良い人だと思っていた人が実は盗賊でした。なんてことは異世界あるあるだ。 ※僕はそこに就職しました。(小声)
―― 前略、皆さん。 僕はこの世界で元気に過ごしています 盗賊として――
僕がこの世界に来てから半年が過ぎた。
日本ではそろそろ卒業式がある頃だろう。絵里香はどうなったんだろうか。
今の僕はガイさんと一緒に身寄りのない子どもたちと一緒に生活をしている、しがない盗賊団の子分という身分である。頭領はガイさん。団員は僕一人。当然だけど子どもたちは頭数に入れない。
今北産業風に言うと、
・ガイさんは昔両親と王都に住んでいたが、押しかけて来た強盗団に両親は殺され、その強盗団で奴隷の如く働かせられていた。
・20歳になった頃王都から逃げ出し、この辺境の集落で暮らし始める。ここにも身寄りのない今にも死にそうな子供たちが何人もいた。
・生活の手段と、子供たちを養うために強盗団で培ったスキルを活かして義賊として活動。貴族の家から金品を盗み出す盗賊稼業を生業としている。
四行目に、とある貴族の屋敷で一仕事を終えた帰りに時空の旅人である僕を見つけ、背後から吹き矢をぶっ挿してかっさらって来た所、なんとこれが大成功っ!仲間がふえちゃったー(棒)ウマー!
って僕、チョロ過ぎるだろっ!!
そうは言っても子どもたちの笑顔は眩しいし、正直ただの高校生がこの世界で何もせずに食べて行けるはずもない。
そしてガイさんからは戦闘術の他に義賊(盗賊と言うとガイさんが怒る)として必要な様々なスキルを習い、会得して現在に至っている。
今ではガイさんと手分けして重税を課している貴族の屋敷に一人で忍び込み、お宝や金貨を拝借しては生活の糧にしているという塩梅だ。
「なあ、ミツ。折角だからなんかこう、パーティ名っぽいもん、付けねえか?」
「ポイモンって何ですか。前の世界でめっちゃ流行ってましたけど。」
「いや、おめえ突っ込むとこそこじゃねえだろ。」
ゲラゲラと二人で笑いながら、子どもたちと夕食後の時間を過ごしている。
「ガイチャンズ...なんてどうでしょう?」
僕はボソッと呟くように頭に浮かんだものを口に出した。
何故か家の中に沈黙が広がる。
子どもたちまで目をカッと見開いてこっちを見ている様な気がする。
「「「か...カッケェエ――――――――!!!」」」
ガイも含めた全員の声が一つになった。嘘だろ!適当に言ってみただけなのに!
こうしてガイさんと僕はガイチャンズとして今日も今日とて盗賊稼業にまい進するのであった。
盗賊 ―――ぼかっ!痛てっ!!――― ガイさんから心理的突っ込みを受けた気がするので訂正しよう。
義賊の稼業で重要視されるスキルはカギ穴に棒を突っ込んで解錠するピッキングの技術と、貴族の屋敷内で人に見つからないように気配を消すスキルだ。
日本の様にディンプルキーの様な複雑なカギはないが、ドアの内側に閂が嵌められている屋敷が多い事から、裏側の勝手口や二階の窓から忍び込むことが多い。
ある日の夜中。
僕は慣れた手つきで薄い鉄の板を二階の窓の隙間に忍び込ませると、そおーっと持ち上げて鉄の板を斜めにしていく。
解錠した窓を静かに開け、足音を立てずに部屋に忍び込む。
貴族たちは寝室に金庫を置く事が多く、寝室ではずれを引いた場合には書斎を探せば殆どの屋敷で当たりを引ける。
今日の屋敷は寝室に金庫があり、僕はまるで空気の様に気配を絶ちながら金庫を開け、金品の一部を拝借する。
ごっそりやると盗まれた事に気付かれ、警戒されるため、日々の生活が出来る程度に小銭を拝借するのが義賊を長く続ける秘訣だそうだ。
こうして今日も盗んだお金で食料や生活に必要な品を朝市で購入してから、辺境の集落まで戻る。
まさに夜のお勤め、夜勤である。
この時の僕は気付いていなかった。
毎日気配を消して忍び込むスキルが上達しているのは、他でもない中学高校とモブキャラとして空気の様に過ごして来たおかげだったことに。そして、既に僕は女神様から授かっていたギフトを発現させていた事に。
☆
その日も夜勤を終えて朝市で買い物をしていた。騒々しく、雑多な感じがする朝市の雰囲気が僕は好きだった。
日本と同じくこの時期は冬から春に差し掛かる季節のようで、朝のひんやりとした空気の中で僕は温かいお茶を啜っていた。
「魔王が―――」
「勇者が―――」
「時空の勇者―――」
「それは大層美しい―――」
町の話題は魔王の目覚めと共に、時空の旅人の中に神の力 ―勇者― を得た美しい女性が王都に現われたという内容で持ち切りであった。
時空の旅人というのだから、僕がいた地球の世界から来た女性なんだろうか。もしかしたら昔読んだラノベみたいに、日本の女子高生かもしれないな。
そんなことをぼんやりと考えながら、買い物を済ませて家に戻った。
「おかえり!ミツ兄ちゃん!!」
「うん。ただいま。シリウス君。皆イイ子にしてたかな?」
「うん!僕とスピカちゃんでちゃんと見てたよ!」
「そっか。偉いね。シリウス君は。いつもありがとう。」
ヨシヨシと頭を撫ぜるとシリウス君は嬉しそうに目を細めてニコニコしている。
シリウス君は年の頃10歳と言った所だろうか。ガイさんと僕、ガイチャンズが面倒を見ている子供たちは全員で12人。
その内シリウス君は最年長のお兄さんで、同じ位の年の女の子、スピカちゃんと二人で小さな子どもたちを上手にまとめ上げてくれている。
日本で言ったらまだ小学四年生位だというのに、実にしっかりとしたお兄ちゃんとお姉ちゃんだ。
この子たちの為に、今日も、明日も僕は義賊稼業を頑張っている。
最初は緊張と後ろめたさがあったけど、最近では彼らを守りたいという気持ちが圧倒的に強く、罪悪感は殆どなかった。
勿論、人のモノを盗んではいけない事くらいは分かっていたが、この貧しい辺境の集落で農業や畜産で十二人の子どもと、二人の大人が食べていけるほど、この世界は甘くはない。
時には魔物に遭遇する事もあるし、秋の終わりには魔物の群れが集落を襲う事もあるという。
ある意味弱肉強食の世界で、僕は、僕たちは生きていかなければならない。
その日の夕方、貴族の屋敷の下見に出ていたガイさんがボロボロの変わり果てた姿で、更にロープで縛られ後ろ手になった状態でガイチャンズの家に戻ってきた。
何があった?スキンヘッドのおっさん!