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これは君のパラミシア  作者: 御乃咲 司
第一節『これは月が導く宿命の標』
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70.追い求める影


「えい!」


 無邪気な声を上げながら、スキアが背後から取り出した蛇をテッセラの顔面へと投げつけた。


「なっ!? そんな美しくないもの投げるな!」


 引きつった表情で体を震わせながら、飛んできた蛇を思わず避ける。

 そしてぽとりと地面に落ちた蛇。

 テッセラが落ちた蛇に一瞬ばかり気をとられてる隙に、綿が詰まったように膨らんだ革手袋グローブをはめたスキアがすでに間合いを詰めていた。


「それも玩具だぞ?」


 そしてとても気持ちの良い笑顔を浮かべながら、スキアはテッセラの顔面へとその拳を連打した。


「ぐっ! なっ、はっ、顔! 顔はっ! やめっ! いい加減にしろッ!」


 テッセラが刺突剣を突き出すが、スキアがそれを後方宙返りで身軽に回避。


「僕の顔に……貴様ぁぁぁ――ッ!」


 テッセラ強風を巻き起こし、着地した瞬間のスキアを吹き飛ばした。

 しかし、スキアは空中で体勢を立て直し、綺麗に着地する。

 ロウたちがなんなく吹き飛ばされた強風であるにも関わらず、それを受けても平衡感覚バランスを崩すことなく着地した。

 それだけをとっても、スキアという男の身体能力の高さが窺える。


「フッ……」


 着地したスキアが不敵にその頬を歪め、笑った。

 そして、テッセラの足元へと一差し指を突き出す。


「何がおかし――な!?」


 テッセラが視線を下へ向けると、いつの間にか足元に爆弾が転がっていた。


「しまっ――!」


 その存在に気付いた瞬間、眩い光を発しながら凄まじい音が鳴り響く。が……


「……は?」


 テッセラの口から間抜けな声が小さく漏れた。

 転がった爆弾からは、まるでビックリ箱のように人形が飛び出している。それは音が凄いだけのただの玩具だった。

 その飛び出た人形はどことなくスキアに似ている。


「ははははっ! ビビってら!」

「くっ、馬鹿にして!」


 腹を抱えて笑うスキアを前に、テッセラが歯をぎりぎりと食い縛った。



「あ……遊んでるのかしら?」

「だとしたら、次元が違うレベルだ」


 シンカに答えたロウは内心、とても穏やかでいることはできなかった。

 ルインの敵だったとしても、それがロウたちの味方とは限らない。

 手当てが終わっても、当然体力や魔力が万全になるわけではなく、ロウとリアンの疲労が大きいことに変わりはないのだ。


 ましてや、リアンはガグラの治癒の力を受けたものの、やはりロウはそれを受けようとはしなかった。ロウの頑丈さには驚きを通り越して呆れるばかりだが、仮にテッセラを退けた後スキアと戦ったとしても、勝ち目は薄いだろう。

 


