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6話 魔獣はかわいい

「異常ですな。」

「異常ですか。そうですか。」


 神官長が俺のアーたんを見て失礼な事を言う。

 確かに一週間で60cm程の大きさになっているし、それは異常なのかもしれない。でもアーたんは可愛いんだぞ? それくらいどうした。シュっとした顔のラインなんて誰がどう見てもイケてるじゃないか。この良さが分からないかなぁ?


「やはりこれは『成長促進』で間違いないですな。流石は勇者殿の能力です。」

「あ。そういえばそうだった。コレ能力の確認なんだった。」


 俺はアントこと『アーたん』の従順っぷりに心酔していた。

 健気で一途。俺がいないとダメな雰囲気。もうなんて可愛いんだろう。よそのアントは残飯だったり足りなければ勝手に街の外に何かを食いに行くこともあるらしいのだが、うちのアーたんに、そんなワケの分からない物を食べさせるなんてできるわけない。

 それにもし帰ってこなかったらどうするんだ!


「はーいアーたん、おいで―。よしよしよしぃ!」


 手から光が放たれ、特大のハンバーガーが出現する。

 大食いメニューでチャレンジしたことのあるハンバーガー。俺が3分の1食べてすぐにギブアップしたハンバーガー。


「待て。」


 アーたんはピタリと止まる。賢い。


「お手! おかわり! ダンス!」


 右手を出すと左手をのせ、左手を出すと右手を乗せ、そして最後は楽しそうにステップを踏んでくるりと一回転するアーたん。天才。


「よしっ!」


 OKを出すとハンバーガーにがっつき始める。


「ああぁ……もったいない……」

「何をおっしゃるうさぎさん。」

「いや、うさぎさんて。

 ヒデアキ殿。あのハンバーガーが一つあればウチの兵士達が大喜びなんですけど……」

「後で出しますよ。でもアーたんが優先です。ねーアーたん。」


 呼びかけると食べるのを止めて、ギチギチと歯を鳴らして反応を見せる。


「そっかそっかー美味しいかー。良かったねーアーたん。」

「ダメだこりゃ。

 ……しかし、この大きさになると……もしかするとそろそろ進化するかもしれませんな……」

「進化?」

「えぇ。アントがある程度成長すると一気に『アントラ』にまで進化するんですよ。

 進化の頃合いになったら主人が火の魔法なりで火だまりを作ると、そこにアントが自ら飛び込んで自分を作り変えるようです。

 野生のアントの進化の方法は不明ですが魔獣の進化の方法としてはこれが一般的ですな。」


「何ソレ怖い。」

「いや、そう言ってもソレが一般的ですから。」

「ヤダ怖い。ウチのアーたんに何させる気? ねぇアーたん。」

「ダメだこりゃ。」


 --*--*--


 しばらくの問答で結局火の魔法を作ってみてアントの反応を見る事が決まった。

 それがアントの為だと言われれば仕方がない。アーたんが立派に成長するのであれば、それが一番なのだから。


 そして問題発生。

 俺。火だまり作れない。


 ということで、勉強の時間が設けられる事になった。

 かろうじて魔力が人並みにある事で火の魔法が使えないという事はなかったが、それでもアーたんが入れる火だまりを作れる程にするまでには努力が必要でさらに1週間の時が流れていく。


 その一週間でアーたんも引き続き順調に成長していたが80cm程の大きさになると、それ以上の大きさに育つ事はなくなっていた。

 だが身体的な成長は止まったが、別方面での成長を見せる。


「あ~……喉が渇いたなぁ~。」


 わざとらしく呟くと、アーたんがテーブルに置いてあるブドウを器用に俺の所へと運んでくる。


「あ~、肩がこったなぁ。腰からきてるのかなぁ?」


 またわざとらしく呟くと、アーたんが近づいてくるので横になる。

 すると腰を器用に押してマッサージを始めた。


「こんなアント見たことねぇ。」


 神官長がそう呟くのも無理はない。

 一般的なアントやアントラは単純な事しか言う事をきかないはずなのだ。

 それなのに明らかに言葉を理解し、状況を判断して行動している。


「なんせウチのアーたんだから!」


 得意げに鼻を鳴らす勇者は何も考えていなかった。

 ただ可愛がっていた結果こうなったのだ。

 アントの出来ること出来ないことという常識に縛られなかったからこその成長といえるのかもしれない。


 そして勇者は十分な大きさの火だまりを作る事が出来るようになる。


「よしっ! じゃあアーたん! 作るよ!」


 手に魔力を籠め、アーたんが入れるほどの大きさの火だまりを作る。

 だが、アーたんは火だまりを前にして動かなかった。


 神官長は首を捻り、同席したアントのブリーダーも同様に首を捻る。


「この大きさに育っていれば喜んで入っていくのが普通なんですがねぇ……ん~?」

「外見だけ成長して中身が伴っていないって事なのか?」


 不評を買っているようなアーたん。

 アーたんもその言葉を察したのか、俺をじっと見る。


 あぁ、この顔は悲しんでいる。

 何かが違うんだ。

 俺はそう感じた。


 ただアーたんは、どこか諦めたように少しずつ足を火だまりに向け始める。

 

「おっ? やっぱりいきますか? コレは進化しそうですな。」

「ん~? でもなんか様子が普通と違う気もしますねぇ。もっとこう嬉々として行くので。」


 アーたんの様子とブリーダーの言葉で俺はアーたんが飛び込もうとした直前、火だまりを消す。


「ん!?」

「どうされた?」


 神官長とブリーダーが俺を見る。

 俺はアーたんを見る。アーたんも俺をみる。


「アーたん……違うんだな?

 これじゃないんだな?」


 アーたんはギチっと音を鳴らし反応する。


「ごめんなぁぁっ! 嫌な事させるところだったなぁぁぁっ! おいでぇぇっ! よーしよしよしよしぃ!」


 アーたんが駆け寄り頭を撫でまわす。


「どうやら失敗のようですな。」

「まぁ、分かりますよ。俺だって初めて魔力だまりに飛び込ませる時は死ぬんじゃないかって思って止めちゃいましたし。へへっ。」

 

「よーしよし……ん? あれ?

 今『魔力だまり』って言った?」


 アーたんを撫でながらブリーダーに向き直る。


「え? あぁ。うん。魔力だまりだよ?」

「……ってことは……火じゃなくてもいいんじゃないの?」


 そう思い、俺はアーたんが入れる大きさの『ぬるぬる』を出してみる。

 するとアーたんが超ダッシュでその中に飛び込んでいた。

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