8話 同僚の行方
「うん。異常!」
「そっすね。異常ッスね。」
知ってる事を改めて言われても、それなりの反応しか返せない。
ただ神官長の言うことももっともだと思う。
アーたんは『アント』から『アントラ』に進化するはずが『アントロン』に。
リったんは『リザード』から『リザードン』に進化するはずが『ドリザードン』に。
コピたんは『スコーピー』から『スコーピオン』に進化するはずが『スコルピス』に進化した。
アントラ、リザードン、スコーピオンは、どれも巨大化の進化と言っていい。
ドリザードンへの進化はただの巨大化ではなく頑健さがプラスされており、アントロン、スコルピスに関しては半人化のようだ。
つまり俺が成長促進をもって育てた魔獣は従来の進化とは外れた進化をしている。
ただ、どれも野生では見かける事のある種らしい。ただ使役している者は少なく、非常にレア感があるという感じになっている。
そんなレア進化をさせちゃう俺。もう国の宝として大事にしまってくれても……ええんやで?
とは言ってみたものの魔王討伐は勇者の仕事に変わりないらしい。
躱しようのない押し付けに半ギレになりつつも、とりあえず自分で戦う事は無理と押し通す。誰が言っても無理。俺は平和な日本から来たんだ。自分の手を汚す作業は精神面を汚す以外は無理。
なのでアーたんに泣きついて相談するとアーたん達は進化すればするほど強くなるらしく、進化頑張ればいいんじゃない? 進化したいし。的な事を言われた。なので、「よし! ならみんな強くなっってー!」と進化させるべく頑張っている。
とは言うものの第一進化は非常に早かったが、アーたんの次の進化の気配は見えない。
なにやらもっと食べて倒してしないと出来そうにないという事で、最近の日課はみんなで熱くならない早朝に狩りに出ること。
アーたんも、リったんもコピたんも皆すごく強いから、俺は指揮を執るだけでいいからとても楽。
というか俺、もしみんなが反抗して襲ってきたら絶対勝てない。リームー。
でも、アーたんは基本的に俺の心配ばかりしてるし、リったんは思いきり走れれば幸せそう。コピたんは攻撃できると楽しそうだから問題ない。
それにみんな小さい頃に結構可愛がってたから懐いてくれてる感がするしきっと大丈夫!
だから俺は戦わなくても皆頑張ってくれる! そう! 俺は応援係なのだ! 皆が勝ったら褒める! 怪我しないように気を配る! これが俺の仕事のメインだ!
そしてもう一つだけ、大事な仕事がある。
大蛇を仕留めた皆を褒めた後、尋ねる。
「じゃあ、今日はどうしようか?」
コピたんが仕留めた大蛇をハサミでぶつ切りにしている。
アーたんがリったんに話しかけ、リったんが軽く鳴く。
「アータン ハ シオコショウ ガ イイ
リッタン ハ ソース ダッテ。」
「わかったー。コピたんは醤油?」
「No」
「あぁ、もしかして七味マヨネーズ?」
「YES」
「おっけーおっけー。最近好きだよね~七味マヨ。じゃあ蛇焼くね。」
火の魔法でコピたんがブツ切りにした大蛇を焼き始める。
もちろん薄く塩は振った。
そう。みんなが美味しく食べれるように料理するのだ。
進化した皆は俺の魔法で作ったメシを食べたがっていたが、正直食う量がハンパないので希望に沿って出していると間違いなく俺が倒れてしまう。
そこで倒した魔物を美味しく調理するのが俺の役目。
「オイシーヨ ヒデアキ」
「おぉそうかいアーたん。よかったよぉ。いっぱい食べるんだよぉ。」
もりもり無くなっていく大蛇。そして大量に消費される調味料。
塩分過多にならないか心配だが野生のアントが岩塩食ってたのも見かけたから問題はないと思う。思いたい。
大蛇が無くなり満足したのか、一斉にだらけ始めた皆を見て、ふと思い出す。
そういえばアクアノスに召喚されたっぽいリョウは大丈夫なのかな? 帰ったら神官長や王様に聞いてみよう。
--*--*--
「あぁ。行き来する商人から聞いた話でしかないがアクアノスの方でも色々ニュースになっているみたいでな。
勇者『カワカミ リョウ』が魔獣進化に革命をもたらしたとかなんとか。」
「マジで!? ってかアクアノスでも魔獣って使ってるんだ。」
「この世界はどこでも魔獣は使っとるよ。必須じゃ必須。まあ? もっともアクアノスの魔獣なんぞ貧弱そうな草だの猿だの大した魔獣じゃあないがな! フンっ!」
「へぇ~。でもよかった~。あっ! もしかして持ってる能力も一緒なのかな!? うわぁ! ねぇ王様! なんとか連絡とか取れないッスかね? リョウとも話したいッスわ!」
「ダメっ! アクアノスのヤツラなんかにウチの勇者を見せるなんてもったいない! アイツらの魔獣進化革命なんぞヒデアキ殿の足元に及ばんわ。なんせ喋るのじゃからな! ふっはっはっは! これが本当の魔獣進化革命じゃい!」
フレイドロンとアクアノスは大陸を二分する国家だけあって互いに嫌い合っている。
戦争を禁じていてソレを守っているだけマシかもしれないが、魔王が襲ってくるかもしれないという時に共倒れするような考えは得策とは思えない。せめて協力まではいかなくても緊急時くらいフォローしあえる関係にはなれないのだろうか。
「リョウのヤツは俺色々知ってますけど、きっとアイツの事だから俺とは違った視点で何かしらの革命をさせた可能性がありますよ。こっちの役に立つかも。
なのでお互いに情報を共有するのも悪くないんじゃないでしょうか? 実際魔王が襲ってきたらヤバイんだろうし。いつ襲ってくるかもわかんないし。」
「いやっ! アクアノスのヤツラなんかの顔もみたくないわ!」
「そんなこと言わずに~」
「イヤっ!」
「そんなこと言わずに~」
「イヤっ!」
「か~ら~の?」
「イヤっ!」
「嫌よ嫌よも?」
「嫌っ!」
ふぅ。取りつく島もない。
ならば。
「じゃあ、アクアノスにうちのアーたんを見せつけてやりましょうよ!
喋る魔獣なんて見たら……ふへへ。きっと吠え面かきますぜ。」
「乗った!」
こうして、アクアノスとの情報交換という名の自慢の場を設けることになった。ただし、場を設ける条件としてアーたんの更なる進化が俺に突きつけられる事になり、延々狩りに出ることになってしまうのだった。
リったんとコピたんの進化が条件としては求められなかったのは幸いではあるけれど、未だアーたんには進化の兆候が見えない。そこで俺はアーたんに特別メニューとしてこっそりとメシを魔法で出して食べさせる事にした。
寝る前に限界まで魔法でメシを出してぶっ倒れる。ぐっすり眠れて一石二鳥だ。
そうして2週間が過ぎた頃。
「ヒデアキ…… ナンカ ソロソロ カワリソウカモ」
アーたんが、そう告げた。