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2話
颯介を置き去りにしてきたむつは、研究発表のされている部屋のある棟に真っ直ぐに向かっていた。
昨日よりも確実に、人ではないモノの視線をはっきりと感じられていた。むつは、それに気付かないふりをして部屋に入っていった。
昨日も居た学生がむつに気付き、会釈をしてきたので、むつも笑顔で返す。だが、顔を上げた時にはその笑顔は微塵もなかった。厳しい顔つきで窓辺にある紫陽花の所に向かう。
むつが気になるのか、学生達が然り気無さを装ってむつを見ている。研究発表を見るでもなく、紫陽花の活けてある花瓶を手に取っているのが不思議なようだ。
むつは、花瓶を持ったまま、くるっと振り替えると、むつを見ていた学生達が一斉に視線を反らした。
「ねぇねぇ。これ誰が活けたの?」
「あー誰だろ?」
「真壁先生じゃなかった?」
「真壁先生…か、ありがとっ」
花瓶を元の位置に置いて、むつは部屋から出ていった。学生達は、その後ろ姿をずっと見ていた。




