93(無題)
大陸の南東に浮かぶ島国、カエルレウス。人魚族と有翼族が主に暮らす国。
水の都と称される王都には水路が張り巡らされていて、人魚族は水路を有翼族は空を飛んで移動する。少数ながらも存在する他の種族はゴンドラを生活の1部として取り入れている。
また王城も水と調和しており、その美しさは一度は見ておくべきだと言われるほどだった。
その王城の一室。魚人族の国王とその右腕たる有翼族の宰相が、机を挟んで剣呑な雰囲気で話をしている。
「フラーウスとニゲルの戦争は、フラーウスが優勢との事です」
「軍としての強さはニゲルの方が上のはずだが……やはり勇者の存在か」
「左様でしょうな。いかながなさいますか?」
宰相に問われ国王が「ううむ……」と唸る。
このまま戦が進めば、フラーウスが勝利するのはほぼ確実。
そうなった場合にどうなるのか。
その答えはすでに王の中に存在していたが、確認をするように宰相に問いかけた。
「フラーウス国。穏健そうにしておったが、その腹の内ではかなりの野心を燃やしておるとされておるな?」
「おっしゃるとおりです」
「ならばニゲルを討った後で、大陸統一を狙う可能性もある」
「ではフラーウスに攻め入りますか?」
「出来れば苦労はせん。フラーウスを敵に回せば、アクィルスがちょっかいをかけてくるだろう。
しかもフラーウスは勇者の投入で戦力の多くを国内に残している。違うか?」
「そのとおりでしょう。ほぼ確実にアクィルスとフラーウスの連合軍との戦いになるはずです。
アクィルスが参戦する前に攻め落とせればいいのですが、それもかないますまい」
飄々と答える宰相を国王が忌々しそうに睨みつける。
本当に嫌っているわけではなく、気安い仲だからこその表情だと言えるだろう。
ここまでは、2人にとって確認でしかない。
故にここからが本題となる。
「だとしたら万が一に備えて、こちらも準備をしておくほかあるまい」
「では……」
「フラーウスの変質したものとは違う、元来の勇者召喚を見せてくれようぞ。
疾く準備を始めよ」
「はっ」
国王の命令に宰相は返事をして急ぎ部屋を出て行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ソレは異物を核にして作られた。
ソレは生まれながらにして、自分の存在理由を知っていた。
かつて居た同じ者たちとは違う使命を与えられていることも悟った。
それでも構わなかった。使命をなすだけの力はある。使命を成すだけの能力も得た。
この世界内であれば、最強を誇れるだけの力を。
ソレの作り主が、寿命を削ってまで与えた能力で持って、使命をなす。
ひとまずソレは目の前の木偶を消し飛ばした。





