22話 犠牲
「プーーー! クスクスクスクス!」
「おー。幸せそうに笑うなぁクオンは。」
「スー……」
まるでパジャマパーティのように部屋に集まっている魔王と人形と丸い塊。
魔王はベッドにうつ伏せになりながら、さも嬉しそうに手を口で押えながら笑っており、人形はその姿をみて少し呆れ気味に微笑み、塊は眠っているように動かない。
「だって聞いてよ。あのネバネバ勇者がナルにムッチューって!
捕まって以来、未だにチュッチュチュッチュしてるんだもの! いくら能力に当てられたからって、もう可哀想で可哀想で。……プーー!」
「あー。ナルは『勇者』好きすぎるからなぁ。きっと代用品が見つかって嬉しいんやろうなぁ。
ウチらの主はもう死んでしもうたけど、ナルの消化しきれんかった想いのぶつけ先が見つかって幸せなんやろうな。」
ごろんと転がり仰向けになって伸びをする魔王。
「あ~あ。こんなことならナルを封印しないで最初からナルを落としておけば良かったんじゃないかなぁとか思っちゃうわ。そしたら私があんな苦労しなくて済んだんだし。」
「いやいやそれは無いわ。いうたかて今は『勇者』っていう存在がおるから、あの程度ですんどるんやと思うで? あん時もし魂眠かけて封印せんかったら『満たされないぃ!』ってウチらにも魅了使いまくってるやろ。ナルのことやし。」
「ちょっと止めてよ想像しちゃったじゃない! あー気持ち悪い……いくら究極体でも、ナルは無いわー。」
「せやなー。どっちかっつーと兄弟姉妹な印象ついてるしなウチら……ウチでもナルをそういう目でみるのは気持ち悪い思うわ。
……ところで、もう片方の勇者はどないしとるん?」
「やめてよ……正直あの勇者の顔なんて見たくないのに。」
ヌルヌル勇者が話題に出た途端に冷めた態度に変わる魔王。
「クオンが嫌いなんもわかっとるけど、なんかおかしな事考えつく系のヤツなんやろその勇者? ネバネバの救出になんかするんと違うん?」
「むー……ホーちゃんに言われちゃうとなぁ……はぁ…すっごいイヤだけど仕方ない。」
再度、ごろんと転がりうつ伏せになる魔王。
さっきまでとは逆方向に視線を向ける。
「遠視――」
しばらくの間。
ホーちゃんはクーちゃんが何かしらの反応をするのを待つ。
「うへぁ……」
「なしたん?」
いかにも嫌悪感を丸出しにした表情で固有能力である『遠視』の使用をやめたクーちゃんこと魔王。
その反応に不安げに声をかけるホーちゃん。
「……写真撮ってた。」
「へ? 写真?」
「うん。……またパンツだけの状態でヌルヌルになりながら究極体になったっぽいアントランダを撮ってた。 すっごい興奮してる顔で……色々思い出しちゃった。あぁ…きもちわるぃ……」
「ちょ、ちょい待ちぃな。究極体になったって?」
「多分だけどね……私みたいに完全な女の人型っぽくなってたし。着てた服の印象はアントだったから。」
「それ、ナルに対抗できるようになったって事なんと違うん?」
「ん~? ……どうなんだろうね。でもナルなら大丈夫なんじゃない?
肉弾戦なら私達3人で戦っても苦戦するレベルで強いし、弱点を知られない限り油断もしないでしょう?」
今見た物を忘れようと、仰向けになって目を腕で隠しながら話すクーちゃん。
「それになんだかんだ言っても、あのヌルヌル勇者が揃えられるのは3体の究極体がせいぜいでしょ?
ネバネバ勇者の魔獣はネバネバの魔力だまりでしか進化したがらないだろうしさ。ネバネバはナルとチュッチュだし。プーー!」
「ん~……」
「ほら、いざナルと戦いそうってなったら私達がナルの加勢に行っても良い訳じゃない? そしたら数でも優位に立つんだろうから問題ないって。」
「ん~……でもなんか気になるなぁ……ムースーはどう思う……って寝とるか。」
「ほら! 細かいことはいいじゃない!