「じゃーん! パチンコー!」


 言って、スキアが笑顔で取り出したのは投石玩具パチンコだ。

 そして手にした鉛玉を、テッセラの顔面目がけて連射する。


「また顔かい? でもそれくらい!」


 テッセラはその鉛玉をひらりと回避。


「そう! これこそが! 本来の! 華麗なる! 僕の! 姿だよ!」


 時には額に手を当て、時には両手を広げ、華麗に回避する度にいちいち決めポーズを変えながら機嫌良く踊るようなステップを踏んでいる。


「なははははーっ!」


 スキアが鉛玉を連射しながら、ボールのようなものをテッセラの足元にそっと転がした。

 それに気付いたロウたちが、転がって行くボールをその目でじっと追いかける。


「顔ばかり狙うなんてね。君も僕の顔が羨ましくてたまらないのか――ん?」


 テッセラのつま先に何かが当たり、その視線を足元へと向けた。

 その正体はさっきスキアが転がしたボールだ。

 途端、そのボールからもくもくと濃い煙が溢れてくる。


「な、なんだこれは!?」

「ただの煙玉だー!」


 と、言いながらスキアは大きな投石玩具パチンコを取り出すと、一生懸命に引っ張った。

 テッセラの視界は煙で覆われ、スキアの姿は見えていない。

 大きな投石玩具パチンコには、当然大きめの玉がセットされている。


「うざいんだよ!」

「ん?」


 テッセラとスキア、二人の上げた声は同時だった。

 風で煙を掻き消した瞬間、スキアが引っ張っていた投石玩具パチンコから手を離し、何かを拾おうとしゃがみ込んだ。


「君! いい加減に――ぶっ!」


 煙を払いのけた瞬間目の前に迫る大きな玉を、テッセラは顔面で受け止めた。

 そんな彼をよそにスキアが立ち上がると、その手に拾ったものを高々と掲げる。


「四葉のクローバー発見! ん?」


 スキアの視界に、大きな玉が顔にめり込んだテッセラが映りこむ。


「……おいおい。真剣に戦ってくれよ」


 言って、スキアは残念そうな表情を浮かべながらしょぼくれた。


 このとき、声に出さずともロウたちが内心思っていた事は同じだろう。

 お前がそれを言うのか……と。


「僕はいつでも真剣だよ!」

「そうか、だったら……大したことねぇよ。死にたくないなら退きな」


 ボールを投げ飛ばし、怒鳴るテッセラを見るスキアの瞳にさっきまでのふざけた様子はない。

 なんだかんだと言っても、スキアが対人戦に慣れているのは間違いないだろう。

 降魔相手にはまったく意味を成さない行動だが、その戦い辛さは言うに及ばず、完全にスキアのペースになっている。


「なんなら詠唱してみろよ。その隙があるならな」

「っ、たいした自信だね!」


 ロウたちを一撃で戦闘不能にまで追い込んだ詠唱。

 加減すると言っていたその威力は言葉通りに凄まじいものだったが、スキアを相手に詠唱する暇などないと判断したのだろう。

 テッセラが刺突剣を連続で突き出すと、剣先から鋭利な風がスキアを目がけて飛翔する。


「ぬわぁー!」


 どこか大げさに、スキアはその風を避けながら逃げ回った。


「くっ、ちょこまかと! 逃げ回るなんて美しくないよ!」

「なはは!」


 そしてスキアが背に手を回すと、いつの間にか手の中にある鎖鎌。

 鎖の先の分銅を投擲してテッセラの足に巻き付けると、すかさず鎖を強く引き寄せその場でひっくり返した。


「転んでる姿も美しくないぜ?」


 キランッ、と華麗なポーズを真似ながらスキアが答える。


「くそっ、もう絶対に許さないよ!」


 テッセラはスキアの足元から暴風を巻き起こすと、その体を空へ高くと舞い上げた。同時に脇を締め、刺突剣を深く引きながら構える。

 空中で動くことができない以上、格好の的でしかない。


「おお! 俺、空飛んでるぜ!」

「もうなめた口は利けないよ! 終わりだ!」

「やっ、やべぇ!」


 連続で突きを放ち、刺突剣の先から出た槍の如き鋭い風がスキアへと襲いかかる。

 途端、スキアは風呂敷のような物を広げ、風に乗ってそれを回避した。


「なんてな! なははははっ!」

「あんなふざけた奴に、僕がッ!」


 テッセラが忌々し気にその両眼でスキアを睨み付けた。

 そんな中、ふわりと風に乗りながら、スキアがテッセラの真上に飛んでくる。

 次こそはと刺突剣を振り抜き、風の刃を放とうとしたテッセラに、


「楽しかったぜ。でも終わりだ」


 降り注いだ閉幕の音。瞬間――


「何を言って! ――がはッ!」


 地面から勢いよく飛び出した何本もの飛刀クナイが、テッセラの体中に突き刺さった。刺し口から滲み出た鮮血が、白い衣服を染め上げていく。


「地面から……ど、どうやって……」

「なはは! アンタにはわかんねぇよ」


 軽やかに地面へと着地すると、白い歯を見せながらニッっと笑った。


「くそっ、エニャ! 当初の目的は果たしてるんだ。……美しくないがここは退くよ」


 体から放出した風で刺さった飛刀クナイを振り落とし、帰還を告げたテッセラの言葉にエニャは頷くと、彼を支えるように肩を抱える。

 そして、そのどこか空虚な瞳をロウへと向けた。エニャの微かに揺れた左側の瞳は、ロウに何かを訴えようとしていたのだろうか。


 結局エニャは何も言わず、取り出した魔石を撫でた。

 するとあのときのエクスィたちのように、テッセラとエニャの体は淡い光に包まれ、光の粒を中空に残しながら瞬く間にこの場から姿を消した。



「助かったの?」

「まだわからない」


 シンカの言葉にロウが冷静に答える。 

 そんなロウたちの元へ、スキアは笑顔を向けながら近づいた。


「っ!?」


 しかしロウの顔を見た瞬間、スキアの無邪気な笑顔が一瞬にして掻き消える。あり得ないものを見たような、死人に出会ったような、そんな驚愕に満ちた瞳にはさっきまでの陽気さはまるで感じられない。

 そしてその表情はすぐさま真剣なものへ変わり、この場が緊張の色に包まれた。


 スキアの表情が一変するのと同時にロウたちが構えるが、このときの彼はとてもそれどころではなかった。


(遠目で見ると気付かなかったが……まさか。いや、でもあんな奴にやられてるのもおかしい。それに何かが違う……いや、何かってなんだ? くッ、どうなってやがる)

 

