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無題A-1

 それは荒唐無稽である。

 世界とは我々が知るべき常識のもとに成り立っており、この世界において知の範囲の及ばぬことなどない。

 人が想像でき、共有できた想像は知となり、そして概念として我々に浸透する。

 浸透した概念は常識となり我々の世界をつくり規律する法になる。

 ゆえに想像できないものは知の範疇を超えるのであり、言葉として交わすことができないものは概念とはなりえず、よって世界ともなりえない。


--

 自分の前には無限とも思える地平線が広がる。赤い岩はだを見せる大地は、おおよそ映画か大自然ドキュメンタリーの世界であり、その中に自分がいる光景などまさに夢でしかありえない。

体は土埃にまみれ、のどや鼻は乾き、ざらりと苦い味がした。

さて、状況を把握しようか。

このような状況において、できることはとりあえず考えることだ。

まず、整理すべきは次の三点である。


1.自分がいる場所

2.自分がここにいる理由

3.この状況を脱する方法


 第一にここがどこなのか。現状、自身のいる場所は把握できていない。

 先に見た通り、目の前にあるのはいつか映像作品でみた荒野のようであって、自身の周囲360度を見渡しても特に人工物のようなものは見つからない。気温はそれほど高くなく、そうかと言って低くもなく、湿気はなく乾燥している。私の記憶が確かならば、今から数分前には東京の某都市にいたはずであり、いかなる交通手段によっても、数分でこのような場所にたどり着くことはできない。

 第二にここにいる理由である。通常の状況を考えると、このような場所にいる理由はわからないし、仮にここが何かの施設であり、かかる荒野を再現したある種のVR空間のようなものだと仮定したとして、そのような場所に、少なくとも自分の認識上は一般市民でしかない私が連れてこられる理由がわからない。

 第三にこの状況の打開策である。いや、そもそも状況が把握できていない以上、打開策を見つけることは困難である。とりあえず、どこかに向かって歩き出すという選択肢、そのままここにとどまるという選択肢の二択はあるが、どちらを選ぶにせよ、現状を打開できる保証はない。

 結論として、特に適正な回答は得られない。


「いや、無駄に冷静だな。」

「というか、おかしいでしょう。一人でぶつぶつと・・・」


 どうやら私の思考は声に出ていたらしい。だめだな。思考を整理しようとするとつい口に出てしまう。一人でぶつぶつ言っているさまは、完全に寂しげな不審者でしかないといつも友人に指摘されている。


「?」


回りには誰もいないはずだが・・・


--


 そうだな。世界は知で成り立つ。想像を超える事象は存在しえない。

 だがどうだ。

 俺自身の思考なんてものはしょせん俺の知の範囲でしかない。

 俺程度が思いつかない物語が存在し、それは俺以外の知の産物だ。

 俺に想像できないなら、俺の知らない世界が存在しないなど、「目を閉じれば世界がなくなるのと同じ」だという使い古された批判と変わらないではないか。

 君にも同じことが言える。

 ゆえに荒唐無稽なのだよ。


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