16話 混沌の影
俺の名は『スコルピオン』
サソリのモンスターのスコーピーから完全体へと進化し、そして念願の伝説の魔王様に仕えるべく側近募集の知らせを聞き志願した。
戦う事は元から得意で並み居る他志願モンスター達をバトルロワイヤルよろしく薙ぎ倒し、魔王様直々に面接してもらえるほどに活躍。そして伝説に残る魔王様を前にしている。
どんな汚れ仕事だって完遂して見せる気力をアピールすべく、俺はフードのついたマントを身に纏い姿を隠す魔王様を前にして宣言する。
「貴方様の為なら例え火の中水の中、どんな困難があろうとも必ずや期待に応えてみせます! どうか私をお傍に!」
「えっ!? そ、それってプロポーz――」
少し慌てたようにワタワタと動く魔王様からフードがずれ落ちると、相当焦っているのか汗を滲ませ目が泳ぐ美女の顔が現れる。
それが魔王様との初めての出会いだった――
「ただいま反乱分子達の掃討作戦を終え、戻りました。」
「お帰りなさ~い。 お疲れ様! そんなスコルピオンを癒しちゃうぞ♪
どうする? うまる? それとも挟む? もしくは……吸っちゃう? きゃっ♪」
「……魔王様…無駄に胸を強調するのは止めてください。」
「え~? そんな事言って本当は私をオカズにしてるんでしょう?
いいのよ。私はアナタが望むならどんなプレイでも耐えてみせるから!
そのシッポだって、なんなら舐めちゃう!」
「…………」
「放置っ!? 早速上級者の香りを纏うのね!
いいわ任せて! こう見えて私そういうのも得意だから!」
「…………」
「はぁん! 冷たい目ぇ♪ それもしゅきぃ~! しゅきぃなのぉ~!」
「魔王様。」
しなを作り身をくねらせる魔王の肩を両手で掴む。
「え!? あ、ちょ、そ、それ、そういうことは、その、もっと、その時間をカケテといいますか、あの。」
途端に慌てだす魔王。
「お願いですから……もっと魔王らしくしてください……」
「ふぇ?」
俺の魔王が残念処女ビッチなわけがない――
「誰が――」
破る。
「残念――」
破る。
「処女ビッチだぁああっ!」
投げつける。
破りに破ったマンガは空中でバラバラに舞い散り、部屋は紙ふぶきが舞っているかのよう。
その紙ふぶきにあったカラーページに垣間見えた魔王の姿は紅い目に金色の髪、そして黒いビキニ姿の女性だった。
「あああぁあああーーっ!」
飽きたらずテーブルに拳を打ちつけるマンガと同じような恰好をした女性。高級そうなテーブルはその力に耐えきれず無残にも割れ壊れた。
「お、落ち着いてください、魔王さん!」
「これが落ち着いていられよーか!」
「ほら、コレ巻末に『この物語はフィクションです。実在の団体や人物とは一切関連はございません。』って書いてありますから。みんなフィクションって分かってますから!」
「そんなもん誰が見るか! ねえアンタ達なんなの!? なんでこんな嫌がらせしてんの?
私、結構寛大な処置してあげたよね? なのになんでこんな仕打ちしてんのねぇ! なんで店に平積みされるくらいの人気になってんの!? 頭大丈夫!?」
両国王は激昂する魔王を前に背中から冷や汗が吹きだすのを感じながら必死に続ける。
「もちろん魔王さんの心遣いには感謝しております!
フレイドロンもアクアノスもどちらも魔王さんに感謝し、先のご提案の後保護法をすぐに成立させ法令順守を呼び掛けておりますし、それに魔王さんの事も極力好意的にとらえられるよう情報発信を行っており――」
「あっそうっ! その結果がコレ!?」
「いや、それは、あの勇者達が……勝手にと言いますか……拝金主義と広報がマッチしてしまったと言いますか……あの聞いてください魔王さん。あの勇者達、揃いも揃って『俺達拉致監禁されただけで国民でもなんでもないし』と言って出て行ったんで……」
両国王がゲンナリした表情で告げる。
「あいつら魔王さんが究極進化した後の姿だって話を聞いて嬉々として飛び出して行ったんですよ。
魔獣をみんな究極進化させるつもりみたいで……アントランダが『強いモンスター狩れば近道っぽい』的な事を言うもんだから、完全体を優先的に探してるみたいで……ウチとしては踏んだり蹴ったり。
そりゃあ私らもなんとかしようと派兵したりもしたんですよ? でも勇者2人が合流しちゃうし6体の完全体を相手になんて私らにはとても無理で……もう魔王さんに討伐お願いできないかとも思ってるんですよ。」
まるでチワワのような目を作り、魔王を見る両国王。
「「 魔王さんだけが頼りなんです! 」」
魔王はすぐに用意された代えのテーブルに突っ伏す。
「……私が……行ってないとでも思った?」
「「 えっ? 」」
魔王がプルプルと目尻に涙を溜めて小さく震える。
「私が、ここに来るまでに勇者の所に行ってないと思った?」
「まさか……」
「そんな……」
両国王は顔を見合わせた。
--*--*--
岩山だらけと言っても過言ではない荒れた地。
ポツンと目立つような場所に勇者2人と完全体6体の魔獣がいた。
「あ。ヒデアキ。アレが来るよ。」
「え? アレが来るの? 珍しい。 おいリョウ。アレが来るってさ。」
「あ? 今それどころじゃねぇんだよ!
