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「何だこれは!」
「わたしのスキルです。約束したことはきちんと守ってもらえるような。
そして、国王様。貴方は選択を誤りました。いえ、あくまで国王様的にはそうかなと思うだけで、わたし的にはどうでもいい選択ではありますが」
国王がこちらを睨んでくるけれど、実際スキルは体感しただろうから何も言ってこない。
言いたいことはいっぱいあるだろうけれど、とりあえず僕の言葉を聞くことにしたのだろうか?
それなら、全て教えてあげようか。どうせ噴火に巻き込まれていなくなるのだから。
「精霊とは何でしょう?」
「無限の魔力発生装置だ」
「そこがまず違います。精霊は世界の管理者です」
「ならばこそ管理しておっただろうが」
なかなかに都合のいい解釈をなさっている。とは言え、歴史の中で事実が捻じ曲がることなんていくらでもある。
この世界の不幸は精霊たちが、長く保ってしまったことにあるのかもしれない。
すぐに消滅していれば良かったというつもりはないけれど、早々に力をなくしていれば、精霊に頼りきりと言う世界の構造は生まれていなかった……でもないか。
何せ精霊は第二陣。
どこで狂ってしまったのかと言えば、やはり人の欲。そして恐れ。
ある意味神様のせいなのだけれど、神様の使徒たる僕はそんな考えを持ちません。
それにしても、だいぶ亜神になじんだのか、大きな出来事であればこの世界であったことを思い起こせるようになってきた。
この世界の存在じゃないせいか、勇者についてはあやふやだけれど。
まあ、今はそんなことは良いか。
結局言いたいことは1つ。
「たかが人の分際で、本当に世界を管理できると思っていたんですか?
精霊の限界を把握できていましたか? ここの精霊は消滅間際でしたけれど」
「……」
「精霊の限界も把握できずによく大きなことが言えたものです」
「……お前は何者だ?」
「神の使いと言えばわかりますか? 目的は精霊の回収です」
質問してくれるので、話がしやすくて助かる。
その硬そうな頭で何を考えているのかはわからないけれど、何を考えていても何も変わらないと思う。
「何故精霊を回収する?」
「世界が崩壊するからです。精霊が巻き込まれると次の世界を作るのに余計な手間がかかってしまうらしいですから」
「ではウィリディスの事もお前の仕業か?」
「そうですね」
「今のが事実だと証明してみるがいい。そうすれば信じてやらんこともない」
お、さすがに僕の話をそのまま信じるつもりはないらしい。
一国の王として信じて良い話ではないし。でもやっぱり頭が硬いかな。
「証明する気はないですよ。してもこちらの得にはなりませんから。ですから話はこれでおしまいです。
ですが1つ。管理していると豪語していたとおり、確かに多少は管理できていました。
では今はどうなったでしょう? まさか精霊を鍛冶のためにしか使っていなかったということはないはずです」
「まさか……」
「国王様。貴方は選択を誤りました。故にこの国は亡びるでしょう。
貴方は史上最悪の愚王と後世に伝えられる可能性もありましたが……良かったですね。この世界に後世は存在しません」
「待て」
「それではごきげんよう」
当然待つことはせずに、王城を後にする。この国で隠れる気はないので、思いっきり壁を壊して。
軽く殴っただけなのに部屋の壁一面にひびが入った。うん、相変わらず亜神の力は可笑しい。
そしてこれを制御できるようになってきた僕も、大概なのだろう。
「もういいですよ」
『わかりました』
王都から十分に離れたところで、ルルスに火山の抑えを解いてもらう。
とたん、もくもくと黒い煙が火山からあがっていく。
それからゴーンともドーンともバーンとも聞こえるような轟音とともに、火柱が立ちのぼるように噴火がはじまった。
衝撃波で肌がビリビリする。自然の驚異というのは恐ろしいものだ。人だったら吹き飛ばされていたことだろう。
生の噴火は迫力あるなーと、ぼんやり考えていた時、地面が割れた。
地面が割れ、マグマが流れ込み、ルベルの王都は阿鼻叫喚だろうが、今の問題はそれではない。
「この地割れ、ヤバい奴ですよね?」
尋ねてみたけれど、ルルスからの返事はない。
どうしたものかとルルスを見ると、何やら動揺したように目を見開いていた。
「こんな、こんな早く始まるはずありませんっ」
「やっぱり世界崩壊の前兆ですか。それはそれとして、ルルス落ち着いてください」
「申し訳ありません。取り乱しました」
「何があったかは後で神様に訊くとして、ルルスが分かることはありますか?
あの神様結構大雑把なんですよ」
軽口を叩けばルルスが呆れた顔を見せる。
神様は上司だろうし、この話も聞いているかもしれないし、内心命が惜しくないのかとか思われていそう。
死ぬのは嫌だけれど、命は惜しくないのだよこれが。
「詳しくは私にもわかりません。今のは前兆ですので、すぐに世界が崩壊するということもないでしょう。ですが今後この世界は一気に住みにくくなっていくはずです」
「僕たちには関係なさそうですね。精霊がどうのって話ではないんですよね?」
「はい。精霊によるものではないです。ですが……これは」
「どうしました?」
何かルルスが怪電波を受信したらしい。集中するためか、両手で耳を押さえている。
「たぶん闇の精霊でしょうか? 私達とは違ってかなりの力を残しているみたいです」
「精霊を大事にしていたところもあるってことですね。おそらくニゲルでしょうけど」
だとしたら、次はどう動いたもんですかいね?





