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1億円依頼をこなして、帰ってきた僕たちをあの受付嬢は嬉しそうに迎え入れてくれた。
無茶はしないとそんなに信じてもらえなかったのだろうか。
まあ、無理か。古代竜の鱗が落ちている場所知っているなんて、そうそうあり得ない。
たぶんズルしなければ、宝くじを当てる方が簡単だと思う。
見つからずに無茶して死ぬというのが、未来予想図だろうか。
これで1億円の儲けだ、と思ったのだけれど、受付さんから待ったがかかってしまった。
「何か問題ありましたか?」
「フィーさんの問題ではなくて、こちらの問題ですね。古代竜の鱗はそれこそ記録でしか残されていないような代物ですから、これが本物かを確認する必要があります。
本来であればフィーさんの物だと証明するために、調べる場に一緒に着いてきてもらうのが良いのですが……」
「どこか目立つ場所にでも行くんですか?」
「いいえ、「鑑定」のスキルを持つ人のところに行くだけです。
任せてもらうことも可能ですが、高価なものを鑑定した場合、担当した者がそれを奪って逃げてしまうということが起こらないわけではありません」
「それなら一緒に行きましょうか。別に信用していないわけではありませんが、「鑑定」には興味があります」
「それならご案内します」
本当に信用していないわけではない。
盗む気があるなら、わざわざ言う必要はないから。
それにそのうえで盗むというのであれば、その胆力は純粋にすごいと思うし、見逃してあげても良いかなとも思う。
ちょっと古代竜さんの機嫌が悪くなるだけで、また拾いに行けばいいし。
受付さんの後ろをルルスと一緒に歩きながら、話しかける。
「そう言えば、古代竜の鱗をどうする気なんでしょうね」
「それにお答えすることはできません」
「それはそうですね」
何に使うかなんて冒険者が知る必要がない情報だし。
「そもそも、その依頼については私もわからないんです。
ここに来た時にはすでにあった依頼で、上も特に触れなかった依頼ですから」
「上と言うのは、コレギウム長は知っているんですか?」
「どうなんでしょうか? 変な依頼がある程度にしか認識していないと思います。
コレギウムに持ち込まれる依頼は膨大で、それをすべて把握するのは不可能ですから」
「この依頼を受けた人ってどれくらいいるんですか?」
「記録はありますね。季節が1度巡る間に1組、2組と言った所ですが」
なるほど、なんともきな臭いにおいがする。
何かこうやって少しずつ情報が出てきて、答えを導くのは推理物の小説っぽくて面白い。
でも、僕はもっぱらととにかく読み進めて、謎解きの時に感心する完全なる受け手だったけれど。
「さてこの部屋になります」
受付さんが止まったのは1枚の扉の前。「鑑定部屋」なんて札が下がっているので、間違えることはないだろう。
「鑑定」持ちね。「鑑定」持ち。
精霊の回復を待っているという状況だからだろうか、ちょっといたずら心が出てきてしまう。
受付さんの後についてはいると、中には本に埋もれた人族っぽい優男がいた。
「「鑑定」をお願いします」
「「鑑定」ね。はいはい。今日こそ面白いものが見れればいいんだけど」
男性にやる気が感じられないのは、気のせいではないのだろう。
やる気がないというか、やさぐれていると言うか。
たぶん偽物ばかり鑑定させられた過去があったりするのだろう。
それで鑑定結果を伝えると逆切れされるとか、ありそうだなー……。
なんだかこの男性が可哀そうになってきたのだけれど、そんなことを考えている間に受付さんが古代竜の鱗を男性に見せた。
疑うような目をしていた男性は、しかし、すぐに目を輝かせて鱗を貪らんばかりに近づく。
なるほど、そう言うタイプの人なのか。
「古代竜の鱗……その本物をこの目で見ることができるなんて!
今まで何度偽物を見せられてきた事か……しかも、偽物って言うと怒りだすし……」
やっぱり心に闇を抱えていたのか。
「確かに本物なんですね?」
「ああ、確かに。今証明書を書くよ」
そう言って、優男が本に埋もれた机の中から紙を取り出して、何かを書き始める。
魔力を感じるのでたぶん魔法具の1つ。
鑑定してみたところ、嘘が書けない紙と言った感じか。
鑑定の結果を客観的に見ても本当だと認めるのに必要なもの。
僕であれば改竄できそうだけれど、今回は強いて改竄する必要もない。
紙を書いている男性を見ていると、目が合った。
向こうとしては、誰が古代竜の鱗を見つけたのか興味があったのだろう。
だから使ってしまったのだろう。
男性の目が大きく見開かれる。
僕はクスリと笑ってから、受付さんの方を見た。
「あの証明書ってどうするんですか?」
「フィーさんに持っていてもらうことになります。今回のような高額依頼には稀にあることなのですが、依頼達成後に依頼主から報酬を受け取り、それを冒険者さん達に渡すのです」
「なるほど。依頼主にごねられないようにするための証明書になるんですね」
「はい。鑑定をしたものを持っていっても、偽物だと素直に受け取ってくれない方もいらっしゃいまして……」
「それなら先に戻っていて良いですよ。お仕事もあるでしょうし、それがあればひとまずは大丈夫だと思いますから。わたし、ちょっと彼と話をしてみたいんです」
「興味があるといっていましたね。分かりました。ステータス的に大丈夫だと思いますが、何かされそうになったら遠慮なく叩き潰すか、助けを呼んでくださいね」
よし、これで受付さんは排除できた。
彼女が確かに出て行ったのを確認してから、鑑定士の男性の方を見る。
それから、なんだか息が荒くなっている彼に、楽し気な笑顔を向けてあげた。
「わたしのステータス、見ましたね?」
 





