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4話
祐斗が立ち止まった。冬四郎と颯介も立ち止まり、辺りを見回した。雨のせいでかすかな音を拾うことも気配を探るのも難しかった。
「あそこです…むつさんと寺井が居ます」
冬四郎と颯介には見えないが、祐斗にははっきりと見えているようだった。
「やっぱり、真壁が…それにあの紫陽花、真っ赤なのが咲いてますね」
「谷代君?この雨の中で、そんなに色まではっきり見えるのかい?」
祐斗は、何も答えない。そして、躊躇うことなく歩いていく。冬四郎と颯介は、足場を気にかけながらついていく。
ようやく、ぼんやりと前方が見えてきた頃には、かなり近付いていた。
そこに居る男は、しっかりと大きめの傘をさして立っていた。そして、三人の方に視線を向けていた。