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ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


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20話 落ちる勇者

 フレイドロンにナルキッスが現れ、あっという間にその脅威にさらされ手に落ちて数週間が経った頃。愛し合った人間達から情報を仕入れたナルキッスはフレイドロン近くに滞在している勇者達の存在を知り、喜び勇んでその魔の手を伸ばした――


「ユウシャー! あぁ、君たちがユウシャなんだねぇ! イイヨー。

 僕はナルキッス! さぁ愛し合おうじゃないかぁ!」


 アーたんが危険を察知し教えてくれていたが全力で追いかけてくる究極体から逃げる事は叶わなかった。


「なんだよコイツはよぉ! くらえっ!」


 リョウがネッバネバを放ち直撃する。


「むっ? あぁ、身体に纏わりついて離れない感じ、イイじゃない。イイじゃないかぁ。

 ネッチョリとした感触が僕を包んでゆくぅ! 新しい! 新しいよぉ!」


 嬉しそうに声を上げるナル。

 その異様さに思わず息を飲む。


「ヒデアキ……アレほんとにヤバイ。」

「そうだね……見ちゃいけませんアーたん。

 コピたんとリったんもダメだよ。目が腐っちゃう。」


 気持ち悪さを覚えつつも、リョウのネバネバをくらって追いかけてきたヤツはいなかった経験から雑談できる余裕が生まれていた。


「よし、リョウ! 今の内に逃げようぜ! とにかく距離を!」

「おう! ヒデアキ!

 トレちん達はヒデアキに逃げる用ヌルヌルつけてもらいに行って。俺は念の為、コイツにネバネバぶっかけとくから!」

「あー! さらに容赦なくぶっかけられているんだねぇぇ! イイヨーイイヨーっ!」


 アーたん達と自分に逃走用足元ヌルヌルコーティングを施し終え、トレント進化系モンスターのトレちん、マンドラゴラ進化系モンスターのマドちん、キラービー進化系モンスターのラビちんの人型モンスター達にも逃走用ヌルヌルコーティングを施す。


「アー。折角イイところなのに終わりにする気かい? させないよー!」


 ネバネバに包まれているにも関わらず余裕の笑みを浮かべているナルキッス。その笑顔に悪寒が走る。


脱皮パージっ!」

「「 なっ!? 」」


 ナルキッスが叫ぶと同時に、まるでゆで上がった枝豆をつまんだ時のように勢いよくネバネバから飛び出すナルキッス。

 その姿はトゥルンとして、モストマスキュラーのポージングをするナルッキスの肌は、いかにも湯上りたまご肌と言わんばかりに輝いている。


「せぇっかくユウシャと出会えたんだ。もっと一緒にいようじゃないか?」


 ニッコリと微笑むナルキッス。

 その微笑に恐怖が沸き起こるのを抑えきれず反射的に手を向け、ぬるぬるを全力で放っていた。


「んん~っ、魅了解放ラブフォールっ!」


 ナルキッスから、閃光が放たれる――




 ―― トゥン…… ――


 な、なんだ……まるで魔王たんを初めて見た時のような胸の高鳴りが……

 あれ? あのナルキッスとか言うの……可愛いじゃないか。

 俺の出したヌルヌルがぶっかかって濡れ濡れ状態になってるし、是非ぬるぬるプレイをしt――



 今にもナルキッスに向けて駆け出したい気持ちが沸き上がりつつも、どこかに引っかかるような気持ちがあった。その引っかかりが無性に気になり駆けだしたい気持ちにブレーキがかかる。


 ふと横を見るとアーたんがうっとりとしたような視線を、コピたんが獲物を見つけたような視線を、リったんが甘えるような視線をナルキッスに向けている。アーたん達のその恍惚とした表情を見た瞬間、強烈な嫉妬心が沸き起こり駆け寄りたいと思っていた気持ちが吹き飛んだ。


「あっぶねぇっ!」


 フレイドロン王国がナルキッスの手に落ちた後、逃げ出した難民の中に居たリョウの漫画のファンからナルキッスの詳細を聞いていた。


 能力に当てられると魅了されてしまい、とにかく愛し愛されたくてたまらない状態になってしまう。だが距離が遠ければその効果は薄くなる事もあり辛うじて理性を保つ事が出来た者もいるらしいのだと。


