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短命の少女と長命の少年  作者: 朔真露兎
4/4

三周目の世界

ちんたら書いてます

やっと書けた

「……っ!」

浮遊感を感じて、少女は目が覚めた。どうやら、机に突っ伏して寝てしまっていたようだった。

嫌な夢を見た。それは、まったく救われない二人の物語。何度も取り残された少年の記憶。

ふと、少女は、自分の脇にあるベッドを見やる。安らかな顔で、少年が寝ていた。幼くあどけない寝顔。思わず少年を抱き締める。

少女は、本能的に悟っていた。


ーー次の物語の主役は私たちだ……


少年は知らないだろう。何度も同じような運命を辿っていること。今はまだ、こうして一緒にいるけれど、そう遠くないいつか……この幸せが裂かれてしまう日がきっと来る。

涙が溢れた。大粒の滴が頬を伝って止まらない。

今だけは、幸せを噛み締めていよう。そう少女は誓った。



いつも先立つ少女には、長年抱え続ける痛みというものがわからなかった。

少年は何度も取り残され、その度に心に深い傷を負っていた。

しかし、少女にはその痛みを理解することができなかった。


私は、長く生きていたかった。でも、少年は早く死のうとしていた。

それはなぜ? なぜ、少年は生きていることを喜ばしく思わなかった?

生きることは実は、楽しくないことなのかな?

それとも何か、別の理由があるのかな?


十にも満たない年齢の少女にとって、それはあまりにも難しすぎた。

誰かに聞こうにも、前世の記憶があるなんて、信じてももらえないのは子供ながらにしてわかっていた。大人には大人の理屈があって世界がある。子供の理屈、子供の世界への道順を忘れてしまったように、時に大人は、自分の無邪気な世界をも忘れようとするから。

何より少女は、少年が繰り返してきた悲しい運命が、無機質な大人の理屈で一蹴されるのを、何よりも恐れていた。

聞けるわけが、なかったーー




それは、夜空に満月が浮かぶ日のこと…

うるさいくらいに虫の声が響き渡っていた。


ーー……………さない……


虫の声がなければ、あるいは、

少年は気付くことができたのだろうか。


ーー……ど………さない……ね


鈍く光りながら、小さな虫が羽を広げた。

鈍く、鈍く、光る、


ーー今度は……さないからね……


光を宿した、よく動く瞳が、きゅっと細められて、

口許に柔らかな笑みが湛えられて、


ーー今度は、残さないからね、

ーー君だけを残していったりしないから、


少女は、手にした鋏を振りかぶって、

鋭利な光を己の物にして、


ーー今度は、先に…


虫の声に合わせて歌う、少年の首筋へ、鋏を降り下ろした。

鋏が風を斬る甲高い音。


「私が、殺してあげるから」


少女は可憐に微笑んで、少年の首に刺さった鋏を押し込んでいく。

噎せ返る血の臭い。飛び散る紅い花弁。舞った鈍色。


少年は、それまでの運命とは異なり、ここで命を落とした。




それから数年後。

少女の運命は逸れることがなく、少年が亡くなった数年後に亡くなった。

虫の声はもう、なかった。

次はどうなるのか私にもわかりません

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