30話 ナルキッスの弱点
「フー! かっくいー!」
「キレテルキレテルー!」
「美しー!」
「キャーカッコイイー!」
俺達がアイドルコンサートのように黄色い声援を送ると、ナルキッスは髪をかきあげ、そしてポージングを次々と繰り広げてゆく。
俺達が教わったナルキッスの弱点は『サービス精神』と『有頂天』。
黄色い声援を送られれば、つい能力を使うことなく自分の肉体美を披露し、さらにそれが賞賛を集めると気持ちよくなって仕方がなくなるらしい。
実際その通りだった。
「あっはぁああん! 見てみてぇー! もっと見てぇー!」
「超魂眠ー。」
クオンの遠視でナルキッスの位置を把握し、リったんを巨大化させて皆で乗って強襲。そしてコンサートを開始して、ナルキッスが有頂天になったらムースーを近くに投げておやすみなさい。
その打ち合わせ通りに恙なく事が進み、ナルキッスは超魂眠により心底気持ちよさそうな顔でポージングを決めたまま固まった。
眠らせたらムースーにヌルヌル玉を飛ばして『よくやった』のご褒美を与える。
「わーい」
ナルキッスは物理耐性がハンパなく、白兵戦方面でナルキッスをねじ伏せるのは手がかかりすぎると結論がでた為、ホーちゃんの前例を活かしムースーの能力に頼る作戦を立てたのだが、実際に作戦を終えるとムースーの能力が一番強いんだと実感せずにはいられない。ムースーがそれを使う頭があるかどうかが怪しい事に心から感謝を捧げる……
こうしてリョウの救出作戦及び、ナルキッス制圧戦はあっけなく幕を下ろし、リョウと念願の再開を果たす事ができた。
「……見ないでくれ。」
だが、被害は甚大だった。
裸でシーツを胸元に寄せるリョウ。トレちん達は心配そうにリョウに寄り添っているが、リョウの姿はまるで乙女のように見える。
あまりの変わりように俺は直視できず目を背ける。
「すまん……遅くなって。」
他に言葉が続けられず重い沈黙が続く。
だがリョウは目を伏せたまま一言だけ呟いた。
「……ありがとう。」
俺はなんともやるせない気持ちのまま、せめてもの慰めの言葉を口にする。
「トレちん達な……リョウの魔力だまりじゃないと進化しないって聞かないんだ。
もう究極体に進化できるのにさ……トレちん達。待ってるから。」
俺はリョウに背を向け指示を出す。
「アーたん! アーたんレジスタンスの広告塔になってるから『勝利宣言』を!
もう勝利の女神っぽくやっちゃって! リったんはアーたんの翼になって。」
「分かったわ。」
「ホーちゃん達はナルキッスを上に封印しよう。魔王た――クーちゃんはナルキッスを上に運んで。」
「なんで私がアンタの言う――」
「主の言う通りに頼めないだろうか。」
「きゃあん。わかったわダーリン♥」
「さ、みんな。とりあえずここから出よう。リョウとトレちん達だけにしてあげよう。」
こうしてナルキッスの起こした騒乱は終結へとその行く先を変えた。
フレイドロンもアクアノスもアーたんの神々しい勝利宣言を受け歓喜に包まれる。
ただ、中にはナルキッスに傾向していた者も存在し皆が一様に喜ぶという事にはならなかった――だが、皆が心の平穏を手にしたことは間違いない。
今は荒れていても、いずれ凪ぐ日が来る。
それまでは以前のような過ごしやすい環境になるように人々に手を貸そう。
--*--*--
逃げ惑っていたアクアノス国王やフレイドロン国王とアポイントを取って面会し事態の収束を伝えると、一部のナルに心酔し狂信者となった者が面倒事を起こす可能性が示唆された為、その人間達を捕える役を買ってでた。俺が頑張れば他の人間が復興に全力をつくせることになるし、もともと究極体が3人もいるのに、面白がって残っているホーちゃん達をプラスすれば合計6人も究極体がいるのだから戦力として過剰、捉えられる人間が可哀想で仕方ないような気にもなる。
捕まる時に怖い思いをして捕まった人達は、じっくりカウンセリングを受けて欲しいものだ。
スッキリしないアンニュイな気持ちのまま作業を続ける日が続いたが、ある日、トレちん達が究極進化したとリョウから連絡があり、駆け付けると、トレちんは葉っぱが生えた美しい少女のような姿に変わり、マドちんは頭が立派なかさになっている少年のような人型茸。ラビちんはどことなくアーたんに似た雰囲気を思わせる男型に進化していた。
その3人と一緒にリョウが笑顔を見せてくれて、傷はあれど心は癒されつつあるのだと感じ胸をなで下ろす。
まだ友人としてぎこちない感じになっているけれど、いつか以前のような雰囲気に戻れそう。そう思えるようなリョウの笑顔に安心した。
「ボク。おしべもめしべもあるからリョウのこと満足させられるンス!」
トレちんが誇らしげに語った一言で、俺は遠くを見つめる。
人は変わる。
だから同じ時は2度とは来ないのだ。
今という時は今しかない。一生懸命に生きよう。そう思う。今できることを今しっかりやろう。後悔しないように生きよう。よし働こう。
「じゃ、じゃあリョウ! 元気になって早速で悪いけど復興作業分担しよう! リョウはアクアノスで立て直し頑張って! 俺フレイドロンで頑張るから!」
「おい待て。トレちんはスゴイんだぞ?」
「お、お幸せに! リ、リったーん!」
勇者として国に対して手伝える作業を分担し、両国双方向から復興の手伝いをしたことで、フレイドロンもアクアノスもあっという間に以前のような活気を取り戻した。
そして俺とリョウは勇者としての功績を認められ、魔獣を含め両国から表彰される事になり、両国間の中間に位置するコロシアムで表彰式が開催される事になり、久しぶりに顔を合わせる。久しぶりに見たリョウの笑顔はツヤツヤしてて、満足のいく日々を迎えている事が察せられ、俺は目を見ないようにして笑顔を作った。
俺とリョウ。9人の究極体が壇上に登ると同時に国王を始め見守っていた兵士達が跪く。
そして口を揃えて言葉を発した。
「「「「「 お願いですから元の世界へ帰ってください。 」」」」」