 いくら悩んでいても仕方がない。

 そう、スキアは頭の中の疑問の答えを得ようとロウへと声をかけた。


「そこのアンタ……名前を聞いていいか?」

「俺はロウだ」

「……そうか。アンタ……いや、ロウも魔憑のようだけど、扱う能力は?」

「それを聞いてどうする?」


 リアンの声が割って入る。 

 当たり前だ。敵か味方もわからず、こちらの手の内を教えてやる義理はない。

 せめて、先に互いの関係をはっきりとさせる必要があるだろう。


「頼む。教えてくれ」


 真剣な声音には切実な願いが込められていた。

 スキアの両眼は逸れることなく、真っすぐにロウを見据えている。


「ロウ、敵かどうかもハッキリしてない相手に情報をわた――」

「氷だ」

「ロウ!」


 あっさりと答えたロウにリアンは声を荒げた。

 だが、そんなことは杞憂だと言わんばかりに、


「そうか……やっぱり違うんだな」


 聞き取れないほどの小さな声で呟いたスキアの表情に落ちたのは、落胆の色が入り交じった暗い影だった。


「リアン、大丈夫だ」

「こいつは得体の知れない能力を使うんだぞ」

「能力ならわかる」


 ロウの言葉に周囲が驚きの表情を浮かべるが、スキアは僅かに眉を寄せた。


「さっきのでわかったの?」

「あ、あの手品みたいなのはなんなんですか?」


 シンカとカグラが問いかけると、当事者であるスキアもまた、試すような口調でそれに便乗した。


「俺の力がわかっただって? 俺も是非聞きてぇな」

「完全にわかったわけじゃないが、秘密はおそらく影だ」


 ロウの言葉にスキアは目を丸くし、言葉を詰まらせた。

 それと同時に、シンカたちは心の中で納得する。


 カグラの導きのカードが告げたのは二つだった。ON……いや、NOはテッセラを指し、影はスキアを指していた、ということだろう。


「能力としては特殊な部類なんだろうな。影の中に様々な武器を忍ばせてるんじゃないのか?」

「はっ……はははっ! まいったぜ、なんでわかった?」


 唖然としていたスキアが急に笑い出すと、ロウに理由を問いかけた。


「スキア……だったな。スキアはあいつと戦う時、常に自分の影が背にくるように動いていた。逃げ回っていた時もだ。そして、武器を出す時は常に背後からだった。それは相手に自分の能力を隠すためだ。正面に影がある状態で能力を使えば、すぐにばれてしまうからな」

「そんだけか?」


 まだあるんだろ、といったようにスキアが先を促すと、


「確信したのは最後の攻撃だ。わざわざ相手の真上まで移動したのは、自分の影を相手に重ねる必要があったからだろ。最後のクナイは地面から出たんじゃない。スキアの影から……違うか?」

「んとに参ったぜ。なかなかの分析力だな」


 言って、スキアは静かに溜息を吐いた。


(本当に……何から何まで似てやがる)


 そしてスキアは物憂げな表情でロウを見つめていたが、それもすぐさま一転。


「まぁ、そんな警戒してくれるなよ。俺はアンタらの敵じゃないから」


 爽やかに笑い、スキアの表情が最初に見せた無邪気な表情へと戻る。

 人懐っこいような、親しみやすい印象を持つ男。

 これがやはり、本来ある彼の姿なのだろう。


「俺はただ人を探してただけだよ。んで、この現場に出くわしたっと。そゆわけだ」

「信じられん」

「で、でもリアンさん。た、助けてくれたのは事実ですよ?」


 カグラの言葉に、リアンは何も言わず視線を逸らした。

 リアンは人を簡単に信じる性格ではない。助けてもらったことが、そのまま味方という結論には至らない警戒の強さは、実に彼らしいといえば彼らしいものだった。


「スキア、ありがとう」

「よせよ」


 ロウの言葉に、スキアはまるで旧知の友のように笑顔で返した。


「いいえ、本当に助かったわ。私はシンカよ」

「あ、ありがとうございました。わ、私はカグラって言います」


 シンカとカグラもロウに続いて、お礼の言葉を口にする。

 そして警戒を解かないこの男とはと言えば……


「リアン」

「……一応礼は言っておく」


 ロウの言葉に、リアンはしぶしぶと言った様子で感謝の言葉を述べた。

 それでも、決して視線を合わそうとはしないのだが……。


「気にすんなよ、よろしくな。アンタらはどうしてここに?」

「少し訳ありでな」

「そうかい」


 スキアの質問にロウは真剣な表情を浮かべると、何かを考え込むように俯いた。

 それを見たスキアはそれ以上追及することはなかったが、その瞳を閉じると、何かを堪えるように両手を強く握り込んむ。


「貴方は誰かを探してるって言ってたけど、見つからなかったの?」

「見つかったよ。でも……人違いだったみたいだな」


 シンカが尋ねると……

 そのときスキアは初めて、とても悲しそうにな笑みを浮かべた。



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