14話 新大陸速報
―― 魔王3度目の襲来なるも、フレイドロン国軍の活躍により撤退 ――
極秘裏に開催されたフレイドロン王国とアクアノス王国の和平交渉を目的としたトップ会談の場に魔王が初めて襲来した際のニュースは鮮烈な衝撃をもって両国民に知らされたのも記憶に新しい。
そのニュースを伝えたのは当社、新大陸速報社である事は言うまでもない。
これまでは両国専属の新聞社により取材されていたが、この事件を切っ掛けに2国間での情報共有の有用性が考えられ当社こと2国間に跨り両国のニュースをお届けする新大陸速報社が設立され、以降当社は2国に記者を派遣し両国のニュースを全世界に向けて発信し続けている。
さて、その第1回襲来の際、両国軍と両国召喚勇者の活躍により魔王を撃退し撤退せしめたが、以降の魔王はフレイドロン王国にのみ襲来を重ねている。
対するフレイドロン国軍は魔王襲来の予見システムを構築し、トップ会談から1ヶ月後の魔王によるフレイドロン王国襲来の際、その降臨日時、場所を的確に予見してみせた。王国の技術力に国民は大きな頼もしさと信頼感。安心を感じずにはいられなかった。そして、さらに1ヶ月後となる一昨昨日。魔王はまたもフレイドロン王国に襲来した。
フレイドロン王国軍、広報官マルクィーズ氏は襲来について以下の通り発表を行った。
此度の魔王は刀剣類を所持し猛威を奮った。だが、我がフレイドロン王国軍は果敢に魔王に立ち向かいその進行を阻んだ。魔王はフレイドロン王国軍の鉄壁の守りにより進行を諦め撤退し、被害は軽傷者数名と軽微である。
発表は事実であり、魔王の撤退は当社記者も遠眼鏡を通して遥か上空へ向かう魔王を確認している。
しかして魔王が猛威を奮ったにも関わらず重症者、死者が未だ出ていないという現状は、果たして魔王が伝承に伝わるほどの脅威であるかを疑問視せずにはいられない。
当社記者もその疑問を晴らすべく戦場への潜入を試みたが、その統制は厳しく潜入する事は不可能だった。
だが、当社記者は諦めず取材を続け、戦場に立った兵士から話を聞く事に成功する。
その兵士の語った内容は大きな衝撃だった。以下、その衝撃の対談の一部始終を記す。当該兵士の呼称は当人の安全確保の為、仮にA氏とする。
A氏 これ、本当に大丈夫なんですよね? 流石にマズイ気もするんですよね……
記者 ええ。大丈夫ですよ。(特定されるような情報は)漏らしませんから安心してください。
A氏 本当に気を付けてくださいよ。
記者 はい。早速なんですけど魔王を実際に見たことはありますか?
A氏 えぇ。見たことがあります。『何回見たか』とか聞かないでくださいよ? それだけでも分かる人には分かっちゃうんで(笑)
記者 あやうく聞くところでした。
A氏 あぶないなぁ(笑)
記者 もちろん冗談ですが(笑)
……Aさんが実際に見た魔王はどんな印象でした? やはり破壊の化身のような存在だったのですか?
A氏 いや驚くと思いますが、魔王は美女なんですよ。
記者 美女? ……ですか? 人間って事ですか?
A氏 人間かどうかは不明ですが、凄く美人な女の人に見えました。同僚とかと話をしても皆、同じように見えていたので幻術とかそういう類じゃなくて、実際に美人なんだと思います。しかもかなり肌を露出しているので刺激的ですよ。
記者 それはまた、なんというか……役得ですね。
A氏 あ、でももちろんその身体能力はとんでもなかったです。剣を持ちだした時、正直僕らもこれまでの簡単に退却してる印象があったんで油断してたんですよ。大したことないんじゃないかって。でも離れた場所に居たのに奮った剣圧だけで数人が怪我しちゃいましたし……
記者 剣圧? 剣圧で怪我ですか?
A氏 えぇ、素振りとかあるじゃないですか。あんな感じで振るった剣から圧力が飛んでくるような感じなんです。もう人間業じゃないですよ。こう(袈裟切りにする素振り)したと思ったら、その先に居た人がバーンですから。
記者 よく怪我だけで済みましたね……そんな剣を奮うのであれば死傷者が出てもおかしくないんじゃないですか?
A氏 本当に。魔獣が盾役をしてくれたおかげで怪我をする人が少なくて済んだんですけど、やっぱり伝説級のリザーディガンとかが味方にいると頼もしいですよ。本当に壁ですもん。
記者 勇者ヒデアキ氏の魔獣ですよね。よく外に狩りに出かけているのを目撃しますが、伝説級を3体連れているのってスゴイですよね。
A氏 あ……コレマズっちゃったかな。
記者 どうしました? 何か問題そうなら伏せますが……
A氏 いや実は勇者関係の話はトップシークレットもトップシークレット。緘口令がスゴイんですよ。
記者 緘口令ですか? なにかきな臭いですね。知られるとマズイ事があるんでしょうか?
