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2話
男二人がそんな会話を繰り広げてい事にも、男子学生の視線が胸に集中している事にも気付かないむつは、ふと窓際に飾られていた紫陽花に目を向けた。
やけに赤味の強い紫陽花だった。
むつは、その紫陽花が気になったのか、しげしげと眺めていた。そして、パッと顔を上げると辺りを見回してそそくさと祐斗と冬四郎の所に戻った。
「どうしたんですか?」
「何か寒気が」
そう言うと、鞄の中に小さく畳んで入れてあったカーディガンを羽織った。
「寒くはないんだけど」
祐斗のTシャツの裾を軽く引っ張った。
「何か…いる気がしない?」
むつが視線を紫陽花の方に向けた。つられて、祐斗と冬四郎も視線を向けたが、冬四郎は勿論の事、祐斗も何も感じなかった。
「気のせい、かな?」
「じゃ、ないっすかね。ねぇ宮前さん」
「そうだな」
少しばかり不安そうなむつの前に立った男二人は、室内に居る男子学生達を睨み付けるように見た。男子学生達はすぐに逃げるように視線を反らした。