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134/197

98 ※文月視点

 年下の女の子を前に、あたしはまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。彼女について考えれば考えるだけ、今の状況が絶望的なような気がしてくるから。


「それでその子、渡してくれませんか?」

「その前にいくつか質問して良いかな?」

「それくらいなら構いませんよ。数日レベルで引き延ばされると面倒ですが、今日くらいはつきあってあげます」


 道久君の問いに応えるフィーニスちゃんの言葉選びに、なんだか変な違和感を覚える。

 何というか、年齢不相応というか……。

 でも彼女が話を聞いてくれる気があるのは助かった。


 問答無用で来られたら、もうすべてが終わっていてもおかしくはなかったから。きっと彼女とあたし達の実力差はそれくらいはある。

 道久君にばかり頼っていてはダメなので、あたしもあたしで自分の出来ることをしなければ。

 具体的にはフィーニスちゃんの目的は何で、生き残るにはどうしたらいいのか、必死に考える。


「フィーニスちゃんの目的は何かな?」

「精霊の回収です。次にフィーニスちゃんと言ったら、質問時間は終了と言うことにさせてもらいますので、そのつもりで」


 不機嫌そうにフィーニスちゃんが道久君を見る。

 あたしも道久君に視線を向けたい。不機嫌にさせると分かっていることを口にしないでほしい。

 でも、道久君にも考えがあっての事だろうし、今は道久君を見るよりもフィーニスちゃんの一挙手一投足を見逃さないことの方が大切だ。


「わ、わかったよ。精霊を回収してからのことを聞きたかったんだけど……」

「わたしの目的は回収するだけです。その結果どうなるかには興味がありません」

「世界が崩壊しようとしている事には?」

「崩壊しますね」

「回収して、それを止めようとしてくれたりは?」

「無理ですね」


 左右に首を振るフィーニスちゃんを見て、道久君が諦めたような顔をする。

 フィーニスちゃんは世界崩壊を止める気はない。けれど精霊はほしい。

 あたしたちは世界崩壊を止めたい。そのために精霊が必要になる。


 完全に対立。


「それなら渡せないよ」

「そうですか。それなら力づくで行くしかないですかね?」

「逃げろ!」


 交渉は決裂。

 道久君の選択は逃亡。

 狭い空間で逃げるのは難しいけれど、一戦交えるよりは可能性が高いと見たのだろう。あたしもそれに賛成だ。


 相手は一人、二人で同時に動けばどちらかは生き残れるはず。

 いずれこんなシーンが来たときのためにと、既に話し合っている。

 どちらが生き残っても恨みっこなしだって。


 でもまあ、道久君が精霊を持っているから、あたしが壁になろう。

 死ぬのは怖いけれど、あたしが生き残ったところで世界が持たない。


 道久君が逃げるのを確認して、あたしは震える唇を、ガチガチと鳴る歯を無理矢理押さえ込んで呪文を唱える。


「ブレッド……」


 たったそれだけ。それだけを口にしたところで、フィーニスちゃんがあたしの目の前にやってきていた。

 それこそ瞬間移動のようだ。でも、あたしのところに来てくれた。


「逃げて道久君!」


 何か言いたげな彼に対して、あたしは先に声をかける。

 悲痛な表情ながらも足を動かし始めた道久君を笑顔で見送る。


 ちゃんと笑顔になってたかな?

 なってなかったらごめんね。


「ルルス、とりあえず捕まえておいてください」


 あたしの精一杯の笑顔を嘲るように、フィーニスちゃんがそう告げる。

 というか、もう1人居たんだ。全く気付いていなかった。

 諦めたような心地で、道久君の方を見るとフィーニスちゃんによく似た女の子が魔法を使って、道久君を捕まえていた。


 道久君がもがいているけれど、まるでびくともしていない。

 これでも人の中ではステータスが高い方のはずなのだけれど、ここまで何も出来ないとなると、生半可なステータスじゃないのだろう。


 というか、このフィーニスちゃんは、前にあった子とは違うのだろうか?

 よく似た姉妹がほかにもいるのだとしたら、あのステータスが控えめなことは別の子かもしれない。


「何を考えているのか知りませんけど、とりあえず貴方達は1つ勘違いをしてます。いえ、反応を見る限り、2つ以上勘違いしていそうですけど」

「勘違いって何かな?」


 もがくのを諦めた道久君がフィーニスちゃんに尋ねる。

 というか、何であたし達を捕まえるだけで殺さないのだろうか。

 なんだろう、殺す前に遺言でも聞いてやろう、みたいな事なのだろうか?


「世界崩壊を防ぐと言っていましたが、もう世界の崩壊を防ぐ手だてはありません。

 精霊を解放したところで、表面を取り繕うだけです。その裏では世界崩壊が進み、ある日突然終焉がきます」

「それが事実だと証明できるのかい?」

「何故証明しないといけないんでしょう? それを問える立場ですか?」


 フィーニスちゃんが冷たく言い返す。

 確かに今のあたし達がフィーニスちゃんに尋ねられる立場ではない。

 いつ殺されてもおかしくない状況だから。


 今の話はあくまで善意。信じないなら信じないで構わない、それだけの話。


「なーんて。教える義理がないのは確かですが、良いですよ。

 わたしを「鑑定」してみてください。それで信じられなければ、ちょっとわたしにはどうしようもないです」


 フィーニスちゃんがあたしの方を見る。

 間近にいるフィーニスちゃんは、あたしなんか足元にも及ばない美少女で、それだけで気後れしてしまう。

 だけれど彼女の言葉に逆らうことが出来ずに「鑑定」を使った。


 そう言えば、「鑑定」の事をフィーニスちゃんに教えたことがあったっけ? と思ったときには、そんな考え忘れてしまうかのようなステータスが表示された。


フィーニス

年齢:0 性別:女

体力:4085

魔力:4952

筋力:3732

耐久:3572

知力:4157

抵抗:3983

敏捷:4341


称号:亜神

スキル:言語理解

    勇者(6)

    騎士(6)

    賢者(7)

    聖女(2)

    隠密(5)

    亜神感覚(1)

    契約

    創造

    テイム

この流れが終わるくらいまで、視点は文月のままだと思います。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
勘違いからの対立、ハラハラしますね……! けっこう逃亡ペアを好きになってきていたので教える義理がなくても一応は誤解を解こうとするフィーニスちゃんにホッとしました。
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