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 何度目なのか分からないけれど、精霊の樹に帰ってきた。

 エルフの人々が住む、大きな大きな樹。その中に町を内包しているというだけで、その大きさは分かってくれると思う。

 それももしかしたら、今日で最後かもしれない。


 そんなことを思いながら、高級ホテルで猫を撫でながらワイングラスを回す妄想にふけってみる。

 悪役ムーブだ!

 と言いつつ、精霊の樹には高級ホテルないし、そもそもこういう悪役って見たことない。

 何と言うか、マフィアのボスっぽい感じはするけれど、感じがするだけって感じ。


 無人島に前王(おじいちゃん)を置いて、牢屋に帰ってきただけです、はい。

 リーダーの頭を回収しないといけないからね。

 頭を回収したら、部屋に戻る。


 そして使いの人を呼んだ。


「例の仕事をしてきました。面会をお願いします、と陛下にお伝えください」


 こんな風に言伝を頼んで、後はのんびり待つことにした。





「獣人族のリーダーを討ったという話は本当か?」

「はい、もちろんです。きちんと証拠も持ってきましたよ」

「ではその証拠とやらを見せてもらおう」


 また周りに人がいるところに呼び出して、この王様は何を考えているんだろうか。

 首持ってくるって言ったのに。

 首を見たい人がこんなにいるのか。


 もしかしてエルフってヤバい人種なのではないだろうか。

 でも深い言及はやめておこう。性的趣向に口出しすると、酷いしっぺ返しを食らうんだ。

 僕は詳しいんだ。


 尋ねたが最後、相手が満足するまで話を聞かされると、聞いたことがあるんだ。

 何度も何度も。ネットに載っていた情報だから、間違いないね。

 リアルにはそんなことなかったけどね。ボッチだからね。


「ここで見せて良いんですか?」

「構わん」


 考えていることを顔には出さずに、冷静に聞いてみたけれど、やっぱりここで見たいらしい。

 それならいいかと、持っていた袋から獣人のリーダーの首を取り出す。

 それを見た周りのエルフが、顔色を変えた。

 何と言うか、怯えたような、化け物でも見たかのような、そんな感じ。


 こういうの好きだったんじゃなかったの? という冗談は置いておいて、ちゃんと首を持ってくると言ったのに。人の話を……いや、神の話を聞かないな。

 聞かなかったから世界が崩壊しかけているのだけれど。


「貴様何のつもりだ」


 外野は相変わらずこちらにマウントを取ってこようとするけれど、話を聞いていない方が悪い。

 あの人が直接聞いたかどうかは分からないけれど、国王は知っているはずだし。


「何のつもりもありませんよ。

 獣人族のトップの首を持ってきたら、この国にいる精霊のところまで連れて行ってもらうという契約ですから、その契約に従ったまでです。

 ですから、首を持ってきました」

「確かに。だが残念ながら、それは獣人の首魁ではな……」


 国王が何か言おうとして止まる。と言うか、苦しみ始める。

 やるとは思っていたけれど、ここまで悪びれもせず言おうとするなんて、さすがは王様の胆力だ。


「貴様王に何をした」

「契約を確実に履行するようなスキルを使っただけですよ。

 契約を故意に破棄しようとすれば、ああなります。契約を守ってさえくれれば、そんなことにはなりません」


 偽りなく答えたのに睨まれた。

 偽りなく答えたから睨まれたのかもしれないけれど。


 対して国王はフンと鼻を鳴らして開き直る姿勢を見せる。

 何と言うか、本当に王様だなって思う。これくらい図太くないと、国王などやっていけないのだろう。でも時と場合はちゃんと選んだほうが良いと思う。下手したら死んでいたのだから。


「確かに其奴は首魁よ。契約通りお主を精霊の間まで連れ行こう。それでよいな?」

「はい、もちろん」


 たぶん、見せたところでどうにもできないとか思っていそうだけれど、連れて行ってくれるならよし。まあ、失われた魔法技術の結晶をどうにかできる存在なんて、考慮する方が難しいとは思うけれど。





 あの後もなんだかんだと、文句をつけられていたけれど「あまり邪魔すると、国王様が死にますよ?」と言ったら皆黙った。


 それから、王様の後ろをついて王族だけが入れる結界の中に入る。護衛は3人。全員A級で僕を囲むように歩いている。

 道案内をされている間、全く会話はない。

 別に僕と国王は仲良しこよしってわけでもないので、変に話しかけられた方が困るのだけれど。


 と言うか、ボッチ的には話しかけられた方が困るのだけれど。

 現在のコミュ力の9割が亜神由来。人とかどうでもいいので、失敗とか恐れずに話しかけられるため。


 王族スペースに入ってからは、すれ違う人に「何だこの人」みたいな目で見られる。

 王族と同等の扱いとはいったい何だったのか。護衛に囲まれているからなのか。

 第六王子に「精霊貰っていきますね」と言っても良かったけれど居なさそうなので、あとは僕の話をどれくらい信じてくれたかがエルフの命運を分けそうだ。


 王の私室と思われる部屋の前で足を止めた。


「しばしここで待て」


 それだけ言い残して、一人で部屋の中に入る。

 黙って待っていること数分。王が部屋から出てきた。

 促されて中に入ると、いかにも国王の部屋みたいな豪華な部屋が現れた。


 ベッドも10人くらいで寝ても大丈夫な感じだし、天蓋なんてものもついている。

 調度の1つ1つもいかにも高級です、みたいな雰囲気がにじみ出ていた。


 そして壁の1部。金の枠で飾られたところの向こうに、階段が見える。

 そこに鏡があったのか。扉くらいの大きさがある。

 ぜひともどうやって現れたのか見たかったのだけれど、今回は諦めるしかなさそうだ。


 国王が先導する中、階段を昇って行った先で、ルルスが捕らえられていたような空間に出た。

 違うところは四方の壁が無いところがあり、風が良く入ること。

 中心部――精霊を閉じ込める檻に近づくほどに風が強くなっているらしい。


「これで契約は完了でいいな?」

「はい。ですが、もう少し近くで見させてください」

「フン、好きにせい」


 忌々しげに話す王様に許可をもらったので、檻に近づく。

 一緒に護衛もついてくる。

 何か王の護衛と言うよりも、僕の護衛っぽい。

 怪しい動きを見せたら殺す気なんだろうけどね。


 檻のすぐ前。手が届くところまでくると、普通なら立っているだけでも辛いような風が吹いている。

 でもここにいるのは、A級冒険者レベルの強者たち。誰一人、風のせいで体勢を崩すことすらない。

 しかもこちらをばっちり観察している。


 まあ、ここまで来た時点で僕の勝ちだけれど。


『神様神様。今から精霊を檻から出すので、即座に回収お願いします』

『はいはい。分かったよ』


 やる気のない神様の声が聞こえてきたので、僕は檻の鍵を腰にぶら下げた袋から取り出し、コツンと檻に当てた。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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