7話 魔獣進化
「あ、アーたーーんっ!」
「「 おー。 」」
ヌルヌルに飛び込んだかと思うと、カッと光を放ちヌルヌルと共に不透明な球体になるアーたん。
ソレを見て叫ぶ俺と、適当な声を漏らす神官長とブリーダー。
まるで卵のような形に変化したかと思うとすぐにヒビが入り始め、そしてパリパリと割れ始める。
「こりゃあちゃんと進化できたなぁ。」
「成長促進はかなり有用な能力……っと。」
焦る俺に対して傍観者な二人。
俺は目を離せずアーたんを見守る。
パリィン と一際大きな音を立て卵が盛大に割れてアーたんが出てきた。
「「 んんっ!? 」」
「うわぁお。かっこいい!」
『アント』からの進化は大型のアリの『アントラ』
そう決まっていると思われていた。だが進化したアーたんは『アントラ』では無かった。
身の高さはアントラ並みの大きさがあるが、前後の長さは明らかに短くなっている。
というよりも6本脚で這って歩く蟻の姿ですらない。
上半身が生まれ4本足で立ち、使っていない2本足はまるで腕のようにみえる。
「こりゃあ驚いた!『アントラ』じゃなくて『アントロン』じゃねぇか。」
「アントロンって?」
「あ、あぁ勇者様。アントロンってのはアントラの変異種か、アントラのさらに進化した先とか言われてる魔獣なんだ。
野生でもたまに見かける事があるが、まぁ野生だと会いたくないモンスターの一つなんだわ。たまげたなぁ」
「うっははぁ! そんなんなるってスゲぇ! アーたんすげぇよ! ……あれ? そんなのに進化したてことは……俺の言う事とか聞いてくれるのかな?」
「ん。まぁ大丈夫でしょうて。大抵はアントからアントラに進化すると小生意気になるんだが渋々聞いてくれるし。」
「しぶしぶ……なの?」
「あぁ。魔獣も自分が強くなった自覚があるんだろうな。
でも親みたいに思ってるから思いっきり逆らうのは抵抗がある。……アレだ、軽い『反抗期』みたいなもんだな。」
ブリーダーの言葉に恐る恐るアーたんこと『アントロン』に近づく。
上半身が人間のようにも見えるがやはり甲殻類のそれ。腕の先にある手は3本指になっていてそれなりに便利に使えそう。
次に顔を見ると進化して変わったとはいえ、うっすらアーたんの面影があった。
その様子に少しほっとし顔を見ながら手を伸ばす。
するとアーたんも手をのばし、軽く指先が触れ合った。
映画のワンシーンでこんなのあったなと思いだし、つい笑う。
「アーたん。
進化できてよかったね。」
「ヒデアキ ノ オカゲ デス。」
「「「 うわぁぁぁ!! しゃべったぁーーっ!! 」」」
パニックが起きた。
--*--*--
アーたんことアントロンが喋った原因は俺らしい。
アーたんが「イッパイ シャベッタ キイタ ワカル」と片言で話してくれたので、どうやら猫可愛がりで可愛がって話しかけていたのが影響したようだ。
進化の際に火に飛び込まなかった理由を聞いてみると、あのまま火に飛び込んでいたらアントラに進化した可能性が高かったらしく、良い方に進化したかったから躊躇していたらしい。
どうやら進化は成長過程により枝葉のように進化の選択肢が増えるようだ。
さらにアーたん曰く、まだアントロンから先の進化もありそうに感じているとのこと。
次々と明らかになる魔獣進化に、もうフレイドロン王国大盛り上がり。取材わんさか。ニュース引っ張りだこ。
王様もハイテンションで俺に『他の魔獣も成長させて!』と半分命令してくる始末。
でも俺はアーたんの進化に時間を割きたいので王様とぶつかり合う事になる。もちろんぶつかり合うと言っても舌戦程度だが。
とはいえ衣食住しっかり満たしてもらった生活もさせてもらっている事もあり無下にはできず、結局終着点として大きくなったアーたんの他、運搬に使われているトカゲの『リザード』と、戦闘用のサソリ『スコーピー』を実験飼育する事になった。
もちろんアーたんのアントの時同様、初期の30cmほどの大きさの魔獣が用意される。
「いやぁあああっ! トカゲって意外と硬いのねぇぇっ!」
「怖い怖い! 針が! ハサミが怖いぃっ!! ひぃぃぃっ!!」
叫び声を上げつつ、またも兵士に拘束される形で魔力を流し込んで使役決定。
見ていたアーたんは拘束される俺を助けようか悩んだみたいだけど「ただ使役の契約だけだから」と言った神官長の言葉に「ナラ シカタナイ ヒデアキ チョット ヘタレダシ」と、言って傍観する始末。
アーたんひどい!これが反抗期ってヤツなのか。残酷だわ。ヨヨヨ。
こうして俺の新しい魔獣が増えたのだが、誠に残念ながらアーたん程に可愛がれる自信はまったくもってない。
だってトカゲとサソリなんだもの。ムリムリ。
特にサソリは怖いしマジムリ。嫌悪感しかないわ。
--*--*--
「よーし進め―! リったん!」
サイとトカゲを合わせたような魔獣に跨り砂漠を駆ける。
「ヒデアキ ヒダリ イルヨ」
「よしっ! コピたん! 自慢の針の威力を見せつけてやれぇ!」
「O.K.」
隣を駆けてついてくるアントロンの言葉に号令をかけると、アントロンよりも頑健そうな上半身を持つ8本脚の魔獣が駆け出し、あっというまにシッポを振るい突き刺す。
大きな蛇はあっという間に脳天を貫かれ痙攣したのちピクリとも動かなくなった。
サイとトカゲの混じったような魔獣が近づき、その背から降りるヒデアキ。
「よーしよしよしぃ!
リったん、いつも通り足速くてイーヨー! もう最高!
コピたんってば、あの一撃痺れるぅ! マジ最強!
アーたんはもう言うことなしだよ! 流石俺のアーたん!」
慣れた。