三周目の世界
ちんたら書いてます
やっと書けた
「……っ!」
浮遊感を感じて、少女は目が覚めた。どうやら、机に突っ伏して寝てしまっていたようだった。
嫌な夢を見た。それは、まったく救われない二人の物語。何度も取り残された少年の記憶。
ふと、少女は、自分の脇にあるベッドを見やる。安らかな顔で、少年が寝ていた。幼くあどけない寝顔。思わず少年を抱き締める。
少女は、本能的に悟っていた。
ーー次の物語の主役は私たちだ……
少年は知らないだろう。何度も同じような運命を辿っていること。今はまだ、こうして一緒にいるけれど、そう遠くないいつか……この幸せが裂かれてしまう日がきっと来る。
涙が溢れた。大粒の滴が頬を伝って止まらない。
今だけは、幸せを噛み締めていよう。そう少女は誓った。
いつも先立つ少女には、長年抱え続ける痛みというものがわからなかった。
少年は何度も取り残され、その度に心に深い傷を負っていた。
しかし、少女にはその痛みを理解することができなかった。
私は、長く生きていたかった。でも、少年は早く死のうとしていた。
それはなぜ? なぜ、少年は生きていることを喜ばしく思わなかった?
生きることは実は、楽しくないことなのかな?
それとも何か、別の理由があるのかな?
十にも満たない年齢の少女にとって、それはあまりにも難しすぎた。
誰かに聞こうにも、前世の記憶があるなんて、信じてももらえないのは子供ながらにしてわかっていた。大人には大人の理屈があって世界がある。子供の理屈、子供の世界への道順を忘れてしまったように、時に大人は、自分の無邪気な世界をも忘れようとするから。
何より少女は、少年が繰り返してきた悲しい運命が、無機質な大人の理屈で一蹴されるのを、何よりも恐れていた。
聞けるわけが、なかったーー
それは、夜空に満月が浮かぶ日のこと…
うるさいくらいに虫の声が響き渡っていた。
ーー……………さない……
虫の声がなければ、あるいは、
少年は気付くことができたのだろうか。
ーー……ど………さない……ね
鈍く光りながら、小さな虫が羽を広げた。
鈍く、鈍く、光る、
ーー今度は……さないからね……
光を宿した、よく動く瞳が、きゅっと細められて、
口許に柔らかな笑みが湛えられて、
ーー今度は、残さないからね、
ーー君だけを残していったりしないから、
少女は、手にした鋏を振りかぶって、
鋭利な光を己の物にして、
ーー今度は、先に…
虫の声に合わせて歌う、少年の首筋へ、鋏を降り下ろした。
鋏が風を斬る甲高い音。
「私が、殺してあげるから」
少女は可憐に微笑んで、少年の首に刺さった鋏を押し込んでいく。
噎せ返る血の臭い。飛び散る紅い花弁。舞った鈍色。
少年は、それまでの運命とは異なり、ここで命を落とした。
それから数年後。
少女の運命は逸れることがなく、少年が亡くなった数年後に亡くなった。
虫の声はもう、なかった。
次はどうなるのか私にもわかりません