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1話
「そう、だな。そーちゃんは?」
無精髭を撫で、むつを見上げた社長は、パソコンの電源を落とし、椅子にかけてあった上着に袖を通した。
「僕は予定がありますので」
「女かっ‼」
「女だな」
むつと社長が同時に言うと、颯介は慌てて顔の前で手を振った。
「あー女だよ、これは」
「そーちゃんもやるねぇ」
けらけらと笑いながらむつは、颯介に手を振って出ていった。社長もその後を追って外に出た。
朝から降っていた雨は小降りになっているものの、まだ傘が必要そうだ。むつが持っていた傘を広げると、当然のように社長も入ってきた。そして、また当然のようにむつの手から傘を取ると、肩が濡れないように、むつの方に傾けた。
「雨のなのに傘持たないなんて」
「邪魔になるだろう。で、どこか寄っていくか?」
「そう、ねぇ…久しぶりにサシなわけだし、飲もうか」
そう言うと、駅とは反対の繁華街の方に二人で歩き出した。
夕方になり少しばかり気温も下がったのか、雨で湿度が高いのもさほど気にはならなかった。