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とりあえず噴火については、ルルスと火の精霊に止めてもらっているので大丈夫。
噴火させるかどうかは後で考えよう。
これからの行動だけれど、しばらくルベル国で過ごそうと思う。
火の精霊を回復させるためには、火の近くにいるのが一番ということで、火山地帯のここは都合がいい。
と言うか、精霊たちを閉じ込めている場所がその精霊の属性に合わせているのは、精霊たちの回復を促すためだろう。
ルルスが暗闇の中に捕らわれていたら、風の精霊が地中に捕らわれていたら、すでに消滅していたはずだ。
「衰弱が酷そうですね」
『ですがもう大丈夫でしょう。少しずつ回復しています』
「話とかは出来そうになさそうですね? 出来たとしても話すことはないのですが」
『話せる程度に回復したら、神様の元へと送り返せるでしょうし、フィーニス様が望まなければ話さずに終えられるでしょう』
「じゃあ、その方向で行きましょうか。旅の道連れはルルスだけで十分です」
『それは光栄ですね』
元々ボッチ気質の僕としては――いかに亜神になって何とかなったとはいえ、旅の道連れは少ないほうが良いからなのだけれど、これは黙っていよう。
ずっと一緒にいるルルスはいても気にならないのだけれど、もう1人増えたら慣れるまで違和感ありそうだ。
「少し暇になってしまったわけですが、とりあえず古代竜さんに話でも聞いてみましょうか。
長生きみたいですし、面白い話を知っているかもしれません」
『話を聞くのは良いですが、ずっとここに閉じ込められていたのではないですか?』
「そう言えばそうか。でもなんでここに閉じ込められていたのかとかは、面白い話が聞けるかもしれません。
あとこれは単純に興味本位ですが、ルルスはあの古代竜に勝てますか?」
古代竜は間違いなくこの世界最強クラスの存在だ。
カンストまでは、折り返して少し行った所だけれど、そもそもカンストになんてならないように調整していると思う。
ポンポンカンスト出していたら、本格的にゲームと一緒になりそうだし。
カンストなんてものは、バグらせてバグらせてようやくたどり着けるようなところなわけだ。
僕はどうなのかと言えば、バグもバグだろう。
4桁とかバグとかそう言うレベルじゃない。それこそチートの領域。
おかげでお仕事が簡単にできるわけだけれど。
『決着がつく前に一帯が焦土となりそうですが……今の私なら負けることはないでしょう。
勝てるかどうかは勝利条件次第です』
「僕の見立てだとぎりぎりルルスに分が悪いかなと思っていたんですが、そうでもないんですね」
まあ、見立てと言ってもルルスの話から、大体ステータス平均が500くらいかなと思っていただけなのだけれど。
『私も経験を積むことができましたからね。日々修行しているようなもの、と言えばいいのでしょうか?』
「なるほどルルスは現在進行形で世界を調節しているんでしたね。
そのうえで火山も頼みましたけど、大丈夫ですか?」
『はい、大丈夫です。万が一の時の力は残すようにしていますから、消耗するということはまずありません』
「それならいいです。今更ルルスに消えられるのは寂しいですからね」
話し相手がいなくなるし。
行きとは違い帰りは、気楽に戻ることができた。
◇
「それでどうして古代竜さんはこんなところに縛り付けられたんですか?」
『勇者と名乗る人の子に負けたからだ』
「あー……ここで勇者出てきますか。いや、出てこないわけないですね。
勇者ってどんな人でした?」
『どうだったか。精霊を捕らえ、ここに置くから見張っておけと言われたことは覚えているが……』
古代竜のところに戻って話を聞いてみると、かつての勇者の姿が見え隠れする。
見え隠れどころか、もろ丸見えだけれど。隠れ要素どこよ。
今より弱かったとしても、古代竜に勝てるなんて勇者以外で……いや、種族が人じゃなければいけなくもないか。
死後も縛り続ける魔法を使えるのはさすがに勇者くらいだろうから、他に考えられない。うん、そう言うことにした。
「その勇者、何か言っていませんでしたか?」
『精霊が解放された時に我の縛りが解かれる。だったか? そのようなことを言っておった。
解放されるのにかかる時間は長くないとか抜かしておったが、結局はこのざまだ』
勇者の話が嘘ではないならば、精霊を捕らえた勇者はいつまでも捕らえておくつもりはなく、一時的な措置のつもりだったのだろうか。
何かの問題があり、精霊を捕らえることでしか解決できなかったけれど、人は精霊の力に魅了され手放すことができなかったと。
予想でしかないけれど、なかなかに面白い話だ。
その話はその話として、一つ問題が起きたかもしれない。
僕的には割とどうでもいいのだけれど。それでも一応確認しておいたほうが良いだろう。
「ところで精霊はこうやって解放しましたから、縛りはなくなっているんじゃないですか?」
『何? ……おぉ、おお! 忌々しい縛りが消えているだと!』
「それは何よりです。それで古代竜さんはこれからどうする気ですか?」
『それはもちろん、人共を皆殺しに……と言いたいが、主に従おう。
人など殺さずとも、近いうちに世界が崩壊する。奴らには自らの業を見て死ぬのが良い』
一瞬面倒なことになりそうだと思ったけれど、結構理性的で助かった。
と言うか、復讐の仕方が僕に似ているだけか。
世界崩壊の前兆にすら気が付かない人々を今殺したところで、逆に救いだと言える。
世界崩壊が眼前に迫った時に殺したとしても、それはやはり救いになる。
だからこそ放置する。うん、嫌いじゃない。
「そう言うことなら、残り時間は長くないですが好きに生きてください。
いえ1つだけ命令しておきます。今代の勇者達には手を出さず、殺さないようにしてください。
少なくとも貴方を縛った勇者とは無関係ですので」
『承知した。だが何故だ?』
「僕の復讐対象なんですよ。今いい感じに自滅していっているので、横やりを入れられると台無しなんです」
『ああ、決して忘れるまい』
「はい、お願いしますね。それじゃあルルス、王都の方まで下りてみましょうか」
「はい、フィーニス様」
ルルスに声をかけて、古代竜の住処を後にした。





