11話 魔王降臨
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。
「解いてください。お願いします。
お願いですから解いてください。」
逆に言えば同じレベルの者同士がいた場合、そこに火種が生まれれば、長く続く争いに発展するということではないだろうか。
「魔王たんは俺のモノだっ!」
「魔王ちゃんは俺のモノだっ!」
先ほど固い握手を交わした勇者同士が一触即発の様相。
そして争っていたはずのフレイドロン国王とアクアノス国王が固い握手を交わしている。
どうしてこうなったのか。
時を少しだけ遡る。
--*--*--
「さぁ、終焉を始めよう!」
勇ましく、凛とした美しき魔王。
紅き眼に金色の髪を風にゆらし、自信を感じさせる微笑みを薄く浮かべている。
そして黒ビキニのような扇情的な恰好に負けず劣らずのわがままボディ。
ヒデアキは稲妻に撃たれ身震いするかのような感覚を覚えずにはいられなかった。
「「 ま、魔王なのか? 」」
リョウが同時に声を発しているが、魔王から目を逸らす事は出来ない。
「ふふふ。そうとも我は魔王。
復活してから人間達の様子を探ってみれば、なんとも貧弱過ぎてな。
我が相手をする価値も無く思えガッカリしていたのだが……様子を見ていれば召喚された二人の勇者がなかなか面白い事をしているではないか。魔獣をこの短期間に完全体にまで進化させるなど予想外も予想外よ。
……ただ、ソレが間違いだったな。
このまま放置したのでは少々厄介な事になりそうに思えた。故にその芽を摘みにきたというワケだよ。」
「俺とリョウが狙い……だと?」
「そうとも。ククク、勇者共よ。我の手にかかって永久の眠りにつけることを幸せに思うがよい。」
「はい! 質問です!」
ビシっと手を上げる俺。
「な、なんだ? 子豚勇者。」
意表を突かれたのか若干戸惑いながら俺に声をかけてくる魔王。
子豚て……いや、悪くない。悪くないぞっ! うん!
「『勇者共』って事は俺達。つまり俺ことヤマギシヒデアキと、そこのリョウが狙いだと思うんですけど、どっちが先に魔王たんに狙われるんですか? というか、魔王たんはどっちを狙いたいんですか!」
「た、『たん』て……いや、二人まとめて――」
「いやいやいやいや! だからそういう事じゃなく!
勇者は二人いるわけじゃないですか! どっちの方を魔王ちゃんが狙いたいかって話ですよ!」
リョウが俺の質問に対する魔王の返答を遮り質問を重ねた。
その内容は俺が今まさに言おうと思っていた事そのままだ。コイツこんな美女に1番に狙われる幸福を理解していやがる。流石だ。
「え? えっ? 魔王ちゃん? え? ちょっと意味が……二人まとめてブチ殺すつもりだったんだけど……えっ?」
「いやいやいや、そうは言っても俺達二人ですよ? 勇者二人ですよ? しかも強い魔獣を連れてるんだから、どっちかが先になるでしょう? だから魔王ちゃんが俺ことヤマギシヒデアキと、ひょろいリョウ、どっちをより狙いたいんだ? どっちが好みなんだって話ですよ。さぁ、どっちが好み!?」
要領の得なさに半ギレを返していると、アーたんが袖を引っ張る。
「ねぇヒデアキ。アーたんアレに勝てそうにない。なんかそう感じる。でも頑張るよ。」
「よーしよしよし! アーたんは本当に可愛いなぁ。でも大丈夫だよ無理しなくても。危なくなったらすぐ逃げてね。
なぁに俺なら大丈夫! あの魔王になら嬲られるのも……なんかちょっといいかな? って。ヘヘっ。」
「むー。」
隣ではリョウがトレちんと同じような事を繰り広げている。
アーたんの様子を見て魔王が我に返ったのか少し首を振って口調を普通に戻す。