「ぬるぬるを全力で出したおかげ……か。」


 咄嗟に放っていたぬるぬるが遮蔽物となって、ナルキッスの効果範囲を狭めたのだ。


「アーたん! アーたんっ! しっかり!」

「っ! ……ヒデアキ? あれ?」

「コピたん! リったん! あんなウソんこな能力に騙されちゃダメだって!」

「むぅ……失態。」

「ギャウ」


 次々と正気に戻りはじめる仲間達。

 近くにいたトレちん、マドちん、ラビちんにも皆で声をかけていくと、まるで幻惑から覚めるように正気に戻ってゆく。


「オー? なんてことだ。ボクの愛は届かなかったのかい?」


 大袈裟にかぶりを振るナルキッス。


「おいリョウ! ヌルヌルで遮蔽物を作ればあの能力を半減できるみたいだ! 逃げ切れるぞ!」


 だが、返事がない。


「おい……リョウ?」


 過る嫌な予感。

 恐る恐る首の角度を変え、少しずつ視線を送る。


「リョウ――」


 そこには両手を股間に挟み込んで内股になって、もぢもぢとしているリョウの姿があった。

 

「しっかりしろ! お前のネバネバ出してて大丈夫だったんだろ!」


 駆け寄りリョウに往復ビンタをする。だが、リョウのモヂモヂは止まる気配がない。

 それよりもナルキッスに向けている視線の中に俺が入り込んだ事が不快に感じているような気すらある。


「は、はぁ……あ。ひ、ヒデアキ……俺は、もうダメだ……」

「しっかりしろリョウ!」

「あ、あの……た、逞しい腕の中に飛び込みたい気持ちが……おさ、おさ、抑えられない。」


「トレちん達! リョウを止めて!」

「リョウ! 気をしっかり持つンス!」


 ナルキッスの能力に間近で当てられた人間は正しく恋に落ちてしまう。

 たとえ連れ出して場を離れてもまるで熱病に犯されたようにナルキッスを想い会いたくて仕方なくなって自分で会いに行ってしまう。


 俺は心のどこかで、リョウがもう手遅れなのだと感じずにはいられなかった。


「や、やめろ……トレちん。俺の邪魔をするな……トレちんを嫌いだと思わせないでくれ。

 ヒデアキも…邪魔を……するな。」


「オー! ボクの愛が届いたんだね! ユウシャ! ヌルヌルにまみれてしまっているけれど、ボクはここだよ! さぁ、愛し合おうじゃないか!」

「黙れっ!」


 リョウの様子に気が付いたナルキッスにヌルヌルを放つ。


「オー! ぶっかけ! イイヨーイイヨー!

 ぬるぬるまみれで愛し合ったらキモチイーだろうネー!」


 ナルキッスの言葉に、リョウがヌルヌルだらけのナルキッスの下へと一歩を踏み出す。

 ヌルヌルで滑らないよう、自分のネバネバを使ってまでして進みだしたのだ。


「ヤメロ! 行くなリョウ! ヤツの能力に惑わされているだけなんだぞ!」


 もう俺の言葉はリョウには響かなかった。

 ゆっくりとリョウはナルキッスの下へと足を進めてゆく。


「リョウ!」


 だが、トレちんの呼ぶ声はリョウに届いた。

 ゆっくりと振り返るリョウ。


 その顔は自分が惑わされている事を理解している上で溢れる感情の制御がきかないのか、涙に濡れ大きく震えていた。


「ヒデアキ……頼む……トレちん達を……頼む」

「リョウ!」


 涙をこぼし続けるリョウと止めようともがくトレちん達。だがヌルヌルで滑る足場でトレちん達がリョウを止める事は出来ない。

 俺は苦渋を飲んで決断する。


「……アーたん。コピたん。リったん。トレちん達を捕まえて。

 逃げるよ。リョウは置いていく――」


 俺の言葉でアーたん達は動き始める。


「やだ! いやだ! リョウを置いていくなんていやだ!」


 引き離されたトレちん達が抵抗する。

 だがヌルヌルを操れる俺達に抵抗は無意味だった。


 そんなトレちん達を見て、リョウは涙をこぼしたまま安心したように微笑む。

 


「トレちん、マドちん、ラビちん。

 ヒデアキと一緒に逃げてくれ。

 ……一緒にいれて幸せだったよ……ありがとう――」


 リョウの言葉が胸に突き刺さる。だが涙を飲んで口を開く。


「みんな逃げるぞ! 今すぐにこの場を離れる!」

「リョーウ!」


 泣くトレちん達を引き連れ。その場を後にした。


 リョウ一人を残して。


 俺にできることは、俺のヌルヌルで少しでもリョウの尻の痛みが和らぐことを願うことだけだった。



少し時事系列が分かりにくくなってしまったので、補足させて頂きます。


18話の襲来 → 20話のリョウ堕ち(襲来より数週間後) → 19話人類分裂(襲来4か月後)


です。もしかすると、19話と20話の位置を入れ替えるかもしれません。

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