表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/197

閑話 計画の前倒し ※女木視点

「とうとう一人死んだみたいだね」


 磯部君が報告書を見ながらぼそっとつぶやいた。

 フラーウスとニゲルの戦争。

 クラスメイト達の功績もあって、フラーウスが優勢に進めている中、今までクラスメイト達の死者は出ていなかったけれど、とうとう犠牲者が出たらしい。


 戦争だからそんなこともあるだろう。むしろ今まで誰も死者が出なかったことが奇蹟だといえる。


「それで誰が死んだの?」

磔馬(たくま)

「ああ~……。死因は?」

「不明って書かれてるけど、たぶん限界が来たんだと思うよ」


 限界とは要するに寿命と言っていいと思う。

 この場合、過労死とも少し違うから。

 ボク達を召喚した召喚魔法には、大きな欠陥がある。と言うか、その欠陥を世界のために利用しているのが、勇者召喚と言うものだ。


 勇者に魔王を倒してほしい。だけど魔王を倒したあとは、速やかに勇者にも居なくなってほしい。

 そのために強い者を召喚するのではなくて、あえて弱い者にある魔法をかけて召喚したのが今の勇者召喚。


 ある魔法とは強くなる、強くなり易くなる代わりに、寿命を縮めると言うもの。

 急激な成長で体が付いていけなくなるのももちろん、成長すればするだけ寿命が減っていく。


 一般高校生だったボク達が、世界の手に負えない魔王を倒せるようになるのだから、あって当然の代価だと思う。

 何せボク達はフラーウスに召喚されたのだから。物語にあるように、神様に呼ばれて、特別な力を与えられたのではない。


 フラーウスに呼ばれて、無茶な力を入れ込まれたのだ。

 だからボク達は強くなるのを避けてきた。


 それでも短くなっただろう。ならば強くなり続けているクラスメイト達の寿命はもう20年もないんじゃなかろうか。

 特に磔馬君の場合、かなりえげつない魔法も合わせて使われている。

 死んで当然というか、よく今まで持ったよなと言いたくなるレベルだ。


 それから、成長速度が速いほど体への負担が大きいなら、クラスメイトについてもう1つ報告がありそうだ。


市成(いちなり)君もそろそろ何かあるんじゃない?」

「血を吐いたって。でも、今は何かが吹っ切れたように、進軍しているらしいよ」


 市成君の戦果は常々報告されていた。めざましいものだと言わざるを得ない。それだけ急激に成長したのだともいえる。

 だからこその吐血。吹っ切れたようになんて言っているけれど、たぶん死から目をそらしているんじゃないかな。


 とりあえず、戦争に関してはそれ以上に特筆することはない。

 磔馬君や市成君についても、「まあそうだよね」くらいの印象しかない。ボク達の準備は着々と進んでいる。


 クラスメイト達の戦果よりも、クラスメイト達が攻め落とした村で血に塗れた剣が見つかったことの方が大きな収穫だ。

 その剣が何の珍しくもないただの剣で、それだけでは本来何の証拠にならなかったとしても。


 それが王都の武器屋でも売られているというのが、とても大事な事なのだ。と磯部君が言っていた。

 民衆は「そう言うことらしい」とか「それっぽい」で動くものだと。

 言われてみれば、事実かどうか分からないことでも、SNSでは簡単に炎上していたものだ。


 その延長と言われると、少しは理解できる。


 それに計画を実行してくれる貴族にもあたりが付いた。

 ボク達にはたどり着かないようなルートで接触して、あとはうまくやってもらおうみたいな感じ。


 その貴族だけれど、特別な侍女として働いていた娘が王城で殺されたらしい。

 どこかで聞いたような話だけれど、あえてそこはつっこまない。

 もとより野心家の一族で、娘も自分が国を主導したいがための情報収集に使っていたとのことだ。


 材料はおおよそ揃った。人員もある程度整っている。

 と言うか、人員はボクがなんとでも出来る。

 あとは時期を待つのみだ。


 そう思ったとき、世界が揺れた。

 地鳴りと悲鳴がこだましている。


 ボク達が居るこの場所も結構揺れて、なんかたくさん机から落ちてしまったし、棚の中身もぼろぼろだ。

 特別重要なものはなかったけれど、片づけにどれくらい時間がかかるのだろう。


「磯部君、無事?」

「なんとか」


 ここで怪我されても困るし、無事ならよし。

 外が騒がしいけれど、ボク達が外に出て確認することはない。

 万が一にもボク達の存在を悟られたくないから。


 しばらくして、扉の下から報告書が差し込まれる。

 緊急時の連絡方法の1つ。ほかにもいくつか考えたけれど、幸い使われたことはない。

 それを読むのは磯部君の役目。


 スキルで彼の方が読むのも理解するのも早いから。


「王都の外で地割れ。ほかにも自然災害があちこちで起こったらしい」

「これってもしかして、世界崩壊の前兆だったりする?」

「どうだろうな。でも、可能性はある」

「うへぇ……」


 世界の崩壊が遠からず訪れるのではないか。

 この国の機密をすべて把握した磯部君の言葉が思い出される。

 それでもあと何十年かは大丈夫だと思っていたのだけれど、始まってしまったという事か。


 その理由がなんなのかは分からないけれど、この情報を得ているのはおそらくボク達くらいだろう。

 王族ですら、その可能性に至っていないから。と言うか、精霊の力に頼る生活を送る人にはまず考えつかないことなのだろう。


 考えついても、今ではないと思いこみたいはず。


 そんなことはどうでも良いか。問題はその崩壊する世界に、ボク達も存在しているという事。

 あああああ、くそ。何でこんな事になったんだ?

 勝手に召喚して、世界崩壊するので一緒に巻き込まれてくださいとか、何考えているんだかさっぱりなんだけども。


「どうしてくれようか……ぶっ殺してやろうか……」

「女木、中身出てる」

「おっと。でも、どうしようか」

「……計画を早めるか。この天変地異の原因が国であるって方向に持って行けば、たぶん何とかなるから」


 なるほど。実際の被害状況は分からないけれど、磯部君が言うならそれほどのものなのだろう。

 それこそ戦争とかどうでも良くなるレベルの。

 地割れが起こったらしいし、それに巻き込まれた町や村を取り込めれば十分と。


 それにどうせ死ぬなら、王族に仕返ししてからでも遅くはなさそうだ。


「それじゃあ、やろうか。フラーウス国をめちゃくちゃにしてやろう」

「意気込んでいるところ悪いけれど、すぐに動ける訳じゃない」

「分かってるって。でも、計画を動かすことは出来そうだよね」

「ああ」

「それならいいかな」


 それじゃあ、ボク達の最後の計画を始めよう。

 逃げる必要がなくなったというのは、ある意味でやりやすくなったかもね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
mgfn4kzzfs7y4migblzdwd2gt6w_1cq8_hm_ow_58iu.jpg
― 新着の感想 ―
この二人の暗躍具合がすごく好きだわ。
こちらもこちらでダーク系ヒーローの如く勇者召喚の真実や世界の危機を知っていて復讐に動くのが良いですね…… 主人公の亜神精霊ペアも淡々としていてそれが良いですが、そちらとはまた違った人間らしさがあってこ…
[一言] 磯部!一緒に心中しようぜ!お前ボールな! って言われて召喚されたようなもんだからしゃーないわな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