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ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


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17話 目覚める混沌


「だから起こそ? もう私ヤになってん! もうヤー!」


 魔王が一室の中、まるでウォーターベッドに身を預けるようにふくよかな弾力を思わせるかたまりに全身で抱き着き、顔をぐりぐりとうずめながら呟いている。

 その様はまるで拗ねているようにも見えた。


「そかー。クーちゃん嫌になっちゃったんかー。 そしたら仕方ないんかもしれんなー。

 でも一応ホーちゃんにも聞いておこー? すぐに起こすからー。」


 顔をうずめられたふくよかな弾力の固まりが、間延びしたような響きの優しげな声を返す。


「ヤやもん! もうアイツ起こそ! すぐ起こそっ!」


 まるで駄々っ子のようにグズりだす魔王。

 その様子から返事を返していた弾力の固まりはその姿を人型へと変え始め、クーちゃんと呼ばれた魔王は、まるで優しそうな顔立ちの女性へと変貌した弾力の胸に顔をうずめているような格好になっていた。

 その優しそうな顔立ちをした女性は自分の胸にある魔王の頭を撫ではじめる。


「そかそかー。そうやなー。あの子起こそうなー。

 でもホーちゃん起こしてからにしようなー。

 ホーちゃんほったらかしで起こしたら、ホーちゃんきっと後で怒るからなー。

 クーちゃん一生懸命頑張ったし、少し休んどこうなー」


「ヤダヤダヤダ! すぐ起こ……スー……」


 淡い光を纏い始めた手で撫でられた魔王ことクーちゃんは、あっという間に眠りに落ちる。まるで泣き疲れて寝た子供のようなクーちゃんをベッドへと運ぶ柔らかそうな弾力の塊ことスーちゃん。

 クーちゃんをベッドに寝かせ、軽くシーツをかけてポケーっとしばらく中空を眺め、やがてうんうんと頷く。


「なんだかー。大変なことになったなー。

 クーちゃん休んでる間にー。ホーちゃん起こさななー。」


 いそいそと歩いているのか滑っているのか分からないような動きで、別の部屋へと向かうスーちゃん。本人は多分急いでいるのであろうが非常にのろい。

 やがて薄暗い部屋に入り棺桶に手をかけ開くと、そこには一体の女性をかたどった人形があった。


「ホーちゃん起きてー。

 おはよーの時間だよー。魂眠解除(おきて)ー。」


 ポーっとスーちゃんの言葉と同時に起こそうと触れた手から放たれた光が人形の全身を包むと、人形の頬に生気が生まれ――なかった。

 

「あー……ホーちゃんいっつも寝覚め悪いからなー。夜になったら起きるかなー。」

「起きとるわ。」

「わぁー。おどろいたー。」


 ムクリと半身を起こす人形。そのままボリボリと右手で頭を掻く。


「……相も変わらず間延びしたやっちゃなー。ムースー。 なぁ、ウチどんくらい寝てたん?」

「えー? ちょっとまってーホーちゃん。

 あー。おどろいたー。」


 ふくよかな胸に手をあててゆっくり深呼吸をするような仕草のスーちゃん。

 ホーちゃんと呼ばれた顔色の悪い寝癖のついた女性は、首を左右に動かし、そして大きく伸びをした。


「で? まぁ、どんだけ寝てたかはいいとして、ムースーとクオンと違ってガッツリ魂眠してもろたウチが起こされたって事は、とうとうイケメンが生まれたか、それともまたなんか困った事になったかのどっちかなんやろ? どっち?」


「えーっとねー。私達が起きた回数がー。 1……2……3……4…」

「あぁあ、どんくらい寝てたかはもうええから。なんかもうかなり過ぎてるのわかったし。なにが起きたん?」


「クーちゃんがね。あの子起こそーってー。」

「はぁ? なんでそんな面倒なこと言いだしたん?

 あんなん起こしたらクオンかて厄介なコトになるんわかってるやろ? あ、クオンおらん。どこ? 今どこにおるん?」


「ちょっと寝かせたー。」

「ほなクオンの顔見に行こか。部屋なんやろ?」

「うんー!」


 棺桶を飛び出すホーちゃん。クーちゃんこと魔王の部屋へと足を向ける二人。

 部屋のベッドに横になっている魔王は、憎々しげな顔でギリギリ歯軋りをしながら眠っていた。


「……うーん……勇者…死ねェ……」


 苦しげに唸るように呟く魔王。


「……これはまた。なにがあったんやら……」

「わぁー。」



--*--*--



「ほな起こそか。」

「うん! もう人間なんかどうとでもなっちゃえ!」

「わー。」


「まぁクオンのされた事を考えたら、そう思ってもしゃーないわな。」

「でしょう? もう私、悔しくて!」

「わー。」


「せやけどアイツ起こしたらいきなり能力使ってくるかもしれんから気ぃつけよな。」

「うん……それで相談なんだけど……いっそのこと、もう魂眠から覚めさせた瞬間に落とすってのはどう?」

「わー。」


「えっぐぅ……でもまぁ、アイツやったら落ちて死ぬことはないやろし、ウチらも能力にあてられんから気ぃ張らんでええし楽やけどな。

 ……でもええんか? アイツ人間大好物やから根こそぎ食われてしまうかもしれんし確実に下界したは滅茶苦茶になるんやぞ? 人間の多少の生活もモンスターの成長には有益なんやけど?」

「もういいもん。もう、私、人間、嫌い。知りません。」

「わー。」


「まぁええか。優秀なモンスターやったら頑張って逃げるやろし。うん。

 アイツもクオンおらんかったら、ここにも来れんやろうから……よし! クオンの気が晴れるんやったらやっとこか!」

「おー! ふふふ。人間どもよ。地獄の蓋が開くのは今日。この時だ!」

「おー。」


「魔王ごっこ板につき過ぎ。」

「だって結構頑張ったもん。じゃ、やっちゃお!」


 浮かぶ大地の崖。

 魔王ことクーちゃんとホーちゃんが一体の彫刻のような物を運んでくる。

 彫刻の姿は、右手を垂直に上げて肘を曲げてそのまま自分の左耳を隠し、左手は自身の右臀部を触るような恰好。そして何かを叫んでいるような形で固まっていた。


 その彫刻を崖から落ちるか落ちないかのギリギリに寝かせる二人。


「ほな。」

「うん。お願い……スーちゃん。」


「はーいー。超魂眠解除(おきて)ー」


 スーちゃんから目覚めを促す光が放たれると同時に魔王とホーちゃんは彫刻を蹴り落とした。

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