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1話
むつは、湯気のあがる唐揚げを皿に乗せたがまだ手はつけない。タバコをゆっくりと吸っている。
「かなりの人が死んだ。祐斗も下手したら死んでた」
「お前もな。もう怪我は?」
ぎゅっとタバコを揉み消すと、腕を捲ってみせた。白い肌にはまだ、ぽつぽつと噛み痕が残っている。
「消えないのか?」
「かもしれない。わたしはさ、あんたとしろーちゃんを信用したいよ。けど、間接的だとしても私利私欲の手伝いはしたくない」
そう言うと、泡の消えかかったビールをごくごくと半分ほど飲んだ。
「信用しろ」
くっくっく、とおよそ女の子らしくない喉を鳴らすような笑い方をした。そして、残っていたビールを飲み干すと社長にも飲むよう促した。
「ちょっと待った、早い」
「いやいや、来たからにはわたしに付き合って貰わないと。信用してるからね」
にやりと笑うむつに急かされるように社長も、ごくごくと喉を鳴らしてビールを飲み干していく。
「すいませーん、生2つ‼」
社長のジョッキが空くのを待たずにむつは、注文をした。