43/121
2話
むつは、意識せずに1歩下がった。
男はむつが下がった分、ドアの前が空いたので真っ直ぐに歩いてくる。そして鍵を開けるとむつに入るよう促した。
「失礼します」
「どうぞ、散らかってますが…適当におかけください」
むつは、頷くと資料や本が置いてある中、1つ空いていたパイプ椅子に座った。
「コーヒーでいいですか?」
「いえ、お構い無く。聞きたい事があるだけですので、長居はしませんので」
そう言ったものの、真壁は気にした様子もなく簡易キッチンの下小さな冷蔵庫から、市販のペットボトルに入ったコーヒーをグラスに注いだ。
まだ、封を開けていなかったようで、パキッと音がした。その音を聞いて、何故だかむつは安心していた。
「ミルクと砂糖は?」
「いえ…ありがとうございます」
氷の入ったグラスは冷たかった。そのヒンヤリとした感覚が、今のむつを不安にさせていくようだった。
「それで、ご用件は?」
「あの、ここにも飾られている紫陽花の事をお聞きしたいのですが」