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2話
「無理な事を言って、すみませんでした。またしてお仕事中でもないのに」
佳澄はそう言うと、冬四郎に頭を下げた。冬四郎は困ったように笑うだけだった。
「…にしても、やぱ真壁センセーのいれる紅茶って美味しいよね」
気まずく思ったのか、佳澄はレモンティーを飲むと祐斗に笑顔を向けた。
「そうだね。紅茶もコーヒーもだけど焼き菓子も美味しいし」
「これって、祐ちゃんたちが作ったんじゃないの?」
「作ったんですけど、レシピとか作り置きの飲み物なんかは、真壁先生が作ったやつなんですよ。趣味らしくて」
祐斗がキッチンの方を振り返り、中年の男が真壁だと言った。
「ふーん?ん?ここにも紫陽花飾ってるんだ。6月だから?」
「や、センセーが好きらしいです」
「そうそう。それに紫陽花には聖霊が宿るとかって言ってましたよ」
むつは、キッチンで作業をしている真壁に視線を向け、ふーんと唸った。