閑話 勇者とは? 後編
今のあたし達を呼び出した方法で召喚された人は、どうやら現代の日本と近しい世界の人が多いらしい。
今ある「冒険者」とか「勇者」、「魔王」と言う言葉は、その勇者達によってもたらされた。
その扱いは世代によって様々。弱いときに恩を売って、魔王を倒したあとは穏便に生活してもらうとか、弱いうちに奴隷にしてしまって自由を奪うとか。
かつての勇者と今の勇者では、戦いの経験など大きく違うのだけれど、その戦果は大きく変わることはなかった。
早い話、後者の勇者の方が成長が早いのだ。
そしてもう1つ。詳しくは触れられていないけれど、明らかに違う点に気が付いてしまった。
「ねえ、道久君」
「ん? どうした?」
「新しい召喚方法で呼ばれた今の勇者だけど、明らかに早死にしてるよね?」
「……確かに。理由はかかれてないけど、かつての勇者がその後50年くらい名前が挙がるのに対して、新しい勇者は魔王を倒したあと10年経たずに名前をみないね」
普段は飄々としている道久君が、まじめな顔をして資料を見ている。
それだけことが深刻だと感じているのだろう。
だとしたら、思いついてしまった結論は、思い違いではないのかもしれない。
「あたし達って、高校生では考えられないくらい強くなったよね?
この世界に来たから強くなりやすいんだとしても、他の人と比べても明らかに早いよね?」
「つまり寿命を削って強さを手に入れている……と?」
「強さと引き替えにすぐに死んじゃうって言うのが、禁術の中にあったよね?」
「それに似たものを使われた……。確かに強くなった勇者には、平和になったあとすぐに死んでほしいだろうから、理屈としてもあってる、と思う」
道久君にも納得されてしまった。
つまりあたし達の寿命は着実に減っていると考えた方が良さそうだ。
まだ体に異常は出ていないし、本来魔王を倒すまでは寿命が持つはず。
それでも急に強くなりすぎたら、体がついて行かない可能性もある。
強くなりすぎたステータスに振り回されて、体にダメージが蓄積する可能性も十分にあると思う。
「それから元の世界に帰ったという話も1つもないね」
「帰るのは絶望的。寿命も減ってる。本当になんて事してくれたんだ」
「でもすぐに死ぬ訳じゃないから」
「そうだね。とりあえずは、調べられることは全部調べよう」
「うん」
そうしてまた黙々と資料に目を通す。
初代勇者によって作られた6つの国は、それから長い間栄華を極めていた。
そのときの様子は資料でしか語られていないけれど、少なくとも今の世界よりも栄えていたと言っていい。
穏やかな気候に、豊作の作物。魔法具もたくさんあり今よりも快適な生活を送れていたらしい。
それこそかつての伝説の文明では、こんなにも栄えていたのだ! みたいな夢物語のレベル。
おそらくこの資料を読んだとしても、本当にあったこととは思わないかもしれない。
そもそも、勇者召喚――勇者召喚も伝説上のものとなりかけていたらしいし。
でもあたし達は召喚され、きっとかつての勇者達と肩を並べるほどには強くなるだろう。
だとしたら、これらの話もあながち嘘だとは思えない。
本当に精霊が居て、6カ国にそれぞれ存在するのであれば、どうして衰退してしまったのだろう?
精霊が衰弱してしまったから。
あくまで推論だけれど、それならば衰退すると思う。
精霊の力で栄えていた国々なのだから、精霊の力が弱まれば衰退するのもうなずける。
ここでフラーウスの話に戻ってみる。魔王なんていないのにあたし達が呼ばれた理由は、ニゲル国と戦争をするためだろう。ニゲルを指して魔王が居る国みたいな言い方をしていたと思うし。
フラーウスは自分の国の精霊が弱っていることに気が付いた。
だから仇敵ともいえるニゲルに戦争を仕掛けて、ニゲル国の精霊を奪いたかった。
だけれど戦力が足りなかった。そこでかつて行われていた勇者召喚に目を付けた。と言ったところだろうか?
もしくは単純に国を繁栄させたかったのだと思う。
何にしても、ニゲルの精霊を奪うことが戦争の目的だと考えて良い……ような気がする。
でもニゲルが鬱陶しいとか、ニゲルがフラーウスにとって天敵みたいなものだからと言う可能性もある。
「えっとそう思うんだけど、道久君としてはどう思う?」
「フラーウスが精霊を奪いたいって言うのは、同意するよ。
でもそれよりも、精霊が弱っているという方がやばいかもしれない」
「どうして?」
「ここ見てくれ」
道久君が指さしたところを見ると、かつてこの世界に下った神託が書いてあった。
難しい言葉遣いをしているけれど、簡単に言えば「精霊を解放しなければ、引き返せなくなる」で良いと思う。
そしてそう言う話であれば……。
そう思ったとき、世界が揺れた。
地震かと思ったけれど、少なくともあたしが体験したことがあるそれとは、規模が違う。
もっと大きな衝撃。
それから、天井――この書庫は地下にあるのでつまり地上――がとても騒がしい。
「何かあったみたいだ」
道久君が資料を片づけてすぐに様子を見に走る。
あたしもそれに続いていくと、まるで嵐のように外が荒れていた。
遠くを見れば、竜巻も発生している。
学生達は怯えたように身を寄せ合っていたけれど、その異常はすぐに収まった。
そんな簡単に収まる規模のものではなかったと思うのだけれど。
「道久君。これって、もしかして世界が危ないんじゃないかな?」
「とにかく精霊を解放する方法を探した方が良さそうだ」
寿命が短くなったと言っても、その短くなった寿命がくる前に世界が無くなっては意味がない。
そうして、あたし達の次の目標が決まった。





