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これは君のパラミシア  作者: 御乃咲 司
第二節『これは救済を願った再会の詩』
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43.呆気ない幕引き


魔憑まつきがなんだ! こっちには人質がいるんだぞ! そこのお前! 刀を捨てな!」

「……どうしてだ?」


 人質を盾にロウにそう言い放つ御頭に、ロウは不思議そうに首を傾げた。


「なっ、どうしてだと!? こいつらの仲間だろ! こいつらの命が惜しくないのか!?」

「惜しいな」

「わかったならさっさと捨てろ!」

「だから、どうしてだ?」

「お前は馬鹿なのか!? 俺の言うことを聞かねぇとあの上の土塊が落ちて、あいつらはぺしゃんこなんだぞ!」

「そうか、じゃあやってみるといい」


 何一つ躊躇とまどいもなく平然とそう言ってのけたロウに、御頭は背筋が怖気立つのを感じた。

 仲間の命が惜しくないのか。局面によっては敵を倒すためなら、仲間を切って捨てれる男なのか。そんな思考が脳内を満たしていく。


 だとすれば、こいつはやばい……御頭の額から、一筋の汗が流れ落ちた。


「ロウさん!?」

「あいつらの顔を見ろ。助けて欲しいなんて顔してるか? 大丈夫だよ」


 シンカが慌てて後ろから声をかけると、ロウは振り返りもせずにそう答えた。

 リアンは相変わらず冷静で、セリスは何やら大きな丸を手で作っている。

 カグラは地面に屈みこみ、背を向けていた。

 その後ろ姿は、まるで子猫か何かとじゃれているようにも見える。


「ちっ、ちくしょう! 糞が! そこで後悔しやがれ!」


 御頭が指を弾くと支えていた土柱が外へと広がり、上の土塊が落下する。


 しかし、それを受け止めるように咲き誇るのは氷の華。

 土柱をこじ開けるように広がる氷の花弁が作りだした隙間から、堂々と三人が脱出すると、咲いた氷の華が甲高い音を響かせながら砕け散り、大きな音と共に土煙を巻い上げた。


「な!? 馬鹿な!」


 土煙が上がる中、光を反射する砕けた氷を背景に、セリスはカグラの肩に乗っている何かの頭に手を乗せて――決め顔で言った。


「名を、ボロミちゃんと言う」


 唖然とする御頭と周囲の男たちに、カグラが続いて声を出す。


「名前を、ボロミちゃんと言います」


 そして、実に嫌そうな表情を浮かべながらもリアンが続いた。


「ボーロ君の相棒……だそうだ」


 再び訪れる沈黙。緊張感の欠片すらも消え失せた空気。

 そんな中、ロウは実に満足そうに頷き、カグラは笑顔を浮かべながらボロミちゃん見ている。

 少女の肩に乗った氷の人形はボーロ君に似た、狼のぬいぐるみのような形をしていた。頭には丸みを帯びたリボンのような装飾が施されている。


「も、もう一匹? だ、だったらお前たちは最初から、あの檻を抜けれたってのか?」 

「だから言っただろ。俺たちなら大丈夫だと」

「……そうね」


 御頭の問いかけにリアンは鼻を鳴らしながら答えた。

 そして、御頭にではなくシンカに目線をやりながらそう言ったリアンに、シンカは苦笑を浮かべている。


「でも、どうしてこの子たちは溶けてないの?」

「ボーロ君たちはまだ目的を果たしていないからだ。目的を果たせば溶けて消える。ボーロ君は一度シンカさんを守る目的を果たしたが、再び魔力を注いだことで次に目的を果たすまで消えはしない。まぁ、出番がないのが一番だけどな」

