いいんだよ
「あのこよりも出来ない子」
笑いながら言われた言葉を、そっと、口内で咀嚼する。
「そうだね」
そうしていつだって、「自分」をゆっくり見失っていくんだ。
いいんだよ
無理しなくたっていいんだよ
私のことが嫌いならば、そう言っていいんだよ
「同じクラスにはなりたくなかった」って
「あのこの方がよかった」って
「何にも出来ないね」って、そう言っていいんだよ
いいんだよ。大丈夫だよ
あなたのことが好きだから、いいんだよ
「同じクラスになれてよかった」って、あの日あなたは笑ったけれど
みんなとクラスが離れて心細かったときに、あなたの言葉に救われたけれど
もういいんだよ
「最悪だった」って、「とんだ外れくじだ」って、そう言ってもいいんだよ
そんなあなたも大好きだから。そんなあなたも、友達だから
いいんだよ
あなたに比較ばかりされて、とても苦しくなるけれど
きちんと意見を言えるあなたが大好きだから、いいんだよ
その言葉に傷つく私が悪いから、あなたは何も気にしなくていいんだよ
いいんだよ。いいんだよ。いいんだよ。大丈夫だよ
あなたが私をどれだけ馬鹿にしようと
あなたが私を、嫌っていようと
あなたが私を、彼女よりも劣っていると笑おうと
もう、あなたが、あの頃のような優しさを向けてくれなくても
私はあなたを、ずっとずっと友達だと思っているよ
「同じクラスに友達が居ない」って、泣いていた一年前のあなたが、笑えるようになって、本当によかった
「これは本当の私じゃない」って、言っていたあなたが、少しでも本音で話せる相手が出来て、本当によかった
「あなたは何にも出来ない」って。「あのこに迷惑かけないでよ」って、そんな憎まれ口が叩けるくらい元気になって、本当によかった
本当に、よかった
あなたの「本音」に気付かなければ、本当によかった
気付かなければ、馬鹿みたいに、おかしいくらい、あなたをただ信じていられたのにね
「私のことを、馬鹿にしているように感じられてる」んだってね
「「あのこ」の方に、執着してる」んだってね
他人から見てそう思うんだから、やっぱり私たちはおかしいよ
互いに、馬鹿にすることにもされることにも慣れてしまっているから、今まで気づかなかっただけで
やっぱり最初から、私たちの関係は少しおかしかったんだね
他人の言葉で、今までの友情を疑ってしまうんだから
凭れていた存在の熱を、恐ろしく思うんだから
あの明るい貴女の笑顔を、「恐い」と思うんだから
もうきっと、最初から私たちは駄目だったんだよ
あなたはきっと、私を見切っても、その明るさでたくさんの人と笑えるだろうから
だから、もう、私は要らないね
もういいんだよ
もういいんだ。どうかそんな風に笑わないで
もういいんだよ
どうか、私を見切って
もういいんだよ
誰も貴女を恨んだりしないよ
いいんだよ
もう、私の手を引こうとしなくていいんだよ
いいんだよ
もう、私と笑わなくていいんだよ
いいんだよ
もう、あのこと私を比べなくていいんだよ
恥ずかしい友達で、本当にごめんね
役に立たない友達で、本当にごめんね
あのこよりも劣っているのに、友達面をして、本当にごめんね
だけど、もう、いいんだよ
心を離すことが、貴女にできる唯一の恩返し
貴女に文句を言わないことが、貴女にできる私からの愛情表現
だから、何度でも、何度でも言うよ
いいんだよ。大丈夫だよ。もう、いいんだよ
貴女を縛り付けて、本当にごめんね
貴女をいらいらさせて、本当にごめんね
私は、大丈夫だから。だから、もう、いいんだよ
そんなに自分を追い詰めなくていいんだよ
「何にも出来ない」私が、ゆっくりと取り残されていく
隣にあった筈の熱も、優しさも、すべてが小さく無くなっていって
それでも、もう。その熱を取り戻す気力も、勇気も、私には無い
もういいんだよ
もういいんだよ
何度も何度も、暗闇の中で、同じ言葉をただ叫んでいた。
もういいんだよ。もういいんだ
迷惑ばかりかける、酷い友人で本当にごめんね
「あのこ」になれなくて、本当にごめんね
それでも、精一杯頑張ったんだよ
きっと貴女は「言い訳だ」って、笑うだろうけど
それでも、必死に生きてきたんだよ
それが「私」だったんだよ
もういいんだよ
もういいの
ごめんね