「ほう……完全体にまでなると我の支配下には置き難いか。折角の完全体、うまく使役できたらと思ったのだがな……
やはり勇者がさらなる進化をさせたり、多くの完全体を増やす前にケリをつけるのが良さそうだ。
アントランダにトレンティガ。お前達は邪魔だ。フフフ、小煩い勇者は後回しにして、まずはお前達から殺してやろう。」
「「 ざっけんなっ! 」」
「えっ?」
魔王の言葉に俺とリョウが反応した。というかブチ切れた。
「「 ウチの子に何するつったぁ? あぁコラァっ! 」」
俺とリョウは同時に即、魔法を放つ。
使用する魔法はお互いもっとも得意な魔法『ぬるぬる』と『ネバネバ』だ。
ぬるぬるとネバネバは一直線に魔王に直進し、そして混じり合い、油断と戸惑いがあった魔王に直撃する。
「えぇっ?」
ヌルヌルとネバネバが合体してできた物体が魔王に当たっている。
『ぬるぬる』と『ネバネバ』が合わさってできた物は混じり合わず、片面がつるつるとよく滑り、もう片面はぬっちゃりとした接着剤のような状態になっていた。つまり接着テープのような物に変化したのだ。
「ちょ、えぇっ!?」
ぬるぬるが芯材のような役割を果たし、魔王がもがけばもがく程に絡みつく。
『ぬるぬる』と『ネバネバ』のテープは次第に魔王は雁字搦めにし、魔王は動けなくなって倒れた。
「うぉぉおおおっ!! 勇者達が魔王を捕えたぁっ!!」
「おおおっ! でかしたぞ! ヒデアキ殿!」
「よくやったぞ! リョウ殿!」
「「「ユ・ウ・シャ! ユ・ウ・シャ! ユ・ウ・シャ!」」」
沸き立つ国王や兵士達。
俺とリョウは魔王に近づいていく。
「おめぇ……ウチのアーたんどうするって言った? ぁっ? もっかい言ってみろよ。コラ。」
「トレちんを殺すとか言ったよな? 間違いなく言ったよな? ちょっと美人だからって調子乗ってんじゃねーぞマジで。」
「え? あ、ちょ、え? 人間を屠るって言った時、怒ってなか――」
「「 ウチの子を、その他大勢と一緒にしてんじゃねーよ! 」」
「「「 えええ…… 」」」
魔王だけでなく、国王達、兵士達もドン引きである。
この後魔王は、少しだけ泣いた。
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魔王から
「魔獣殺すとかいってごめんなさい」
と、反省の弁を引き出してからが問題だった。
両国王が魔王の処刑を求め盛り上がった場で、勇者達が暴走を始める。
というのも、この世界。意外と発展しており人権がしっかり守られている。
国も双方しっかりとした法治国家となっており奴隷などは存在せず女性にセクハラをしても処罰されてしまうのだ。
そこに降って沸いたように現れた何をしても法に触れなさそうな極上美人。勇者2人のテンションが上がらないはずがない。
どっちの勇者も『何をしても良い極上美人』がいるのであればナニをしてみたかった。
そしてソレを言える立場にいる事に、どちらの勇者も気が付いているから性質が悪い。
というわけでの冒頭である。
どちらが魔王を所有するか揉める勇者。もちろん処刑などさせるつもりもない。
両国王は勇者の有用性と魔王の危険度を天秤にかけ、やや有用性の方が大きく傾いている。というのも魔王があまりにあっけなく捕縛されたことも大きい。
眉間にしわを寄せ頭を痛めながら両国王は召喚した勇者の対立を見守る。
そして、どうでもいい事で大局を見誤り、自分の思うままにいがみ合う事の愚かさに気が付き、国王同士はせめて仲良くしようと決めたのだった。
そう。
反面教師がいれば人は気が付けるのだ。
図らずも当初の目的とした事を達成した事に気が付かない両勇者なのだった。
「「 じゃあもう魔王に決めてもらおう! 」」
「おうちに帰してください。お願いします。」




