13話 困惑の勇者
大変ヤバイ。
調子に乗りすぎた。
「あ、すみません。『ぬるぬる』必要ないですかね? いつでも出しますんで。」
「いえいえ勇者殿、お気遣いなく。」
足早に去っていく兵士。すぐに違う兵士に声をかける。
「メシ出しましょうか?
いやぁなんだか今日は魔力が滾ってて結構出せそうな気がするんですよ。」
「いえいえ勇者殿、お気遣いなく。」
まるで腫れ物に触るような兵士達の対応。
先の会談でリョウと会った事とか魔王を捕まえたことでテンションが上がりすぎて暴走した結果がコレだ。
ぶっちゃけこのまま一人状態が続くと、大変キツい。俺のロンリーハートがブロークンしちゃう。
「あっ! 王様! なんか俺やる事ないですか? いやぁ暇なんですよ。」
「お、おお。勇者殿。なぁに大丈夫じゃよ。勇者が暇な事は良い事じゃ。そのままゆっくり過ごしてくだされ。ハッハッハ。」
大変マズイ。
リョウがいない一人になった今、王様に居丈高にものを言える度胸なんてない。
神官長はなにやらアクアノスの祈祷師長の所に文化交流で行っているらしいし、とにかく話せる人間がいない。
なんというか忙しそうな王や兵士達を見ているとフレイドロン国が国全体を上げて、俺がいなくても大丈夫なように努力を始めた感がヒシヒシと伝わってくる。
これはイケナイ。俺の居場所が無くなってしまう。どうしよう。
いや、まてよ。
俺には居場所があったはずだ!
「アーたーん! みんなが冷たいんだよう。」
「まったくもう。ヒデアキの自業自得なんだから仕方ないじゃないか。」
「そんなぁ~……なんとかしてよう!」
アーたんはまるで子供を見るかのように俺を眺め、そして困ったように大きく息を吐いてから考え始める。
「ん~……だったら国の周辺のモンスターを退治するなりして役に立ってることをアピールするしかないんじゃない? 強いモンスターを退治するのは大変なんだろうけど、アーたん大抵のモンスターならなんとかできるし。」
「流石アーたん! 頼りになるぅ!」
このままではフレイドロン国から敵視され、最悪毒殺や暗殺なんてことにもなりかねないと感じていた俺は、一心不乱にモンスターを料理した。
なぜ料理なのか。もちろん狩るのはアーたんとコピたんだから俺がやる事は料理しかないのだ。
そう! 俺は応援して料理するのが仕事! 皆が頑張って沢山のモンスターを倒せるようにフォローするのが仕事だ! 頑張ってもらう為には夜食だってどんどん食べさせちゃう! もちろん魔法で出した極上品をな!
結果。
リったんがさらに巨大化する進化を、コピたんが4本腕の人型に進化し、俺の戦力が大幅に増強した。
モンスターの駆逐も成果をあげていたのだが、王国には単純に戦力強化の為と思われ、さらに危険視されるのだった。
「……もうヤダ死にたい。」
「よしよし。」
もちろん死にたくないが、そう言いたい気分だった。
こう言えばアーたんが撫でてくれるのだから。
「そういえばヒデアキ。
次に魔王がきたらどうするの? アーたん勝てないよ?」
「あ。忘れてた。」
噂をすれば影。
一人の兵が俺の部屋をノックする。
「え~っと、勇者殿。
国王様からの伝言で、魔王から『明日勇者を仕留めに行く。フレイドロン国の前の砂漠に行くから勇者はそこに来い! 明日がお前の命日だ!』と連絡があったそうです。」
どうしよう。
--*--*--
兵士達が後ろを固め、その前にリったん、コピたん、アーたん。
最前線に俺が配置された砂漠。
一陣の風が吹き、そして空から一筋の閃光が走る。
閃光は俺の前方に落ち、そして舞い上がる砂。
魔王がやってきた。
舞い上がる砂を爆散させ、魔王が姿を表し、すぐに口を開く。
「フッフッフ! 逃げずによく来たなぁ子豚勇者が! 先はよくもひどい目に合わせてくれたな!