今日中にあと3ページペン入れしなきゃいけねぇんだから! ヒデアキお前何とかしとけ!」
「うわぁ……修羅場って怖いねーアーたん。」
「ね~。」
「うっせぇ! 邪魔すんなっ!」
「わかったわかった。とりあえずネバネバの超強力なヤツをちょっとくれよ。」
「ほらよ!」
リョウから飛ばされた球状のネバネバが、ヒデアキの作ったヌルヌルの柱に飛び込んでいく。そしてそのままヌルヌルを纏ったボール状になって飛び出し、それをコピたんが拾う。
「じゃ、アーたんとコピたん行こうか。
リったんはそのままリョウの家のまま待機しててもらっていいかな? 一応攻撃が来ても滑るようにぬるぬる塗るねー。」
巨大なリったんは、その体躯を活かしてリョウ達の日よけとなっていたのだ。
リったんにヒデアキが触れると手から出たヌルヌルが覆い始め、リったんはツヤっとした状態へと変わる。
「アーたんとコピたんも~。」
二人の人型魔獣にも手をふれヌルヌルを纏わせるヒデアキ。
そして自分にもヌルヌルを纏わせ、リったんから少し距離をとると、まるで見計らったように天から隕石のようにやってきた魔王が目の前に着地。その勢いに地面が鳴る。
「あーっ!」
地響きで線が曲がったのか、遠くでリョウの叫び声が聞こえた。
だが、それ以上に怒りに満ちた表情の魔王が口を開く。
「お前らブっ殺す。」
「どうやって?」
「ふぁっ!」
魔王は転んだ。
「ふぁあっ!?」
足がベッチョリと地面にくっついている。
転んだ拍子に手もベッチョリと地面にくっつく。
「ここら一帯『魔王ホイホイ』設置済みなんですがねぇ?」
「くっ! どうせまたイヤらしい事するつもりなんでしょう! かかってこい! 今日はもう噛み千切ってでもぶっ殺してやるから!」
ヒデアキは手の平を上に向け、両肩を上げて首を横に振る。
「なんなのよ……その余裕。」
「なんて言うかなぁ? 正直もう魔王たんに興味はないんだよね。」
「……はっ?」
セクハラ玉砕覚悟でやってきた魔王は戸惑う。
あれだけしつこいセクハラをしてきたヤツが自分に対してまるで興味を失ったかのような視線を向けてきているのだ。
「だって魔王たんアレでしょ? 人間とは恋しないんでしょ?
俺とリョウって100%無理と分かってるのに全力を尽くすとか、そんなアホみたいなマネはしないんだよね?」
「えっ?」
「それにさ。魔王たんのおかげでアーたん達が究極進化したらもしかしたら飛び切りの美女になる可能性があるかもしれないってわかったワケじゃない? 愛情をかけただけ返してくれる魔獣が美女になるかもしれないってわかったらどうする? そりゃあ頑張るよね? 頑張って究極進化させようとするよね?」
「う。」
「国もなんだか怪しい動きみせるからさぁ? だから俺とリョウは自分達が幸せに過ごせるように工夫してるわけよ。食うに困らなくても金は要るわけだし、リョウが日本にいた頃の技術使ってマンガまで作って儲けてさ、今は完全に自立してるってわけ。だからさぁ? もう俺達に構わないでくれない?」
「そ、そうだ! あのふざけたマンガっ! なんなのよアレ!」
魔王がリョウの方へ目を向けると、リョウは遠くで猫背になって原稿用紙に書きこんでいる。
トレちんや茸を思わせる魔獣、どこか蜂を思わせる魔獣もリョウに従い原稿用紙に向かっていた。
「まさかマンガが受けると思ってなかったよ。
ほんと、ファンの人が助けてくれて資材とか手に入るようになったし、人気が出たおかげでリョウのやる気もゲージぶっ飛ぶレベルで振りきれてるし。ノリに乗ってるって感じだよ。うん。」
「だからっ! なんで私を書いてるのよ!」
「は? 魔王たんを? え?
……ちょっと自意識過剰なんじゃないですか?」
「え? だ……誰がどう見ても私だろ?」
ヒデアキはわざとらしく首を捻る。
「えぇえ? あれはリョウ先生の想像上の産物ですからぁ? 魔王たんとはまったく関係ないですよ?
あれ? そう言われてみれば似ていなくもないかもしれませんね……服装あたりが。」
突然にぃっと笑うヒデアキに、怖気を感じる魔王。
「折角なので資料でも。」
「おい! 何をする気だ! バカ! ヤメロ!」
ヒデアキはコピたんが4本腕のうち2本の腕を組むようにして抱えているヌルヌルに包まれたネバネバを手に取る。
もがく魔王の上のビキニにネバネバをくっつけもう一方を地面に、魔王の下のビキニにネバネバをくっつけもう一方を地面にくっつけ離れた。
魔王はニーハイソックスのようなブーツ、肘まで隠す様なロンググローブも身に着けており、ネバネバは衣服に集中してくっついている状態。そして今、ビキニの上下までもがネバネバの餌食となってしまう。
「まさか……」
「お帰りの際は、その衣装は資料として置いて行ってくださいね。」
そう言ってヒデアキは魔王の下を去っていくのだった。
ポツンと残され、どうしようかと悩んだ魔王が再度ヒデアキの去った方向に目を向けると、ヒデアキに報告を受けたリョウが執筆を止め、血走った目をしながらスケッチブックを片手に走ってくる姿が映る。
――リョウが魔王ホイホイにかかった魔王の下に辿り付いた時、そこには、魔王の衣装一式だけが残されているのだった。
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魔王がプルプルと目尻に涙を溜めて小さく震える。
「私が、ここに来るまでに勇者の所に行ってないと思った?」
「まさか……」
「そんな……」
両国王は顔を見合わせた。
魔王はそんな国王達を見て吠える。
「もーいい! もう知らない!
お前らみんなアイツの餌食になっちゃえ! アイツ起こしてやるんだから! バカー!」
魔王は屋根をぶっ壊しつつ『上』へ帰っていった。