「そういうことなの。……ありがとう」


 そう言って、シンカはボーロ君の頭を愛おしそうに撫でた。


「糞っ! 糞、糞、糞が! お前ら! 数ではこっちが勝ってるんだ、行け!」


 自分が優位だと思い込んでいたにも関わらず、単に踊らされていただけだと知った御頭から余裕の色は消え失せ、逆上と共に部下に無謀なる指示を飛ばした。

 そして小さな土塊をいくつも自分の周囲に集め、それぞれを勢いよく発射する。


 対してセリスはカグラを抱えて避けながら走り出し、リアンは抜き放った長剣で土塊を受け流した。

 ロウは氷の壁で難なく防ぎ、シンカはその場でステップを踏むように回避する。


「おっ、御頭に続け!」


 男たちも剣を取り、一斉に駆け出した。

 セリスは依然として逃げ続け、リアンはセリスたちを狙う男たちを排除しにかかかる。

 ロウとシンカを狙って来た男の脇腹に、ロウが刀の柄をめり込ませ、走る。

 そしてロウは体勢を低くすると、地面に転がっている細剣を拾いあげてシンカに投げ渡した。


「シンカさん!」


 ロウの投げた細剣をシンカは走りながら受け取ると、鞘から細剣を抜かずに構えた。そして不適に微笑みながら、


「借りは返させてもらうわ」


 時折飛んでくる土塊を回避しながら、ロウと共に男たちを峰打ちで沈めていく。

 その力は圧倒的だった。二人の魔憑を相手に、勝てる理由などありはしない。

 自然と、ロウとシンカの二人が背中を合わせた。


「仲間と背中を預けあう気分はどうだ?」

「ふふっ、相手が貴方じゃなかったらいい気分かもね」

「それは悪かったな」

「冗談よ」


 心の底から嬉しそうにくすっと笑うシンカ。

 背中合わせでも、弾んだ声からシンカの様子は想像できる。

 ロウはシンカの表情を見れないことが惜しいと思いつつ、困った顔で苦笑した。


「俺には笑えない冗談だ」

「その話は後でしましょ」

「だな」


 そして、狙ってくる男たちへと再び駆け出した。


「調子にのるなよ!」


 御頭が再び新たな土塊を浮かべると、その後方から両肩に銃弾が撃ち込まれた。


「ぐっ! くそったれ!」

「あんまよそ見すんなよ?」


 御頭の背後から聞こえるのは先程まで逃げ回っていたはずのセリスの声だ。


「お前らあぁぁぁっ!」


 叫びながら振り返った御頭の眼前には、いつの間にかすでに間合いを詰めたリアンの姿。周囲の男たちをすでに倒し終え、長剣を振りかぶっていた。


「ちっ!」


 地面から突き出した土壁でリアンの長剣を間一髪で防ぐと、リアンは小さな笑みを浮かべながら土壁を蹴り、大きく距離をとった。

 瞬間、御頭の首筋に鈍い痛みが走る。

 倒れながら見えた視界の中には、昏倒している男たちの姿と、ロウの浮かべた哀切な瞳。


 圧倒的戦力差を前に、勝敗は実に呆気ないものだった。


「……くそっ……たれ」

 

 御頭はそのまま地面に倒れ伏し、意識を手放した。

 ロウが指を鳴らすと、シンカとカグラの肩に乗っていたボーロ君とボロミちゃんが、その役目を終えたかように小さな氷の粒となって、さらさらと風に乗って消えていく。


「お、終わったんですか?」

「あぁ……」


 駆け寄って来たカグラに頷くと、ロウは収納石から白い小さな錠剤と水筒ボトル取り出し、御頭に飲ませた。


「それってなんなんだ?」

「強めの睡眠薬だ。魔憑の力を抑える術がない現状、隔離してもその力で簡単に抜け出せるだろうからな。……対魔憑用の隔離施設ができるまで、眠らせ続けるしかない」


 セリスがロウの手元を覗き込みながら尋ねると、ロウは縄で御頭を後ろ手に拘束しながら答えた。

 

