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2話
むつは携帯を取り出してもう1度、祐斗にかけてみたが、やはり出なかった。舌打ちをして、ズボンのポケットに携帯を押し込むと、棟を出た。
そして、学生課などの事務所に向かうと、そこで真壁の研究部屋のある場所を確認し向かった。
研究部屋が続く薄暗い廊下には、人の気配は感じられなかった。それ以外の気配は、沢山だがどれも気にする程でもなさそうだった。
真壁と書かれたプレートが、適当な感じに斜めにかかっている部屋のドアの前に立ち、ノックをしようとした時
「ご用ですか?」
驚いたむつは、声のした方から離れつつ振り向いた。そこには昨日、生姜入りの温かい紅茶を出してくれた中年の男が立っていた。
「え、えぇ…真壁先生ですよね?」
「そうですが…どちら様ですか?」
男は、薄い唇にうっすらと笑みを浮かべながら近付いてきた。