81
まるで花が咲くように、檻が開いていく。
妙に凝った演出は、鍵を使ったからこそなのだろうか?
ルルスを回収した時には、こんな感じではなかった。でもなんだか機械的と言うか……まあ、贅沢を言うのはやめておこう。
やったぁ! 何てすごい演出なんだ! こんな演出が見たかったんだ!
……うん。
さて、風の精霊だけれど緑色の光を放つ球体をしている。これについては予想通りと言うか、お約束通りと言うか、安直な感じ。
きっと火の精霊は赤くて、水の精霊は青くて、地の精霊は……茶色?
闇の精霊は黒に光るとかいう、中二心を弾ませてくれる見た目をしているはずだ。
なんて考えている間に、精霊は神様のもとへ。これで2人目。なかなかに悪くないペースだと思う。
振り返ると国王様がポカンとしていた。謁見の間ではどれだけ僕が不敬な態度を取っても、ほとんど表情を変えなかったのに、そんな阿保面を見せて良いのだろうか?
それからわなわなと震え出すと、王族にあるまじき取り乱し方で、怒鳴り始めた。
「お主何をしおった! 兵よそいつをひっ捕らえよ!」
国王の命令が下り、A級の護衛達が動き出す。
3人ものA級の実力者たちは、相手が獣人族のリーダーであればいい勝負ができるだろう。
相応に動きが早く、相応に力強い。
リーダーが守りに徹すれば、攻め切ることは出来ずとも、負けることはない。
そう考えるとリーダーすごいな。
でもそれくらいなければ、エルフに攻め入ろうなんて考えないか。
運が悪ければ即死だろうけれど。
さて三方向から同時に魔法で攻撃されそうになっているのだけれど、避けて良いんだろうか?
避けたらフレンドリーファイアとかならない?
ちゃんと相殺される?
ま、そんなことも配慮できずに王の護衛なんてやっていられないか。
ということで避けましょう。具体的には、四方の開いているところに。
サッと避けると、3つの魔法がぶつかって爆発した。
爆風でエルフたちが吹き飛ばされる。
そして、驚愕したような目をこちらに向けた。
「これくらいで驚かれても、こちらが困るんですが……」
こちとら獣人族のリーダーを倒してきた猛者ぞ?
見た目だけで侮りおったな?
年を取るにしても、こんな風には取りたくないな。
年齢を重ねた分だけえらいなんてことはないことを、しっかり頭に叩き込んでおこう。
「何をしておる。早く捕らえよ」
「国王様ももっと現実を見たほうが良いと思いますよ?」
まともにやったらどうやったって、無理なことは今のを見ればわかるだろうに。
何より、僕に構っている暇はないのではないだろうか。
「では精霊は回収させていただきましたので、わたしはここらで失礼いたします。
どうやら精霊の樹は精霊によって保たれているという話でしたので、どうぞ急いでお逃げになった方が良いかと。それではもう二度と会うことがございませんよう、お祈りいたします」
頭を下げて精霊の樹から飛び降りる。
高層ビルから飛び降りるような感覚だろうか?
バンジージャンプとか、こんな感じなのかもしれない。
地面に着くまでは案外短い。
衝撃も綺麗に逃がして、10点満点の着地。
そして着地した背後で、ゴゴゴゴゴゴゴ……と不穏な音がしている。
空気が振動している。
よし、良く見える位置に移動しよう!
◇
精霊の樹が揺れている。
揺れているというか、振動しているというか……。
どちらにしても、今すぐにでも倒れてしまわんばかりだ。
エルフたちは逃げまどっている。それをあるエルフが纏めようとしている。
誰かと思ったら、第六王子らしい。
遠くて詳しくは見えないけれど、どうやら僕の話を信じていたようだ。
先導が行き当たりばったりではなくて、ちゃんと考えて行われているように見える。
「あのエルフ。フィーニス様の事を信用したようですね」
「そうみたいですね。お節介を焼いた甲斐があったというものです」
「フィーニス様はエルフを助けたかったんですか?」
言われてみると、多少は助けようと動いてきたような気がする。
具体的には第六王子とのやり取り辺り。
助けようとしたとは言っても、万が一の時に助かる道をぼそっと呟いただけだけれど。
どちらかと言えば、エルフたちを引っ掻き回していただけなような気もする。
だけれど別に積極的に助けようと思ったわけでもない。
助かっても、助からなくても良いくらいにしか思っていない。
だけれど、そうだ。
「わずかな労力で思い通りに事が動いたら、面白いと思いませんか?」
「ですが、それはフィーニス様の目的とは違いますよね?」
ルルスが首をかしげる。
この感覚は何と言うか、人間的と言うか、神的と言うか。
単純に僕がひねくれているだけかもしれない。
たった一言。たった一言、僕が王子に言葉を伝えただけで、大勢のエルフが助かることだろう。
その先でまた、獣人族との争いに巻き込まれて死ぬかもしれないけど。
でもたった今、目の前に広がっている光景は、現実のものだ。
それはなんだかとても楽しい。
この後で獣人族と争い、多くの命がなくなるかもしれないけれど、それはそれ。
その責任は僕にはない。
さてこれをルルスに説明するのは、少し面倒なのだけれど、次の目的地を決めるまでの時間つぶしにでも話すことにしようか。





