、貴方達は別に気にしなくても……」
「通山君だよね?」
「急にどうしました?」
「間違ってるかもしれないけど、フィーニスちゃんは通山君だよね?」
都合のいい推測。都合のいい解釈。
ご都合主義も良いところだと言いたいけれど、その考えを止めることはできなかった。
フィーニスちゃんはジッとこちらを見る。
「わたしと出会った事、わたしが何者かと言う事、それをこの世界が崩壊するまでいかなる存在にも伝えないと約束できますか?」
「する、約束する」
「藤原は約束してくれます?」
「……わかった」
「まあ、それならいいでしょう。面倒だったから言わなかっただけで、話して困ることでもないですし。何より今となっては話したほうが、話をしやすそうですからね」
何やら一人でフィーニスちゃんが納得しているけれど、相手が通山君だと思うとさっきまでの緊張と言うか、恐怖が一気になくなる。
生きていてくれたことに嬉しくなったけれど、そう言えば年齢が0歳だった。
つまり一度死んでしまったのか。死んで生き返った。そう思うと、喜んでいいのか悪いのかわからなくなる。
「おっしゃる通り、わたしは元々通山真でした。
ですが今はフィーニスです。連続した記憶、連続した意思を持っているのでわたしが通山真であるといっても間違いはないでしょう。
とりあえず、同級生の男にちゃん付けされるなんて死ぬほど嫌なので、二度としないでください」
「えっと、待ってくれ。つまり通山がフィーニスちゃ……」
道久君がフィーニスちゃんと呼ぼうとしたところで、通山君――フィーニスちゃんが腕を真っすぐ伸ばした。
その先はちょうど道久君の首辺り。
遠くて見づらいけれど、血が流れているらしい。
フィーニスちゃんがにっこりと笑みを浮かべると、道久君は咳ばらいをして言い直す。
「つまり通山がフィーニスに生まれ変わったってことか?」
「そうですよ。こちとら満足して死んだというのに、神様に無理矢理呼び出されました。
そして精霊を回収して回るように言われました。理由は新しく作る世界で使うからです。
神様ならこの世界を救えないことはなかったみたいですが、とっくに見捨てたみたいですよ。あとたぶん、もう神様でも世界を救うのは無理です」
「通山が……こうなるのか……」
「神様が身体はこれしかないって言っていましたからね。わたしの趣味ではないです。
それで話を戻しますが、この世界は壊れますが、通山であるところのわたしと不干渉だったクラスメイト――貴方達を含めた4人は助かります。
ただし、世界崩壊まで生きていたらですので、頑張って生き残ってください。そこまで面倒見切れません」
何だかさっきから頭の処理が追い付かないのだけれど、どうやらあたし達が必死で何とかしようと思っていた問題は解決していたらしい。





