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 エルフ前王に贈る世界崩壊までを平穏無事に過ごすまでの隠れ家は、だだっ広い海の上に浮かぶ無人島。

 国から離れたここは、精霊の加護が及ばない寂れた土地だけれど、そこはルルスにお願いする。

 贅は尽くせないけれど、普通に生活する分には問題ない程度の実り。


「と言った感じに調整とかできますか?」

「大丈夫です。お任せください」


 どんな風に調整をするのかワクワクして待っていると、ルルスが左から右に大きく腕を振った。

 ここからどうなるんだろうか。光がふわふわ舞い降りてきたりとか、光の柱とかでてきたりとか。

 もしかしたら大地震とか来たりするのだろうか。


 ……。アレ? 何も起きない。


 ルルスの方を見ても、目をぱちくりとさせるだけだ。


「もしかして終わりですか?」

「そうですけど……」


 ルルスが困惑している。


 もしかしておかしいのは僕なの?

 これって僕が悪いの?

 確かに勝手にド派手演出を期待したのは僕だけど。


 でもこの世界はそろそろ、ファンタジー的演出を見せてくれても良いと思うのだ。

 贅沢は言わない。言わないけれど、「ごまだれ~」的な特徴的なSEくらいあってもいいではないか。

 でもそこを求めてしまうと、ファンタジー世界ではなくて、ゲーム的世界になるのか。

 いやいや、ステータスが存在するのだから、ゲーム的世界を期待して何が悪いのか、悪くない。


「なんかこう……あっさり終わるんですね」

「調節をするのに一々演出があると、常に世界中で何かしらの演出が出るようになると思いますよ?」

「それは鬱陶しそうですね。

 だとしたら確かに今の方が良いかもしれません」

「それはよかったです」


 こんな会話をしている間にも、見える変化として植物達が瑞々しくなっていく。

 よく見ていないとわからないくらいだけれど、これもまたファンタジー的演出と言えなくもないか。

 これで満足しておこう。


「ありがとうございます。では精霊の樹に戻りましょうか」

「はい」


 寄り道はあと1つ。その間リーダーの首を持ち歩くって言うのも気持ちが良いものではないので、ちょっと置き場所を考えておこう。





 寄り道2つ目。場所は精霊の樹だけれど、国王に首級を持っていく前に、前王に会っておきたい。

 と言うか、鍵が欲しい。

 そう言うわけで、牢屋の前までやってきました。


「お久しぶりです。前王様」

「お主か。ここに来たということは、ワシを連れ出すということか?」

「そうなりますね。とある無人島にご招待します。

 大きくはないですが、生きていくには十分な糧を用意してもらいました」

「用意してもらった……な。それが事実であれば、ワシは何も聞くまい」

「別に聞いていいですよ。フラーウスにいた精霊にお願いした、ってだけですから」

「……何も聞かなかったことにしよう」


 あけすけに話したら、前王が苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 世の中聞かないほうが良いことって言うのも少なくはないけれど、今回のはそうでもないと思う。

 知ったとして、前王が出来ることってないだろうし。今から無人島連れて行くし。


 逆の立場なら僕も聞きたくなかったけれど。


「とりあえず連れていきます。どうやって出せばいいですか?」

「周囲に感づかれずにと言うことであれば、音さえ立てなければ問題あるまい」

「意外とセキュリティ適当なんですね」

「ここは用意はされていたが、使うことは想定されていなかった牢故な。

 そも現国王はそんなことも知らぬ。ワシが教えておらぬからの」

「前王様ってそんなところありますよね」

「こちらは謀反をされた身。実の子とはいえ、なんでも話すわけがなかろう?」


 不敵に笑う前王様は、なかなかにイケ親父していると思う。

 どこかの今となっては検索エンジンになってしまった神様も見習ってほしい。

 さすがにそれは冗談だけれど。


 たぶん神様が本気を出して威厳を出そうとしたら、重圧(プレッシャー)でまともに動くこともできないだろう。

 普通の人なら意識失うとか、最悪死ぬレベル。


 とりあえず、音が聞こえないようにすればいいなら、魔法で遮って適当に壊せばいいか。


「すぐ壊しますので離れていてください。あと鍵ください」

「ここから出られればすぐにでも見せよう」


 渡すではないところに貴族的駆け引きを感じる。

 とは言え、場所を教えてくれるという契約のはずなので、見せてくれるのであれば万々歳ではある。


 それはそれとして、どうやって牢屋を壊そう。

 ピッキングのまねごとをしてみてるのもありだし、純粋に腕力で格子を広げても良い。

 んー、手加減の練習も兼ねて剣を使ってみるか。


 地球におけるいわゆる剣って言うのは、切断には向いていないなんて話は聞いたことはあるけれど、この世界だと切断することも想定しているらしい。


 まあいいや。適当に『創造』して僕の身長の半分くらいの長さがある剣を作る。


「それじゃあ、行きますよ~」


 念のために伝えてから、右薙ぎする。

 前王の目にどのように映ったのかはわからないけれど、使っている側としては、わずかな手ごたえで振りぬくことができた。

 狙い通り格子を切ることはできたけれど、剣の方はダメになっている。

 もっと固い素材を使わないと駄目か。


 まあ、切れたから良しとしよう。

 もう1本剣を作って、再度格子を切れば、人1人が通れるほどの穴が出来た。


「これで出られますね」

「ああ。助かった」

「それで鍵ってどこにあるんですか?」

「牢の中だ」

「牢の中」


 さも当然とばかりに前王が言うので、思わずオウム返ししてしまう。

 そんな僕を無視して、前王は自らが閉じ込められていたところの向かいの牢に入っていった。

 そして中にある調度をいろいろ動かしたかと思うと、壁の一部が扉のように開くと、中からごろりと黒い水晶の玉みたいなのが出てきた。


 えぇ……これまた、ゲームみたいな仕掛けを……。

 そして演出はやっぱりなし。もう期待してないから良いんだ、良いんだもん。へっ。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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