「あてはあるのか?」

「一応な。お前たちは山の中や森の中で、急に気分が悪くなることがないか? 例えばトレーニング中とかに、その場にいた全員が」

「あ~、あるある。ミソロギアの裏の山で訓練してるときとか、参加してた小隊のほとんどの連中がぶっ倒れたな。あの山での訓練はそれはきついって有名だぜ」


 セリスは死んだ魚のような目で空を見上げながら、そのときのことを思い出していた。彼自身、とてもきつい思いをしたのだろう。


「それはそこに埋まってる衰鉱石(すいこうせき)が原因だ」

「は? 衰鉱石?」

「誰にでも魔力が流れてるって話はしただろ? 過度な運動をしていると、誰でも内に秘めた魔力が少なからず膨れ上がる。例えば火事場の馬鹿力なんかもそうだ。で、その鉱石は膨れた魔力に反応し、魔力の流れを大きく乱す。悪酔いした感じになるんだ」

「なるほど。つまりその衰鉱石で覆われた部屋を作れば、魔憑が力を使うほどの魔力の流れとなると耐えられるものじゃないというわけか」


 リアンの答えにロウは頷くと、立ち上がって周囲を見渡した。

 倒れている男たちを拘束し、兵に引き渡さなければならない。などとロウが考えていると、ふと後ろで実に居心地が悪そうに小さく立ち竦んでいる二人の少女で視線が止まる。

 シンカのさっきの会話も態度も、まるで嘘のようだ。いざ戦いが終わり冷静になってみると、複雑な気持ちが湧き上がってきたのだろう。


「二人とも手伝ってくれるか?」


 ロウが収納石から取り出した縄を見せながら微笑みかけるが、二人の少女は目線を合わさずに頷くと、ロウから縄を受け取って行動に移した。



 すべての男たちを拘束すると、ミステルに駐屯していた兵士たちへと引き渡す。

 天幕(テント)などの移動は兵たちに任せ、そのままミロソギアに戻ろうとしたところで、シンカとカグラが用事があると言って離れたため、ロウたち男連中は港で少女たちの帰りを待っていた。

 

「……俺たちには気を遣う必要ないんじゃないのか?」

「やっぱりばれてたか」


 リアンの言葉にロウは苦笑すると、その場で仰向けに寝そべった。


「実は少しきつかった」


 そう苦笑したロウの額には、小さな汗の粒が浮かんでいる。

 シンカたちに心配をかけまいと気丈に振る舞っていたが、リアンたちにはお見通しだったようだ。

 脂汗が浮かぶほどずきずきと傷口が痛むものの、このときのロウは晴れやかな気分だった。

 静かに吹く潮風が実に心地良い。


「斬られた上に刺されたんだろ? 当たり前じゃねぇか。つか、俺たちはなんでロウが黒い服ばっか着てるか知ってんのに、隠すほうが無理だっつの」

「開いた傷口は氷で止血したから大丈夫だ。って……どうしてセリスがそれを知ってるんだ?」


 確かにロウが黒い服を好んで着ることに理由はある。しかし、それを誰かに話したことなど一度もなかったのだから、それは最もな疑問だろう。

 するとセリスは後頭部をわしわしと掻きながら、罰が悪そうな表情を浮かべて答える。


「エヴァだよ、エヴァ。あいつって昔から妙に勘が鋭いだろ? んで、ロウがいなくなった事件があったじゃねぇか。あのときにエヴァが言ってたんだよ。ロウが黒い服装を好むのは、自分の血を隠すためだって。そのときはなんでそんなことするのかよくわかんなかったけどよ、今なら納得できるぜ」

「お前もエヴァにはできるだけ隠し事をしないことだ。なぜか知らんがいつかバレる」

「……覚えとく」

「で、結局これはどういうことなんだ?」


 仰向けに寝そべったロウの隣に座っているリアンが、ロウを見下ろしながら問いかけた。

 するとロウはリアン少し見た後、再び澄んだ青空へと視線を戻し、目覚めたときのことを思い返した。




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