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4話 能力検証

「は、はふっ! ほふっ! んがんぐっ。」

「むぅぅ。なんという歯ごたえ、そして噛みしめる毎に溢れだす肉汁。これはたまらん!」

「このソースがまた濃厚で油に負けてないんだよなぁ! パンがいくらでも食えそうだ。」

「おいおい、ソースじゃなくて『オロシポンズ』ってので食ってみろよ! アッサリして、コメと一緒に食うとマジやばだぜ!」

「おま、それでアッサリ感を語っちゃうか? あめーよ。レモンを絞って塩を一つまみ振ってみろって。これぞって感じがいいぞー。」


 わいわいガヤガヤと下町の食堂のような賑やかさ。

 だがここは断じて下町ではなく立派な王宮の食堂である。


 王様達に連れられて『メシ』の能力を検証する事になったのだが、まぁ、並んでいる食材は何か分からない肉塊やブドウ、トウモロコシにナツメヤシ。その他は見たことも無さげなサボテンチックな食材だったりして、とてもじゃないが、日本で自炊するように料理ができるとは思えなかった。

 試しに肉を切って炒めてみても、どうということはない出来と味。


 『あっれ~?』


 と言わんばかりに、王様を筆頭に皆が揃って首を捻り、俺はその様になんとなく責任を感じ『美味い物を用意しなきゃ……』という強迫観念を感じずにはいられなかった。

 今ある物で作れそうな美味い物を考えていると、昼に食べたロースカツ定食が思い起こされる。


 『あぁ……あのロースカツ美味かったよなぁ。アレさえ食わせる事ができりゃあイチコロなんだろうけどなぁ』


 そう思ったその時。俺の身体の中で何かが反応した感じがし、そして俺の右腕が暴れ出した。


「くっ! な、なんだ!」


 必死に自分の意思とは関係の無い動きをする右腕を左手で押さえる。だがガクガクと信じられない力で右手は暴れ続ける。


「ぅっ――だ、ダメだ! 勝手に右腕がぁっ! うあぁああっ!!」


 暴走する右腕は、まるで狙い定めるかのように手の平を王様へと向ける。

 そして光が右腕に集まり始め、兵士達がざわつきながら盾を構えて王様を守ろうとした。


「くぅ! だめだっ、抑えきれない! な、何かが出るぅっ! ああああっ!!」


 ポン


 王様の前。テーブルの上にロースカツ定食が出現していた。

 俺の右腕は既に荒ぶることなく自分の自由に動かせるようになっており、兵士達、そして王様。神官長と顔を見合わせる。


「「「 はい? 」」」


 無言。


「……え?」

「メシ?」

「あれだけ……雰囲気出して?」

「マジで?」


 一拍の無言の後に耳に入ってくる小声の呟き。

 なぜか恥ずかしくなり羞恥から斜め下を見ることしかできない俺。


「と、とりあえず……誰か食ってみる? メシなんだろうし……」

「え? ……『で、出るぅっ!』とか言って出てきた物を? ふひっ」

「バッ! おまっ! ククッ」


 クスクスと漏れ始める笑い。


「いいっ! 俺が出したもんだし俺が食ってみる!」


 いたたまれなくなり半ば自暴自棄に試食をしてみる。

 ヤケになりつつも、食感や味は紛れも無く昼に食べたロースカツ定食そのものだった。


「うめぇ! あー、やっぱカツはうめーなぁ! あーうめぇ!」


 やけ食いとは言え、食い進めていると『やっぱカツの時はソースが欲しいな』と思うのは自然の流れ。

 すると、また暴れはじめる右腕。そして出てくるソース。


 ――どうやらこの『メシ』の能力。

 俺が美味いと思ったメシが再現のような形で生み出せる魔法の能力らしい。


 その内に兵士達も『毒見させてくれても……ええんやで?』と言い始め『食ってみろオラァ!』と、定食を色々出しての冒頭である。


 この能力。定食の形そのままで出てくる為、茶碗だのお盆だの割り箸だのが食事を終えても、そのまま残っているというサービスっぷり。

 メニューもカキフライだろうが、スーパーで売ってるエビフライだろうが、店屋物てんやもんのかつ丼だろうがチキンカツバーガーだろうが自由自在、思うまま出す事が出来たのだ。

 どうやら『ウマイ!』と思った物が出せるらしい。


 皆が満腹になり落ち着いた頃。


「コレはヤバイ。マジヤバイ能力だわ。

 戦いには直接使えなくても兵糧の意味でマジヤバイ。」


 兵士が神官長とそんな事を話しあっている声が聞こえ、実際俺もそう思っていた。

 俺一人で食糧問題とさようなら。その上、皿などの物品も手に入るのだからとんでもない。


 ヤバイ。

 俺。王国の至宝まっしぐらコースじゃね?


 そう思うと顔がニヤケ、したり顔で王様たちを見回そうとする。……と、全身から力が抜け崩れ落ちていた。


「あ……れ?」


 そのまま意識が飛んでいた。



--*--*--



 次に目が覚めると、毛布のような物がかけられ横になっている状態。

 半身を起こしてすぐに体感温度が大分低くなっている事に気が付き、夕から夜へ向かう時間帯になっている事を知る。


「魔力切れですな。」


 聞こえた声に目を向けると神官長がいた。


「魔力ぎれ?」

「さようです。ヒデアキ殿は先の食事を生み出した際に、自身の魔力を使用して食事を生み出しておられたのでしょう。そして自身の限界に近い魔力を消費した為、身体が休息を求めたのです。

 魔力を使う際によくある事で……今は必要最低限は回復した。という状態ですな。また明日の朝には元に戻っていますよ。」


「マジか~……20食も出せばぶっ倒れる能力か。微妙だなぁ……」

「いやいや大したもんですぞ? あれほど美味いご飯。それにホレ。」


 ソースの容器を手に持っている神官長。


「生み出された調味料がヒデアキ殿の意識が途切れても尚、存在し続けている。素晴らしい!」


 褒められると不思議と落ち着いてくる。

 俺の様子を見て神官長が微笑む。


「さ。今日はゆっくりお休みくださいな。

 ヒデアキ殿は『メシ』の能力の他にも『成長促進』『ぬるぬる』という特殊な能力があるのですから、明日また実験致しましょう。」


 どこか安心して目を閉じると、すぐに眠りの底に沈んでいるのだった。



--*--*--



「なるほど。」

「あぁ……なるほど。」

「「 これは『ぬるぬる』だわ。 」」


 翌日。またも皆が集まり能力の検証が行われる事になった。

 成長促進はおおよその当たりがついているらしく、未知数の『ぬるぬる』の検証が始まったのだが、すぐに理解できたのだ。


 なんせ出た。

 『ぬるぬる』が。


 食事の時の要領で『ぬるぬる』を思い浮かべてみると、すぐに手からヌルヌルした物が出てきたのだ。


 放出のON・OFFは自由自在。

 液体状の粘度も、比較的さらっと感に近いヌルヌルから、ぬろんぬろんに近いヌルヌルまで、意思を反映してある程度自由が効く。


 そしてその粘度に応じて摩擦係数や潤滑性が大きく変化し、意思次第で滑りの良さも調整できる事もわかった。なんせ実際にヌルヌルの上に足をおくとコケル速度が違う。


 『ぬるぬる』については、戦闘での利用が可能かを兵士達が検討してくれるらしく、そのまま神官長と移動を開始し、当たりのあるらしい『成長促進』についての検証に入る事になった。


 神官長に連れられ移動した先。


 そこで俺の目に飛び込んできたのは、体長1mはある大きな生きたアリの姿だった。


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