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1話
特にどの店が良いというのが無かったので、二人はよく利用する焼き鳥やに入った。まだ早い時間だからか、客もまばらでゆっくり出来そうだった。
冷たいおしぼりで社長が、顔を拭いているのをむつが羨ましそうに見ている。曲がりなりにも女の子であるむつは、そんな事、出来ない。
生ビールとむね肉の刺身など、むつが好む物と適当につまみになる物をいくつか注文した。
「さて、と。話でもあるのか?」
店員が遠ざかってから社長は、タバコに火をつけて、嫌そうな顔をした。
「何で、警察辞めたのさ」
二つある灰皿の1つを社長の前に、もう1つを自分の前に置いてから、前置きもなくむつが尋ねた。
「お前らが仕事で相手にしてるモノの存在を知ったから、でいいか?」
店員が生ビールのジョッキを置き、遠ざかっていく。むつと社長は、何も言わずに、かちんっとジョッキをぶつけて簡単な乾杯をして飲んだ。
「みやから聞いてるんだろ?ある程度」
おしぼりで口元を拭ったむつは頷いた。
「利用されてんの?」
テーブルにむね肉の刺身とお遠しの冷奴が運ばれてきた。社長は、どうでも良さそうに冷奴に醤油を垂らしている。