A氏 いや……なんていうか……ぶっちゃけイメージ戦略に関わっているというか……
記者 わぁ、謝礼が倍増しそうな感じですね。お上手。
A氏 え? 増えるんですか?
記者 もちろん。トップシークレット、緘口令がしかれるような事を教えてもらえるのであれば当然お支払しますよ。
― 秘匿事項略 ―
A氏 じゃあお話しますね。
記者 お願いします。
A氏 魔王が美女だって言ったじゃないですか?
記者 はい。とても刺激的な恰好をした美女だと。
A氏 ぶっちゃけこれまでの撃退って、うちの軍は見てただけで勇者が一人で撃退したんですよ。
記者 おおおっ! それはスゴイ! 流石勇者の名を持つだけありますね。
A氏 本当ですね(笑)
記者 どうして笑うのですか?
A氏 いや、だってその撃退って、ぶっちゃけただの『セクハラ』ですよ。
記者 えぇっ!?
A氏 魔王がフレイドロンに来た時だって、延々胸を揉み続けてましたし。
記者 胸……て、そのオッパイですか?
A氏 そ(笑) 揉みも揉んだり4時間。
記者 (絶句)
A氏 勇者と魔王の世紀の対決(笑)
記者 (絶句)
A氏 そんなん油断するっしょ。
記者 ――衝撃ですね……確かに、国軍が油断しても仕方ないかと。
A氏 だからその次に来た時にウチの軍のバカなヤツが勇者より先に突貫したわけです。きっと『俺も揉む~』とか思ってたんでしょう。
記者 で、返り討ち?
A氏 そう。剣圧バーンですよ。焦りました。本当に強いんだもの魔王。
突貫したヤツはアントランダに守られて軽傷で済んだんですけどね。もし魔王襲来後に軍を首になったってヤツが居たらソイツですよ。俺アイツ嫌いだったから、ちょっとザマぁって思いました(笑)
記者 ちょっとAさん(笑) しかし、そんな強い魔王が刀剣を持ってきたのに撃退できた……まさか。
A氏 そう。また勇者のセクハラですよ。お得意の能力でヌルヌルまみれのくんずほぐれず。
記者 くん――(絶句)
A氏 発表できないでしょこんなの?
記者 本当ですね。
A氏 女性の皆さんは勇者を見かけたら気を付けてくださいね(笑)
あ。でも本当に魔王が強いので勇者が便りな面もあるんですよ。人類が束になっても勝てないような空気が漂ってますから。まだ……ね
記者 まだ? ということは、いずれ勝てると?
A氏 えぇ。今はアクアノスと協力し合ってるじゃないですか? そのおかげで魔力の消耗を押さえつつも攻撃力を高める魔法とかも出来て来てるんですよ。
記者 あぁ、私取材しました。水蒸気爆発を利用した魔法ですよね。
A氏 えぇ。それもありますがもちろん他も発展してますよ。なので力が貯えられるまではセクハラ勇者であっても頼るしかないんですよ。
記者 なるほど。
A氏 正直ちょっと羨ましいですけどね。あんな美女とぬるぬるプレイですから――
「ぬがぁああああっ!!」
新聞をバリィっ! と怒り心頭で破る男。
「リョウ落ち着くンス。」
「これが落ち着いていらりよーかぁっ!
なんで魔王ちゃんは俺の所にこないんだぁぁあっ!」
「そりゃあリョウが、『魔王ホイホイ』とか『魔王取り紙』とか作っちゃってるのを見たんじゃないンスか?
一度捕まえたらリョウ魔王を帰す気ないでしょう? ずっとネチネチ攻め続けて自分のモノにするつもりなのに魔王も気付いてるんじゃないンスかね? 遠視の能力あるって言ってたし。」
「そうだったぁあああっ!!」
リョウが悲痛な叫び声を上げるのだった。
--*--*--
「アーたんアーたん! 次、魔王が来たら、俺どうやって責めるべきかな?」
「うーん? ヒデアキには男らしさが足りないと思う。
あと力を見せつけるような積極性? 『頼りになる』っていう面を見せつけたら、メスも反応しやすいんじゃないかなぁ?」
「男らしさ……積極性……なるほど。流石アーたん!
よし! 次は脱ごう!」
もちろん勇者の周りに件の新聞が近づくことはなかった。
ただ、女性は皆さらに勇者から距離を置くようになったのは言うまでもない。
こうして魔王の4度目の襲来を迎えたのだが、魔王は自分で戦わずにモンスターを使役して戦おうとした。
が、結局泣いた。




