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1話
冬に函納市という所に出張に行って以来、特に仕事らしい仕事はなく。
大掛かりにやった事と言えば、事務所の引っ越しくらいだろう。前によろず屋が入っていたビルは老朽化の為、取り壊しが決定し、新しいオフィスへの引っ越しを行ったのだ。
新しい、と言っても新築なわけではない。近くに安くて広い空きのテナントがあったので、そこに移動しただけだ。
だが、移動したおかげで仕事の幅が広がった、と社長である山上は喜んでいた。
ワンフロアを借りられたので、壁とドアのある小部屋を作り、そこで客の話を聞くという。言ってしまえば相談室のような事を始めた。相談と言っても普通の相談事ではないのだが。
専ら、依頼人からの話を聞くのは、むつと颯介だ。祐斗は学生としてしっかり学校に通っているので、事務作業が多い。それでも、小銭が稼げると山上は喜んでいる。
広報担当と称している山上のお陰なのか、ちらほらと2日、3日に1人くらいは来客があった。