あのヌルヌル勇者は攻撃しても滑ってムカツクし。叩き潰す場合はネバネバ勇者の力借りないとダメだろうから、結局ナルに会いに行かなきゃいけなくなるしさ。どっちにしろ私達にとって面倒な事に変わりないんだから!
こうして時々ネバネバの様子を見てればOKなのよ。究極体に進化したのはこんだけ時間かけて1体だけみたいだし。まだOKOK!」
「ん~……それでええんかなぁ?
なんか今の内に手を打っとかなアカン気もするんやけどなぁ……」
「ホーちゃんはなんでも難しく考えすぎなのよ! 私はあのヌルヌルの事なんて考えたくないの!」
「でも、クオンはいっつも考え無し過ぎるからなぁ……」
「あ……今のカチンときたー!」
「悪い悪い。でも事実やからなぁ……」
「また言ったー!」
大きな声を出したクーちゃん事魔王の声に丸い塊がプルンと反応を見せる。
だが、クーちゃんとホーちゃんが気が付いた様子はない。
「いくらホーちゃんでも私怒るよ!?」
「せやかて、もしかしたら予想を上回ってナルを何とかするようなヤツらになったら手もつけられんなるぞ? そうなったら困るんウチらやんか?」
「謝って!」
「あ? うん。ゴメンゴメン。」
「なんで2回も言うの! 1回でちゃんと謝って!」
「いや謝ったがな……」
ヒートアップし始めた二人に、丸い塊から伸びた触手がそっと触れる。
「ムニャムニャ……ケンカは両成敗なのー。眠れー……」
「あっ!? スーちゃん!? やば、無防備n―― ぐー……」
「ちょ、待ちいムースー! ケンカちゃう! 今大事なh―― スー……」
あっという間に事切れるように眠りに落ちる二人。
丸い塊は形を変え女性を象ってゆき、そして両手でゆるーくガッツポーズを作る。
「んふー。仲良くしないとダメなんだからねー。」
間延びする声で言い放ち、のんびりとぷりぷりと怒ったジェスチャーをするのだった。
もちろんその姿を見ている者は誰もおらず、しばらくプリプリした後、しょんぼりとし、やがてまた丸い塊に戻るのだった。
その頃――
「ふぅ……これでアーたんを360度、どの角度からも撮影し終えたな。」
満足げに額の汗を腕で拭うヒデアキ。
だが、その表情はどこか暗い影が差していた。
「……本当にいいの? アーたん。」
悲しげな表情で問うヒデアキ。
「うん。いいよ。
今は戦力が増えることの方が大事だと思うから。」
平然と答えるアーたんに対し、下唇を噛むヒデアキ。
その目はうっすらと涙すら浮かんでいるようにも見える。
「でも! コピたんとリったんの究極進化なら時間をかければ必ずできる!
アーたんが身を切る必要なんてないんだっ!」
アーたんは口元に微笑を浮かべて首を横に振る。
「ううん。ダメ。それだと時間がかかりすぎる。
アーたんはヒデアキが無理して明るくしているのを見るのは悲しい。
本当は早く助けに行きたいんでしょ?」
「アーたん……」
「私達魔獣はヒデアキの魔法のご飯と強いモンスターを食べて強くなれた。
コピたんとリったんは強い。完全体のモンスターを探しても時間がかかる。
ねぇヒデアキ。今一番身近にいる強いモンスターは誰?」
ヒデアキは強く拳を握り、アーたんから目を逸らす。
「私だよね?」
アーたんは冷たく光るナイフをもち、その柄をヒデアキに向け、そっと差し出した。
「でも! いくらなんでも! アーたんをだなんて……」
「ヒデアキ? ヒデアキがやらないなら、私がやるよ。」
「っ!?」
ナイフを持ちなおそうとしたアーたんを見て、慌ててアーたんからナイフを奪い取る。
しばし睨み合い、そして根負けしたのはヒデアキだった。
「……わかったよ。アーたん。」
ナイフを握り、そしてその刃をアーたんへと向けるのだった。