だが私はこの一ヶ月考えた! ほぼ落ち込みから回復するのにあててたから考えたのは1日だけだけど! アレはあのヒョロイ勇者の出したネバツクやつがまずかったんだ!
それさえ無ければどうという事は無い! そう! つまり子豚勇者! お前だけならどうとでもなるという事に気が付いたのだ!」
「……ぐぅの音もでないとは、まさにこの事。」
久しぶりに見る挑発的な魔王の肉体。及び腰だったが少しずつやる気が出てくる。
アーたんだけでは勝てなくても、今の俺にはリったんが、コピたんがいる。やれるはずだ。
「フーッフッフッフ! なにやら貴様の戦力も増えているようだが……所詮は完全体3体。
その程度で我を破れると思ったら大間違いだぞ。」
「な、なんだってーっ! 」
「うん。多分ムリ。」
「あ、アーたん!?」
「でもアーたん頑張るよ。ヒデアキ死んだら嫌だし。ね。リったん。コピたん。」
アーたんの呼びかけに、リったんがギャオウと鳴き、コピたんが「当然」と返す。
コピたんは、進化前はYES、Noしか言えなかったが、今は単語をよく使う。基本無口なのだ。侍っぽいのだ。
「みんな……」
3人の思いに触れ、俺は思いを新たにする。
「有難う……みんな。でも俺だって、みんなに死んでほしくないんだ。
俺は弱い。だから俺がもしやられても仕方ないんだ。
だから皆は無理せず……もし俺が死んだらみんなは自由に生きて欲しい。」
「死なせないよ。」
「……アーたん。」
アーたんがすぐにそう言い、俺の中にあった、美女に弄ばれて死んでも仕方ないかもしれないという思いは消えていく。
「そうだよね……みんなで生きてこそだよね。
だったらやる事は一つだ!」
ヌルヌルを魔王めがけて放つ。
「甘いっ! そう何度も食らうか!」
魔王は俺を飛び越す様にジャンプし、俺はヌルヌルを手から放ちながら追う。
結果、上空に放たれたヌルヌルが落下し、全身にびっちょり浴びることになる。
「うわっぷ! うわぁ……ヌルヌルするぅ……」
「ふん。他愛もない。まずは子豚を仕留めてくれよう。」
魔王が地を蹴り猛スピードで俺に迫る。
「ヒデアキっ!」
アーたんが叫び飛び出す。
「ふんっ、遅いわ。」
魔王の放った拳が俺に迫った。
あぁ――もしかしたら死ぬのかな。アーたんよ。幸せにな――
ぬるん。
「「「 えっ? 」」」
魔王の拳は俺の頬を撫でて滑り、勢いのまま魔王の体勢が崩れ俺の身体に当たる。
だが、俺の身体もヌルヌルがびっちょり状態の為さらに滑る。くるんと回転する魔王の身体。勢いのまま頭を地面にぶつけそうで、つい抱きとめようと手が動いた。
ぬるぬる、ぬるんちょ。
もみんぬるぬる。
滑る肌を止めようと魔王のセクシーな黒ビキニを掴む事になり、さらに滑り続けその先にあった大きな膨らみに手がかかる。
『コレは触らなければ!』
そう思った瞬間ヌルヌルの摩擦が手だけ半減し揉む事に成功する。
ぬるもみ ぬるもみ
「おぉ……これは良い物だ……」
つい。声が漏れる。
「い、い、いやぁあああああああっ!!」
魔王の拳が迫る。
だが拳は俺の頬を滑り撫でる。
そして俺は気が付いた。
「こ、これは戦いの中のハプニングだから! わざとじゃないから! わざとじゃないから大丈夫!! ハァハァ!」
いっぱいおっぱい揉んだ。
魔王はまた泣いた。




